サンスター ─ 「ガム」の会社が、創業家3代目とスイス本社へ橋を架けた年
歯磨き「G・U・M」のサンスターは2007年のMBOで上場をやめ、いまはスイス本社グループの日本中核会社。決算公告11期で純資産は281億→168億円、資本金100億円は不変。2025年に創業家二代目が退任し三代目へ継承、外国籍取締役も加わった世代交代を登記から読む。

歯磨きの「G・U・M(ガム)」で知られるサンスター株式会社(大阪府高槻市)の登記簿を開くと、よく知られたブランドの裏側に、もうひとつの顔が現れる。この会社は2007年に経営陣と従業員による買収(MEBO。一般にはMBOと総称される)で上場をやめ、買収の主体となったスイスのサンスターSAのもと、2009年に本社機能をスイスへ移している。いまの日本のサンスターは、スイスに本社を置く持株会社の傘下で動く日本事業の中核会社だ。
そして2025年、その持株会社の頂点に立ち続けてきた創業家の二代目が、ついに取締役を退いた。代わりに座についたのは、その長女である。歯磨き粉の老舗に見える会社の登記簿は、いま「家業からグローバル企業への世代交代」というドラマの最中にある。
この記事のポイント
- 2007年の経営陣・従業員による買収(MEBO)で上場廃止 → 2008年に株式譲渡制限を設定し資本金100億円へ → 2009年スイスへ本社移転、という非公開化の三段階が登記に残っている
- 日本法人単体の売上高はピーク約619億円(2017年)から474億円へ。純資産は281億円から168億円へ下がり、資本金100億円は一度も動かず、自己資本比率は64%から42%へ
- 2025年に創業家二代目が取締役を退任し「栄誉会長」へ。長女が取締役に就き、外国籍の取締役も加わって、経営体制が一段グローバル化した
1. 1932年の自転車のりから「ガム」へ ─ 二つの設立年
サンスターの始まりは1932年、大阪で生まれた金田兄弟商會にさかのぼる。自転車や履物に使うゴムのりの製造が出発点だった。戦後の1946年、そのチューブ容器の技術を歯磨きに応用し、日本で初めてチューブ入りの練り歯磨きを世に出す。歯磨きの会社の原点に、ゴムと金属チューブの加工技術があるという出自は、いまも登記簿の事業目的に痕跡を残している ── 「チューブ容器および金属製品」「香料、香粧品、洗剤および洗浄器機」といった項目が、歯磨きや化粧品と並んで書き込まれている。
ただし、登記上の「会社成立の年月日」は1950年11月10日だ。創業(1932年)と、いまに続く株式会社としての設立(1950年)の年がずれているのは、老舗ではよくあることで、この記事では公式の創業年を1932年、法人としての設立を1950年として扱う。
事業の現在地は、歯磨きの会社という呼び名ではもう収まらない。オーラルケアの「G・U・M」を世界100以上の市場で展開しつつ、健康食品(健康道場)、美容、さらに接着剤・シーラントなどの化学品や、二輪・四輪向けの精密部品まで手がける。技術の源流であるゴムと金属の加工が、いまも産業向け事業として生きている格好だ。
2. 上場をやめた三段階 ─ 登記に残る非公開化の手順
サンスターは2007年、経営陣と従業員による買収(MEBO)で株式の非公開化に踏み切り、同年に旧・大阪証券取引所での上場を終えた。買収の主体となったのはスイスのサンスターSAで、1株650円の株式公開買付けには過半の株主が応じた。「経営の自由を確保する」ための非公開化として、当時話題になった案件である。
その手続きは、登記簿に手順として刻まれている。
- 2006年7月:指名委員会等設置会社の仕組みを廃止し、監査役設置会社へ戻す。上場企業向けの機関設計を、非公開企業の体制に組み替える動きだ
- 2008年5月:資本金を100億円に。買収後の資本再構成にあたる増資の登記
- 2008年6月:株式の譲渡制限を設定。「株式の取得には取締役会の承認が要る」という、非公開会社であることを示す代表的な定めが入る
- 2009年6月:単元株を1000株に、発行可能株式総数を1億1000万株に整える
上場会社が非公開化するときの典型的な整理が、ほぼ教科書どおりに並んでいる。買収の器となったスイスのサンスターSAのもと、2009年にはグループの本社機能がスイス(ヴォー州エトワ)へ移された。ここから日本のサンスター株式会社は、スイスの持株会社を頂点とするグループの、日本事業を担う中核会社という位置づけになる。
資本金100億円は、この2008年に決まった姿のまま、その後の決算公告11期を通じて一度も動いていない。非公開企業が外から増資を受ける必要はそもそもなく、資本金が固定されていること自体は、独立性とは関係がない。資本をどう動かすかを決めるのは、頂点にいるスイスの持株会社の側にある。
3. 純資産281億→168億 ─ 「厚い帳簿」が薄くなる読み方
決算公告11期(2015〜2025年12月期)の数字を並べると、この会社の体質がよく見える。

