WACUL、 TBS HD 完全子会社化1年目の決算公告 ─ 1億円減資・TBSテレビ社長派遣・LLMOピボットが同時に進む

WACUL の上場廃止後1年目の決算公告(2026-06-05)を読み込むと、 当期純損益は +9,306万円から ▲5,526万円へ赤字転落、 同時に資本金1億円化・TBSテレビ社長を含むTBS派遣6名の就任・機関設計の上場仕様解除が一年に重なる。 一方プロダクトはLLMOピボット中。

Compalyze 編集部分析対象株式会社WACUL

この記事のポイント

  • 株式会社WACUL(旧 東証グロース 4173)は 2025-05-29 の TBSホールディングス によるTOB成立で完全子会社化(1株502円・公表前営業日終値268円に+87.31%プレミアム・買付総額約39億円)、 2025-07-01 上場廃止。 上場廃止後初の決算公告(2026-06-05)で 当期純損益が +9,306万円(第15期)→ ▲5,526万円(第16期)へ赤字転落
  • 2026-01-05 に 資本金 5億9,455万円 → 1億円へ大規模減資(▲4億9,455万円)。 法人税法上の中小企業区分(資本金1億円以下)に乗せ直す、 非上場化後の資本政策クリーンアップ
  • 2025-07-28 に TBS 関連の取締役5名+監査役1名が同日就任。 取締役には TBSテレビ代表取締役社長 龍宝正峰氏(非常勤兼任) /TBSテレビ 営業推進センター長 伊藤健二氏(同)が入り、 TBS 生え抜きで TVer/デジタル広告セールスを率いたマーケティング局長 川越洋平氏 が常勤副社長として着任。 同日に機関設計を 監査等委員会設置 → 監査役設置・譲渡制限あり へ全面切替し、 「上場会社仕様」 の機関設計を解除
  • 一方でプロダクト面は前向き。 上場廃止と同日の 2025-07-01 に 「LLMO(生成AI最適化)モニタリングサービス」 β版 を提供開始、 主力 SaaS「AIアナリスト」 も 2025-08/10/2026-01 と生成AI 強化機能を立て続けにリリース、 フリーランス紹介サービス「MarketerAgent」 も拡大。 創業者 大淵亮平氏・垣内勇威氏は代表として継続

本記事の前提
株式会社WACUL の履歴事項全部証明書(2026-06-05取得、 移記なし=設立2010-09-27以降の事項が全部現行謄本に残存)、 決算公告7期、 PR TIMES/prone 計386件、 J-PlatPat、 EDINET(第15期有報まで)、 TBSホールディングス の公開買付届出書・公式リリース、 公開報道を相互参照して構成した分析記事です。 財務数値は決算公告(単体・無連結)ベース。


0. WACUL はどんな会社か(30秒)

WACUL(ワカル)は2010年9月設立、 主力 SaaS「AIアナリスト」 でデジタルマーケティング解析を提供する企業です。 2015年4月の「AIアナリスト」 リリースから登録サイト数を拡大、 2021年2月25日に東証マザーズ(現グロース)上場。 上場後は売上7.1億円(第11期)→ 18.5億円(第15期)と4期で約2.6倍に伸ばしました。

2025-04-10 に TBSホールディングス(東証プライム 9401)がTOBを公表、 5月29日に成立(1株502円、 公表前営業日終値268円に対して+87.31%プレミアム、 買付総額約39億円)、 7月1日に上場廃止。 WACUL 側は TOB に賛同意見を表明しつつ、 応募の判断は株主に委ねる中立スタンスでの意見表明でした。 今回(2026-06-05)公告された第16期決算は、 TBS HD 完全子会社化後の最初の通期決算です。

直近1年の動きを時系列で整理すると:

