1つの住所に4,700社超 ─ 法人登記が集中する住所ランキングと、その4つのタイプ
国税庁の法人番号データを集計。同一住所に登記された会社が最も多いのは丸の内の会計事務所内住所(約4,794社)と渋谷・道玄坂のビル(約4,754社)。ただし集中住所は1種類ではなく、法人種別の構成比から住所貸し・SPC管理住所・外国会社代理などに分かれる。住所貸し型は2022年が転換点で、道玄坂のビルの82%は2020年以降の設立。集中は東京だけでなく大阪・名古屋・福岡にも広がる。

会社の登記簿には、必ず本店所在地が記載される。では、最も多くの会社が登記されている住所には、いったい何社が集まっているのか。Compalyze が国税庁の法人番号データ(登記上存続する全登記法人)を集計したところ、上位には4,700社を超える住所が並んだ。首位は東京・渋谷の道玄坂のビルと、丸の内のある会計事務所内の住所で、いずれも同じ住所に約4,800社が登記されている。
ただし、その住所に何千もの会社が実在するわけではない。そして「登記が集中する住所」は1種類ではない。法人種別(株式会社・合同会社・外国会社など)の構成比を見ると、集中住所はおおむね4つのタイプに分かれる。住所貸し(バーチャルオフィス)、SPC(特別目的会社)の管理住所、外国会社の登記代理、不動産SPCの受け皿だ。いずれも適法な登記住所の使われ方である。
この記事のポイント
- 同一住所に登記された会社が最も多いのは、丸の内の会計事務所内の住所(約4,794社)と渋谷・道玄坂のビル(約4,754社)。上位はほぼ東京都心
- 集中住所は1種類ではなく、法人種別の構成比から大きく4タイプに分かれる(住所貸し/SPC管理住所/外国会社代理/不動産SPC)
- 住所貸し型は株式会社が多数で合同会社は約3割。一方SPCの管理住所は株式会社がほぼ皆無(約6%)で、合同会社+投資事業有限責任組合等が大半
- 住所貸し型は2022年を境に急増。道玄坂のビルに登記された会社の82%は2020年以降の設立
- 集中は東京だけの現象ではなく、大阪・名古屋・福岡・横浜にも同じパターンの住所がある
1. 1つの住所に約4,800社 ── 上位はほぼ東京都心
法人番号データから、本店所在地が同一の会社を数え、建物単位で集計した(同じ建物でも階数や表記の違いで住所が分かれることがあるため、階の表記は合算した)。

上位2つは、丸の内のある会計事務所内の住所(約4,794社)と、渋谷・道玄坂の商業ビル(約4,754社)で、いずれも約4,800社が登記されている。以下、西新宿の商業ビル(約4,116社)、銀座の商業ビル(約3,189社)、神宮前の商業ビル(約2,568社)と続き、上位はほぼ東京都心のビルが占める。大阪・梅田の駅前ビルも約2,037社と上位に入る。
もちろん、これらの住所に何千もの会社が事務所を構えているわけではない。この数は、同じ住所が登記上の「本店所在地」として使われているという現象であって、その場所に実際の執務スペースが数千社分あることを意味しない。
2. 集中住所は1種類ではない ── 4つのタイプ
ランキングを「集中している住所」とひとくくりにすると、本質を見誤る。法人番号データには各社の法人種別が含まれており、その構成比を見ると、集中住所は性格の異なるいくつかのタイプに分かれることがわかる。おおむね次の4タイプだ(どのタイプかは法人種別・設立年・商号パターンからの推定であり、各住所の運営者や個社の実態を確認したものではない。以下は住所を特定せず類型ごとに示す)。
- A:住所貸し型(バーチャルオフィス):都心の商業ビルに数千社が登記されるパターン(渋谷・道玄坂の商業ビルで約4,754社、西新宿・銀座・神宮前の商業ビルなど)。月数千円から都心の住所を登記に使えるサービスで、一人法人や副業法人、スタートアップが適法に利用しているとみられる。
- B:SPC・受け皿型(管理住所):丸の内のある会計事務所内を冠する住所(合算で約4,794社)。不動産や太陽光発電などを証券化するための受け皿会社(SPC)や、ファンドの管理業務を担う住所として使われているとみられる。
- C:外国会社の登記代理:霞が関のあるビルの一室(約1,877社)。登記された会社はすべて外国会社で、その大半が2015年に登記されている。日本に拠点を置く外国会社の登記を一括して取り扱う住所とみられる。
- D:不動産SPCの受け皿:丸の内の別の住所(約1,024社)。登記された会社の99%が株式会社で、商号には不動産の保有・運用を示す名称が目立つことから、不動産を保有・運用する目的の会社(資産流動化や私募ファンドの保有主体など)の受け皿とみられる。
「登記が集中する住所ランキング」は、この性格の異なる住所が混在した地図とみられる。どれが何タイプかは、次の法人種別の構成比からある程度推し量ることができる。
3. 法人種別の構成比が「住所の性格」を映す
集中住所の正体は、そこに登記された会社の法人種別の構成比に表れる。