まず売上高だ。サンスターは会社法上の大会社にあたり、決算公告に損益計算書の主要項目も載せるため、日本法人単体の売上高を官報からたどれる。売上は2015年の467億円から2017年の約619億円まで伸びたあと、2022年以降は470億円前後へと一段下がった。直近2025年は474億円で、ピークからおよそ2割低い水準にある。ピークから下がった背景は決算公告だけでは特定できないが、国内市場の成熟、商品構成やグループ内取引・海外への機能移管、原材料・為替の影響などが重なった可能性がある。少なくとも、日本法人単体の売上規模はピーク時より一段小さくなっている。

当期純利益は、2016年の45億円を山に、2022〜2023年の6億円台まで落ち込み、2024年に20億円へ戻し、2025年は13億円。原材料・物流費や為替、商品構成、グループ内取引など複数の要因を受ける単体損益には、上下の振れがある。
より目を引くのは、純資産の長期的な目減りだ。2015年に281億円あった純資産は、2025年には168億円まで下がっている。毎年いくらかの利益を出しているのに自己資本が積み上がらないのは、稼いだ分の多くが配当などの形で外へ出ているからだと読むのが自然だ。資本金100億円が動かないまま純資産だけが薄くなっていく形は、稼いだ利益の多くがグループへ流れ、日本側に余剰を厚く残してこなかった結果と読める(配当・剰余金の動きの内訳までは公告からは特定できない)。資本をどう配分するかを最終的に決めるのは、日本のサンスターではなく、頂点のスイス持株会社の側にある。

自己資本比率も、この10年で64%から42%へ下がった。それでも4割を超える水準を保っており、負債が膨らんで経営を圧迫しているというより、自己資本の厚みを抑えつつ事業を回す体質へ移ってきた、という見え方になる。老舗メーカーの「磐石な自己資本」という像から、グループ全体で資本効率を見る運営へと、静かに性格が変わってきた11年だと整理できる。
4. 2025年、創業家二代目が席を降りた
この記事でいちばんの見どころは、決算の数字よりも役員欄にある。
サンスターのトップには長く、創業者の息子である二代目が立ち続けてきた。その二代目が、2025年6月、取締役を退任した。グループからは、60年にわたり会社を率いた功績に対して「栄誉会長」の称号が贈られている。創業家のトップが第一線の役員から退くという、この会社にとって節目の交代だ。
入れ替わりに取締役へ就いたのが、二代目の長女にあたる人物である。1991年に入社し、スイスでのグローバル本社の立ち上げを主導してきた経歴を持つ。創業家が三代目へとバトンを渡しつつ、その三代目が「スイス本社をつくった当事者」であるところに、いまのサンスターの輪郭が出ている。家業の承継と、グループのグローバル化が、同じ一人の人事で重なっている。
同じタイミングで、コーポレートガバナンスや財務に長く携わってきた外国籍の取締役も新たに加わった。日本法人の登記簿にも、2025年7月就任の取締役として外国籍の名が記録されている。会計監査人は PwC Japan 有限責任監査法人で、グローバルな監査法人ネットワークの一員が担う体制だ。創業家が頂点にいる同族経営でありながら、その周りをグローバル基準のガバナンス人材で固めていく ── そういう体制への移行が、登記と公開リリースの両方から読み取れる。
日本法人の現在の代表取締役は、2025年に就いた柴田公生氏である。創業家が「栄誉会長」と取締役という形でグループの象徴と監督に回り、日々の日本事業の執行は専門経営者が担う。家業の顔と、専門経営の手を分ける形が、いまの並びには現れている。
5. 従業員と発信 ─ 研究の会社という横顔
日本法人の規模を、社会保険の加入者数の月次推移で見ると、長く1,170人前後で安定してきたことがわかる。