  • 2025-04-10 TBS HD によるTOB公表
  • 2025-05-29 TOB成立、 親会社・主要株主の異動(TBS HD が100%取得)
  • 2025-07-01 上場廃止、 同日に「LLMO モニタリングサービス」 β版発表
  • 2025-07-28 機関設計を「上場会社仕様」 から「監査役設置・譲渡制限あり」 へ全面切替、 同日 TBS 関連の取締役5名+監査役1名が就任
  • 2026-01-05 資本金 5.94億円 → 1億円 へ大規模減資
  • 2026-02-28 取締役2名辞任
  • 2026-03-01 取締役1名 新任
  • 2026-06-05 第16期決算公告 ─ 当期純損益 ▲5,526万円で赤字転落

「上場廃止1年目」 として読むと、 機関設計の上場仕様解除、 資本金1億円化、 親会社からの役員派遣、 そして赤字転落がきれいに1年の中に並んでいます。 一方でプロダクト面は LLMO(生成AI最適化)への明確なピボットが進んでおり、 後ろ向きの「リセット」 だけでなく前向きな「再起動」 の側面も併存しています。


1. 第16期決算公告(2026-06-05) ─ 黒字9,300万円から赤字5,500万円へ

WACUL 営業収益と当期純損益の推移

事業会社 WACUL の決算公告(単体・無連結)を上場前から追うと、 上場後5期は売上の伸長期、 第16期で初めて赤字に転じています。

営業収益当期純損益公告日区分
第8期 2018/2(非開示)▲2.16億円2018-07-03上場前
第11期 2021/27.12億円+0.84億円2021-05-31上場初年度
第12期 2022/210.87億円+2.26億円2022-05-31上場期
第13期 2023/213.50億円+1.92億円2023-05-31上場期
第14期 2024/218.18億円+2.01億円2024-05-31上場期
第15期 2025/218.49億円+0.93億円2025-05-30上場最終期
第16期 2026/2(非開示)▲0.55億円2026-06-05非上場1年目

第16期の決算公告は損益計算書ではなく貸借対照表と当期純損益のみの開示形式で、 営業収益(売上高)の数字は公告には載っていません。 そのため売上の動きは断定できませんが、 当期純損益は +9,306万円 → ▲5,526万円、 約1.48億円の悪化です。

注意したいのは、 この赤字転落の中身です。 ここまでの分析では損益計算書の詳細が取れず、 内訳を特定できないため断定は避けますが、 上場会社→非上場会社の1年目で起きやすい一過性費用は次のようなものです:

  • TOB・上場廃止関連費用(フィナンシャル・アドバイザー、 法務、 反対株主対応、 株式等売渡請求の手続費用)
  • 監査法人・証券代行・電子提供・SOX 等の上場会社特有のコストが切り替わるまでの二重コスト期間
  • 親会社からの役員派遣に伴う報酬・出向受入の体制構築費用
  • 2026-01-05 の資本金1億円化(後述)の手続コスト

この赤字が一過性のものか、 顧客流出や事業構造の変化を伴うものかは、 第17期(2026年3月〜2027年2月)の決算公告で初めて切り分けが進む見立てです。


2. B/S のスリム化 ─ 総資産▲3億・負債▲3.5億・資本金▲4.4億

WACUL B/S の推移

第16期は損益だけでなく B/S 全体が大きくスリム化しました。

指標第15期(2025/2)第16期(2026/2)増減
総資産22.18億円19.13億円▲3.05億円
純資産13.16億円13.61億円+0.45億円
負債合計9.02億円5.51億円▲3.51億円
資本金5.39億円1.00億円▲4.39億円

純損益が ▲5,526万円なのに純資産が +4,500万円増えているのは、 資本金1億円化に伴う資本剰余金への振替(後述§3 で詳述)や、 新株予約権の行使等の資本取引が間に入っているためと整理できます。 また負債が3.5億円減っており、 借入返済・買掛金圧縮・税金支払いなどの結果として総資産が3億円縮小しています。