**住所貸し型(A)**は、株式会社が6割前後を占め、合同会社が3割程度というのが典型だ。道玄坂の商業ビルは株式会社66%・合同会社31%、西新宿の商業ビルは株式会社63%・合同会社34%。世の中の新設法人の構成に近く、業種もばらばらで、一人法人・副業法人・スタートアップが幅広く利用していることがうかがえる。
これに対して**SPC・受け皿型(B)**は、構成比がはっきり異なる。丸の内の会計事務所内住所では、**株式会社はわずか約6%**しかなく、合同会社が約50%、残る約43%は「その他の設立登記法人」(投資事業有限責任組合などを含む種別)だ。証券化やファンドの受け皿として設計される器は、機関設計が軽い合同会社や、ファンドの組成に使う組合形態が中心になる。だからこの住所には、ふつうの事業会社(株式会社)がほとんど現れない。
不動産SPCの受け皿(D)はその逆で、丸の内の別の住所は株式会社が99%。不動産を保有・運用する目的の株式会社(資産流動化や私募ファンドの保有主体など)が、一つの管理住所に集まっているとみられる。そして**外国会社の登記代理(C)**は、構成比が100%外国会社という極端な姿になる。
つまり、件数だけを見れば似たような「集中住所」でも、合同会社・株式会社・その他法人の混ざり方を見れば、それが住所貸しなのか、SPCの受け皿なのか、外国会社の窓口なのかをある程度推し量ることができる。ただしこれはあくまで構成比・設立年・商号パターンからの推定であり、各住所の実際の用途や運営者を確認したものではない。
4. 2022年が転換点 ── 住所貸し型の急増
住所貸し型の集中は、いつ起きたのか。前章の住所貸し型(渋谷・道玄坂の商業ビル)に現在登記されている会社を設立年で並べると、増加の時期がはっきり見える。

設立年別の件数は、2015年14社、2019年114社、2021年184社と緩やかに増えたあと、2022年に460社、2023年814社、2024年798社、2025年872社と一段跳ね上がる。現在この住所に登記されている会社の82%が2020年以降の設立であり、住所貸しによる登記集中はこの数年で急速に進んだ現象だとわかる。背景にはリモートワークや副業法人・小規模法人設立の増加、バーチャルオフィスサービスの普及などが考えられるが、法人番号データだけでは増加の原因までは特定できない。
対照的に、SPC・受け皿型とみられる丸の内の会計事務所内住所は、設立年別件数が毎年300〜400社前後で横ばいだ。証券化やファンドの受け皿は実需に応じて毎年一定数が組成されると考えられ、住所貸し型のような近年の急カーブは描いていない。同じ「集中住所」でも、増え方の形がまったく違う。
5. 東京だけではない ── 地方版の住所貸し
住所貸し型の集中は、東京に限った話ではない。各地方の主要都市にも、同じパターンの住所がある。
- 大阪・梅田の駅前の商業ビル:約2,037社(合同会社35%、2020年以降の設立が82%)
- 名古屋・名駅の商業ビル:約770社(合同会社39%、2020年以降が86%)
- 福岡・天神の商業ビル:約520社(合同会社31%、2020年以降が79%)
- 横浜・北幸の商業ビル:約632社(合同会社39%)
いずれも合同会社比率が3〜4割、設立年の8割前後が2020年以降という、東京の住所貸し型とほぼ同じ姿をしている。都心の住所を低コストで登記に使う動きは、地方の主要都市でも同時に広がっていることがうかがえる。
6. まとめ ── 「集中住所ランキング」は混在した地図
1つの住所に数千社が登記される現象は、会社というものが身軽になった時代を映している。かつて会社をつくるといえば、事務所を借り、看板を掲げるのが当たり前だった。いまは、登記上の住所だけを都心に置き、実体はオンラインで動かす会社が珍しくない。住所貸しサービスの普及と、機関設計や公告実務の負担が軽い合同会社の増加が、この動きと重なっている。
ただし、「登記が集中する住所ランキング」は単一の現象ではない。そこには、低コストで都心の住所を持ちたい一人法人・副業法人の住所貸し(A)、証券化やファンドの受け皿となるSPCの管理住所(B)、外国会社の登記窓口(C)、不動産を保有する株式会社の集積(D)が混ざり合っている。法人種別の構成比という一つの手がかりで、その混在をある程度ほどくことができる。
一方で、住所が同じ会社が数千社にのぼる状況では、住所情報だけから相手の実態を把握することには限界がある。会社の「住所」は、もはやその会社がどこにあるかを必ずしも示さない。登記の集中という現象は、会社と場所の結びつきが緩んでいることの、わかりやすい証拠でもある。
調査概要・この記事のメモ
- データ:国税庁 法人番号公表データに基づき、登記上存続する(登記上の閉鎖が記録されていない)全登記法人を Compalyze が集計(2026年6月時点)。本店所在地の表記が同一の法人を数えた。
- 建物単位の集計:同一建物でも階数・部屋番号や表記の違いで住所が分かれることがあるため、階の表記(「N階」「NF」等)を合算して集計した。それでも表記ゆれにより同一建物が分かれて数えられる場合がある。
- 会社数の意味:登記上の本店所在地としてその住所を用いている会社の数であり、その場所に実際の事務所・従業員が存在することを意味しない。登記上存続していることは、事業活動の実態の有無を意味しない(実態の有無は登記データからは判別できない)。
- タイプの判別:住所貸し(バーチャルオフィス)/SPC管理住所/外国会社代理/不動産SPCの区別は、法人種別(株式会社・合同会社・その他設立登記法人・外国会社)の構成比、設立年の分布、商号パターン、所在地の性質からの推定である。各住所の運営者(どの事業者が住所を提供しているか)は登記データには含まれず、特定していない。個々の会社の実態を確認したものでもない。
- 留意点:本記事は登記住所の集中という現象を示すもので、特定のビルや事業者・そこに登記する会社を問題視するものではない。住所貸しサービスもSPCの登記も、いずれも適法なサービス・仕組みである。