2026年3月の1,198人から5月には1,080人前後へ、約120人減っている。組織の編成替えや事業の移管といった動きがあった可能性はあるが、登記や公告からその理由までは確定できない。この数字は日本の社会保険ベースの人数で、世界21か国で約4,000人規模というグループ全体の従業員のうち、日本側の中核部分を映したものだ。
発信を見ると、この会社のもう一つの顔がよく出ている。プレスリリースは「G・U・M」や「Ora²」「VO5」「健康道場」といった製品の話だけでなく、歯周病と糖尿病の関連、オーラルフレイル、避難所での口腔ケアといった、大学や自治体・歯科医師会との共同研究・啓発が毎月のように並ぶ。製品を売るメーカーであると同時に、口腔と全身の健康をテーマにした研究機関のような発信を続けているのが、サンスターの色だ。
その厚みは知財にも出ている。

登録済みで商標1,138件、特許721件、意匠225件。ブランドを束ねる商標の多さと、研究に裏打ちされた特許の層の厚みが、長年積み上げてきた老舗らしい資産になっている。
6. 世代交代の先の問い ─ どちらの体制に軸が移るか
サンスターの登記簿は、「歯磨きの会社」という一言ではとらえきれない。ゴムのりから始まった技術の幹、上場をやめてスイスへ本社を移した非公開化の三段階、純資産が静かに薄くなっていく資本政策、そして2025年の創業家二代目の退任と三代目への継承 ── そのどれもが、家業からグローバル企業への移行という一本の線の上に並んでいる。
スイス本社への移転から十数年を経て、創業家の世代交代という節目を迎えた。創業家が頂点に残りつつ、外国籍の取締役とグローバル監査が周りを固め、日本事業の執行は専門経営者が担う。この「同族の象徴」と「グローバルな監督」の二層構造が、世代交代を機にどちらへ重心を移していくのか。次の決算公告で純資産がどう動くか、そして新体制での役員構成がどう固まっていくかが、その答えを少しずつ見せていくはずだ。
計算方法・データについて
- 決算公告の数値は官報に掲載された日本法人単体のもの(2015〜2025年12月期)。サンスターは会社法上の大会社にあたり、決算公告には貸借対照表に加えて損益計算書の主要項目(売上高・当期純利益など)が掲載される。本記事の売上高・純利益はこの単体公告の数値による。本文の「グループ全体で約10.2億スイスフラン規模」はグループの公開報告に基づく参考値で、日本法人単体の数字ではない。
- 自己資本比率・ROE・ROA は決算公告の数値から算出。資本金(100億円)は2008年5月の登記以降、本記事の対象期間を通じて変動なし。
- 知財の件数は、特許庁の整理標準化データを権利者名で名寄せした登録済み分の累計。出願中・権利消滅分は含まない。
- 役員の異動・称号、創業家の世代交代に関する事実は、登記簿(履歴事項全部証明書)と会社の公開リリースを突き合わせて整理した。
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | サンスター株式会社 |
| 本店 | 大阪府高槻市朝日町3番1号 |
| 創業 / 設立 | 1932年(創業)/1950年11月10日(法人設立) |
| 資本金 | 100億円(2008年5月登記以降不変) |
| 決算期 | 12月 |
| 売上高(単体) | 474億円(2025年12月期・日本法人単体/ピークは2017年の約619億円) |
| 発行済株式数 | 1,673万8,565株 |
| 代表取締役 | 柴田公生 |
| 会計監査人 | PwC Japan有限責任監査法人 |
| 上場区分 | 非上場(2007年MBOで上場廃止) |
| 親会社 | スイスの持株会社(グループ本社:スイス・ヴォー州エトワ) |
| 従業員数 | 日本法人 約1,080人(社会保険ベース、2026年)/グループ約4,000人 |
| 主な事業 | オーラルケア(G・U・M ほか)、健康食品・美容、化学品、精密部品 |