「上場会社特有の B/S 膨張要因」 が解消され、 単体事業に必要な規模に絞り込まれていく動きです。


3. 資本金1億円化(2026-01-05) ─ 中小企業区分への乗せ直し

WACUL 資本金タイムライン

履歴事項全部証明書から取れる資本金の動きは次の通りです:

日付資本金出来事
〜 2022-095億3,312万円上場期の標準水準
2023-05 〜 2024-115.34億 〜 5.39億円新株予約権の行使で段階的に増加
2025-04-305億9,455万円TOB 公表(4/10)月末に +560万円。 第2回新株予約権の全部行使に伴う増資
2026-01-051億円▲4億9,455万円の大規模減資

2026-01-05 の減資は単純な「無償減資」 ではなく、 資本準備金・資本剰余金への振替(その他資本剰余金を経由した欠損補填や、 配当原資の確保)として実行されるのが通常で、 純資産総額そのものは大きく動かないように設計されます(B/S 推移と整合します)。

完全子会社化の直後に資本金をぴったり1億円に引き下げるのは、 法人税法上の中小企業区分(資本金1億円以下)に乗せ直すための手筋です。 具体的なメリットは:

  • 外形標準課税の対象外 に戻る(資本金1億円超の法人は事業税の外形標準が課される)
  • 法人税の軽減税率(年800万円までの所得部分が15%)が適用される
  • 交際費の損金算入枠 が拡大される(年800万円までの定額控除)
  • 欠損金の繰戻し還付少額減価償却資産の即時償却(年300万円まで) といった中小企業向け特例が利用可能になる

WACUL は売上規模としては中堅以上ですが、 単体の課税ロジック上は中小企業ベースで運営する選択をしたことになります。 TBS HD グループ全体の連結納税・グループ通算制度の対象として運営することを前提に、 単体の税務効率を高めるという設計が背景にある、 と整理できます。


4. 機関設計の総入替(2025-07-28) ─ 上場会社仕様の完全解除

上場廃止から約1ヶ月後の 2025-07-28、 WACUL は機関設計を一日でほぼ全面的に切り替えました。 履歴事項全部証明書から読み取れる変更は次の通りです:

項目上場期2025-07-28 以降
機関設計監査等委員会設置会社監査役設置会社
重要な業務執行の決定の取締役への委任あり廃止
電子提供措置(株主総会参考書類)設定(2022-09-01〜)廃止
株式譲渡自由(上場会社)譲渡制限設定(取締役会承認制)
公告方法電子公告(自社HP掲載)官報

この5点は全て「上場会社として求められる機関設計」 を「非上場会社の標準フォーマット」 に戻す操作です。 監査等委員会設置会社は会社法上、 ガバナンス強度を高めるための機関設計で上場会社が選びやすいもの、 電子提供措置は2022年改正で上場会社に義務化されたもの、 公告方法の電子公告は HP 経由の即時開示を想定したもの、 株式譲渡制限は完全子会社化後に親会社以外への株式流出を防ぐためのものです。

一日でこれだけの定款変更・機関設計変更を一気通貫で行うのは、 完全子会社化された会社が踏む定石の流れで、 「上場会社を非上場会社にリフォームし切る作業」 そのものです。


5. 親会社からの役員派遣 ─ TBSテレビ社長を非常勤で送り込む統治設計

WACUL 役員交代タイムライン

機関設計の総入替と同日の 2025-07-28、 取締役5名と監査役1名が一斉就任しました。 履歴事項全部証明書と外部報道の照合から、 TBS 関連の派遣と整理できる顔ぶれは次の通りです:

氏名WACUL 役職兼任・出身
龍宝正峰氏取締役(非常勤)TBSテレビ 代表取締役社長(2024-06就任、 元 TVer 代表取締役社長、 1987年 TBS 入社)
伊藤健二氏取締役(非常勤)TBSテレビ 営業推進センター長 兼 営業推進部長(1995年 TBS 入社、 営業局・スポット営業畑)
川越洋平氏取締役副社長(常勤)1995年 東京放送(TBS)入社。 地上波広告(スポット広告/タイム広告)セールス、 関西・九州エリア営業、 営業推進部内勤デスクを経て、 配信(TVer)/デジタル広告のセールス部門長 → マーケティング局長。 2025-07 WACUL 取締役副社長として常勤着任
山内秀樹氏取締役(非常勤)公開情報上の他社役員ヒットなし
木次剛規氏監査役(非常勤)公開情報上の他社役員ヒットなし。 持株会社からの監査ライン派遣の可能性が高い
渡邉真二郎氏取締役(非常勤)2025-07-28 就任、 2026-02-28 辞任(在任約7ヶ月)

同日に 舩木真由美氏(社外取締役)/井出彰氏・吉村貞彦氏・梅本大祐氏(監査等委員) が退任しています。 監査等委員会設置会社が監査役設置会社に切り替わったため、 監査等委員のポストが消滅したことに伴う退任です。

2026年に入っての動きは:

  • 2026-02-28 渡邉真二郎氏(取締役)と竹本祐也氏(取締役、 創業期メンバー)が辞任
  • 2026-03-01 京屋知行氏が取締役(非常勤)就任

代表取締役は 大淵亮平氏(共同創業者・CEO、 2017-12 就任)と垣内勇威氏(共同創業者、 2023-02 代表追加)の2名体制が継続。 創業者の経営権は維持しつつ、 親会社から非常勤6席を入れて統制を効かせる設計です。

注目すべきは TBSテレビの現任代表取締役社長である龍宝正峰氏が WACUL の取締役を非常勤で兼任 している点と、 常勤副社長 川越洋平氏がTBS生え抜き・配信/デジタル広告セールス部門長を経たマーケティング局長 だった点です。 龍宝氏自身が元 TVer 代表取締役社長、 川越氏も TVer/デジタル広告のセールスを率いた経験を持つため、 経営トップから常勤副社長まで「TVer・デジタル広告」 の文脈で一本につながる人選になっています。

子会社管理を担当役員クラスに任せるのではなく、 事業会社のトップ自らがボードに座り、 デジタル広告ラインの責任者を常勤副社長として送り込む配置からは、 TBS HD グループ内で WACUL が「テレビ広告・配信・デジタルマーケティングを接続する戦略的子会社」 として位置づけられている、 という意思が見て取れます。 営業推進センター長の伊藤健二氏(1995年 TBS 入社、 川越氏と同期)が同時に入っているのも、 TBSテレビの広告営業ラインと WACUL のデジタル領域を直結する意図と噛み合います。


6. プロダクトの直近1年 ─ LLMO ピボットと生成AI 機能の連続実装

WACUL PR月次推移

経営・財務の「リセット」 が進む一方で、 プロダクトはむしろ攻めに転じています。 PR TIMES/prone から取れる 386件のリリースを2025年以降で見ると、 大きな3つの動きが見えます。

(a) LLMO(生成AI最適化)への明確なピボット

日付出来事
2025-07-01「LLMOモニタリングサービス」 β版 提供開始 ← 上場廃止と同日リリース
2025-07-22AI Overviews 時代の SEO 対策セミナー配信開始
2025-11-26自社レポート「SEO対策で生成AI対策はできるのか」 ─ 生成AIの回答結果 1,176回比較分析、 検索順位との一致率はわずか12%、 SEO が AI 推薦に直結しない構造を提示

検索流入を主戦場としてきた WACUL が、 「SEO の次のレイヤー= LLMO」 へ事業の軸足を移しつつあるのが見えます。 上場廃止と LLMO β版を同日にリリースしている点は、 ストーリー上の偶然か意図的なメッセージかは不明ですが、 「非上場化を機にプロダクトを次フェーズへ持っていく」 という社内向け・市場向けのシグナル設計として機能しています。

(b) AIアナリストへの生成AI機能の連続実装

主力 SaaS「AIアナリスト」 は登録サイト数 4万を突破(2025-05-12 リリース)し、 生成AI 機能が立て続けに搭載されました:

  • 2025-08-26 サイトレポートデータの現状把握と改善提案を AI が解説
  • 2025-10-15 「リライト要否判定機能」 で施策の優先順位付けを自動化
  • 2026-01-26 サイト改善提案の解説機能を強化、 生成AIで改善加速

(c) 第2の柱「MarketerAgent」 拡大

フリーランス即戦力マーケター紹介サービス「MarketerAgent」 を2025-02 から本格拡充。 2025-03〜2025-07 だけで導入実績リリースが連発(ソースネクスト、 オタフクソース、 エスマット、 Life Style Innovation 等)し、 「SaaS(AIアナリスト)+ 人材紹介(MarketerAgent)+ 実装テンプレ(WACUL × 100 の HubSpot CMS)」 の3軸モデルへ拡張しています。

経営の連続性アピール

  • 2025-07-02 垣内代表が日経BP「エグゼクティブ・アドバイザリー」 に就任(TOB 成立直後)
  • 講演登壇は月3-5本ペースで継続、 垣内代表・松尾取締役の露出は維持
  • 2025-06-18 女性管理職比率21.7%・男性育休取得率2年連続100% を発信し、 DEI 領域の継続性をアピール

赤字転落の決算公告だけを見ると後ろ向きですが、 PR 月次推移の山は 2025年5月(TOB 成立月)以降にむしろ高くなっており、 発信頻度は維持されています。 リリースの中身も「上場廃止」「親会社の意向」 を強調する形ではなく、 プロダクト機能と顧客事例が中心です。


7. 知財はメンテモード ─ 2024-07 以降の新規出願ゼロ

WACUL 知財ポートフォリオ

J-PlatPat で取れる知財は 特許9件・商標5件 と小ぶりです。 直近の動きを見ると:

種別件数最新出願日直近の登録
特許9件2024-07-222025-01-31 登録「データ分析システム及び分類処理方法」
商標5件2022-01-31

2024-07 以降の新規特許出願はゼロ、 商標も 2022-01-31 が最後です。 一方で2024-08(メール提案装置)、 2024-01(ウェブサイト分析システム)、 2025-01(データ分析・分類処理)と、 出願済みの特許が順次登録されています。 直近のリリースである LLMO モニタリング・AIアナリストの生成AI 機能群・MarketerAgent はいずれも、 現時点で対応する新規特許出願が見当たりません。

ソフトウェア SaaS では特許で守るより「機能リリースのスピードと顧客接点」 で守る判断が一般的で、 WACUL もその系譜と整合します。 ただ、 TBS HD グループ入り後にも知財投資が増えていないのは事実で、 「親会社のリソースで知財を強化する」 という選択は今のところ取られていません。 知財戦略の方針が変わるとすれば、 第17期以降の出願動向で確認できる見立てです。


8. グループ構造 ─ TBS HD 100% の単体

WACUL グループ構造

WACUL は連結子会社を持たず、 単体経営で運営されています。 上場会社時代から「単体決算のみ」 を開示してきた構造は、 TBS HD 完全子会社化後も変わっていません。 TBS HD(東証プライム 9401)が株式の100%を保有する完全子会社というシンプルな構造です。


9. 創業から上場、 TOB まで(さらっと)

直近1年の動きが本記事の主題ですが、 背景として創業から上場、 TOB までの流れを短く整理しておきます。

  • 2010-09-27 設立(東京都内)
  • 2015-01 文京区本郷へ本店移転 → 2016-09 千代田区神田小川町へ本店移転(現本店)
  • 2015-04 主力 SaaS「AIアナリスト」 リリース
  • 2017-12 大淵亮平氏(共同創業者)が代表取締役社長に就任
  • 2019-05-28 監査等委員会設置会社へ移行、 会計監査人(トーマツ)設置 ← IPO 準備の機関設計整備
  • 2020-10-31 単元株100株設定・公告方法を電子公告へ・授権株式 2,716万8,000株 ← IPO 直前の整備
  • 2020-11-01 三菱UFJ信託銀行(証券代行部)を株主名簿管理人に設置
  • 2021-02-25 東証マザーズ上場
  • 2022-09-01 電子提供措置 設定(上場会社の義務)
  • 2023-02 垣内勇威氏(共同創業者)が代表取締役に追加就任、 2名代表制へ
  • 2025-02-27 第15期通期業績予想を下方修正
  • 2025-04-10 TBS HD によるTOB公表(1株502円、 買付総額約39億円)
  • 2025-05-29 TOB成立、 親会社・主要株主の異動(TBS HD が100%取得)
  • 2025-07-01 上場廃止(同日に LLMO モニタリングサービス β版発表)
  • 2025-07-28 機関設計総入替+TBS 派遣6名就任
  • 2026-01-05 資本金 5.94億 → 1億円
  • 2026-02-28 渡邉真二郎氏・竹本祐也氏 取締役辞任
  • 2026-03-01 京屋知行氏 取締役就任
  • 2026-06-05 第16期決算公告

上場5期(第11期〜第15期)の通算純利益は約 +7.96億円。 上場会社としてはコンパクトながら連続黒字を維持し、 売上を2.6倍に伸ばした上で、 創業者陣の合意のもと TBS HD への譲渡で出口を切ったことになります。


10. 読みどころ ─ 「リセット期」 として読むか、 「再起動期」 として読むか

第16期の WACUL は、 表面的には「上場会社→非上場会社」 への巻き戻しが進んだ1年です。 機関設計の上場仕様解除、 資本金1億円化、 TBS 派遣役員、 そして赤字転落。 ここまでの要素を重ね合わせると、 「親会社主導でグループ統制下に組み込まれていく単体子会社」 という構図が立ち上がってきます。

ただ、 同じ1年のなかでプロダクトは LLMO へ明確にピボットし、 主力 SaaS の生成AI 機能を連続実装し、 第2の柱として MarketerAgent を拡張しています。 創業者2名が代表を継続し、 垣内代表が日経BPアドバイザリーに就任して対外発信を続けている点も、 単純な「親会社統制」 の像とは別の力学を示しています。

第17期(2026年3月〜2027年2月)で確認できるであろう論点は次の3つです:

  1. 第16期の赤字は一過性か構造的か ─ TOB/上場廃止関連の一過性費用が剥落すれば黒字回帰、 顧客流出や事業構造変化が主因であれば赤字継続。 単体決算公告(営業収益が公告に乗らない形式)では切り分けにくいので、 PR 動向・人員推移・顧客導入事例の継続性から推定することになる
  2. LLMO・生成AI 機能群が事業の柱として育つか ─ AIアナリストの SEO 文脈から LLMO 文脈への移行が、 既存顧客の継続契約を維持しながら新規顧客の獲得につながるか。 第17期の決算公告と PR から間接的に読める
  3. TBS HD グループのテレビ広告データ × WACUL のマーケDX 接続が事業として動き出すか ─ TBSテレビ社長の取締役兼任、 営業推進センター長の派遣という人的配置が、 実際のプロダクト・案件として現れるか。 PR リリースでの共同案件・統合プロダクトの発表が見えるかが指標

「上場 約4年4ヶ月で TBS 入り」 という出口は、 マザーズ上場のスタートアップが選ぶ着地としては珍しくありませんが、 「上場廃止1年目のフルライフサイクル」 を登記事実・決算公告・PR から横断的に読める事例は多くありません。 WACUL の第16期決算公告は、 その意味で読み込み甲斐のある1枚です。


11. 計算方法・データの限界(Methodology)

  • 財務数値はすべて WACUL(単体・無連結)の決算公告ベース。 同社は連結子会社を持たず、 上場期も非上場期も単体決算のみを開示している
  • 第16期決算公告(2026-06-05)は貸借対照表+当期純損益のみの開示形式で、 営業収益(売上高)の数字は公告本文に含まれていない。 そのため第15期と第16期の売上比較は本記事では行わなかった
  • 機関設計変更・役員交代・資本金推移・新株予約権の状況は、 履歴事項全部証明書(2026-06-05 取得、 移記なしで設立2010-09-27以降の事項が全部現行謄本に残存)から取得した。 同社は閉鎖事項証明書が存在しない(移記が発生していないため)
  • TBS 関連の取締役派遣の判定は、 履歴事項全部証明書の役員氏名と TBSグループ各社の公開役員リスト・公開報道・公開された個人経歴情報との突合による。 龍宝正峰氏(TBSテレビ社長)、 伊藤健二氏(TBSテレビ営業推進センター長)、 川越洋平氏(TBS生え抜き・元マーケティング局長)の3名は出自・経歴が公開情報で特定できている。 山内秀樹氏・木次剛規氏・京屋知行氏は他社役員の公開情報にヒットがなく、 TBS グループ部長級からの派遣と推定したが、 公式リリースで確認できているわけではない
  • 「上場廃止と LLMO β版が同日リリース」 という符合は事実関係としては正しいが、 同社の意図的なタイミング設計かどうかは公開情報からは判定できない。 ストーリー上の符合として整理した
  • 2026-01-05 の大規模減資の使途(欠損補填用か配当原資確保用か)の内訳は、 単体決算公告と登記からは確定できない。 非上場化後の中小企業区分への乗せ直しを主目的とした手筋として整理した
  • 出典:履歴事項全部証明書(WACUL 現行、 2026-06-05 取得)/決算公告(単体、 第8期 2018/2 〜 第16期 2026/2)/PR TIMES・prone(株式会社WACUL、 計386件)/J-PlatPat/EDINET(第15期 2025/2 までの有報・四半期報告)/TDnet(上場期および TOB 関連開示)/TBSホールディングス 公開買付届出書・意見表明報告書/WACUL 公式サイト/公開報道(TBS HD 完全子会社化/TBSテレビ社長 龍宝正峰氏/LLMO 関連リリース)

12. ファクトシート

項目内容
商号株式会社WACUL(ワカル)
設立2010年9月27日
本店東京都千代田区神田小川町三丁目26番8号2F
代表者代表取締役:大淵亮平(共同創業者・CEO、 2017-12 就任)/代表取締役:垣内勇威(共同創業者、 2023-02 追加就任)
親会社株式会社TBSホールディングス(東証プライム 9401、 100%保有、 2025-05-29 TOB成立)
決算期2月期
会計監査人有限責任監査法人トーマツ(2025-05-28 重任、 2025-07-28 監査等委員会廃止に伴い会計監査人不要に)
機関設計監査役設置会社(2025-07-28〜、 それ以前は監査等委員会設置会社)
株式譲渡譲渡制限あり(取締役会承認、 2025-07-28 設定)
資本金1億円(2026-01-05〜、 それ以前は5億9,455万円)
直近期当期純損益(第16期、 2026/2)▲5,526万円
直近期総資産(第16期)19.13億円
直近期純資産(第16期)13.61億円
直近期負債合計(第16期)5.51億円
子会社なし(単体経営)
主要事業「AIアナリスト」(マーケティング解析 SaaS、 登録4万サイト超)/「MarketerAgent」(フリーランス即戦力マーケター紹介)/「LLMOモニタリングサービス」(生成AI最適化、 2025-07 β版)/DX コンサルティング

本文で言及した企業