お絵かき講座「パルミー」の10年決算 ─ DeNA・朝日新聞社から凸版グループの子会社へ、優先株もストックオプションも発行しなかった帳簿

イラスト学習「パルミー」の運営会社は2016年にDeNA・朝日新聞社らから調達し、2019年にTOPPANグループのBookLiveが子会社化(親会社の有報では議決権51%)。優先株もSOも発行せず、登記と決算公告から復元した2017年増資時点の推定評価額は約4.3億円。自己資本比率95%・無借金の子会社決算を読む。

Compalyze 編集部分析対象株式会社パルミー

イラスト・マンガの描き方を動画で学ぶオンライン学習サービス「パルミー(Palmie)」は、公開情報では利用者200万人以上・講座200本超をうたう、この分野で名の知られたサービスだ。運営する株式会社パルミーは、スタートアップを紹介する各種メディアにも登場する。ところが、その登記簿をめくっても、スタートアップにつきものの優先株式もストックオプションも一つも出てこない。資本金は2017年6月から9年間、1円も動いていない。

数字だけ見れば「増資に頼らず黒字を続けてきた会社」に見える。だが、それは半分だけの姿だ。この会社は2019年に、電子書籍ストアを運営する BookLive(TOPPANグループ。親会社のTOPPANホールディングスが東証プライムに上場)の子会社になっている。資本金が動かないのも、自己資本が厚いのも、「独立性の証」ではなく「グループの一員になったあとの姿」だ。決算公告7期と登記簿4通を突き合わせると、独立スタートアップから大手グループの子会社へと移りながら、静かに黒字を積み上げてきた10年の帳簿が見えてくる。

この記事のポイント

  • 決算公告7期はすべて黒字。純資産は4,550万円から7.4億円へ、自己資本比率は81%から95%へ(ほぼ無借金)
  • 優先株式もストックオプションも一度も発行していない普通株のみ。登記の増資4回と決算公告の資本準備金から復元すると、2017年6月の増資時点の推定評価額は約4.3億円
  • 2019年にBookLive(TOPPANグループ)が子会社化(取得額は非公表、親会社の有報では議決権51%)。資本金は2017年6月の4,089.9万円以降、9年間据え置き

1. スーパーフラットという名前から始まった

パルミーの登記上の設立は2014年10月14日。ただし、このとき登記された商号は「株式会社パルミー」ではない。株式会社スーパーフラット という別の名前だった。

社名が「パルミー」に変わったのは2016年6月1日。同じ月、当時のスーパーフラットは、DeNA・朝日新聞社・Vilingベンチャーパートナーズを引受先とする第三者割当増資を実施したと発表している。この顔ぶれには縁がある。パルミーは前年に朝日新聞社メディアラボのアクセラレータープログラムに参加して修了しており、朝日の出資はその延長とみられる。DeNAの出資も、創業者がDeNA出身で、前職のつながりがあったと報じられている。サービス名「Palmie」を会社の名前に引き上げ、縁のある事業会社とメディアを株主に迎えた ── 名前と資本を同時に切り替えた節目だった。

商標の取得時期も、この切り替えをなぞっている。設立直後の2014年12月にスーパーフラット名義で「Palmie」の商標を出願し、社名変更後の2021年に改めてパルミー名義で「パルミー」「PalMie」を取り直している。名前が事業の看板として固まっていく過程が、登記と商標の両方に残っている。

資本金の積み上がり方も見ておきたい。設立時の資本金は100万円(普通株式1万株)。そこから2017年までに4回の増資を重ねている。

効力資本金発行済株式数1株あたり資本組入額
2014年10月(設立)100万円1万株
2014年12月700.3万円1万1,750株3,430円
2015年5月740.9万円1万1,808株7,000円
2016年5月2,140.0万円1万3,054株11,229円
2017年6月4,089.9万円1万4,354株15,000円

パルミーの資本金の推移(Compalyze Journal)

1株あたりの資本組入額は3,430円から15,000円へと回を追って上がっている(ここで見えるのは資本金への組入額であって、1株あたりの実際の払込価額そのものではない)。2016年5月の増資は、翌月に発表された調達の時期とちょうど重なる。

そして、この表の一番下 ── 2017年6月に4,089.9万円(14,354株)へ届いたところで、資本金の動きは止まる。以降、現在までの帳簿に増資も減資も出てこない。ここが、この会社の資本の物語の折り返し地点になる。

この増資からは、会社全体の評価額も復元できる。スタートアップの増資では、払い込まれたお金の半分を資本金に、残りを資本準備金に入れるのが通例だ。パルミーの決算公告は、まさにその形になっている。2020年3月期の貸借対照表には、資本金40,899千円とほぼ同額の資本準備金39,493千円が並んでいる。設立後に資本金が増えた分(約3,990万円)と資本準備金(約3,949万円)がほとんど一致することから、各回の増資は払込の半分ずつを資本金と資本準備金に振り分けていたと分かる。つまり、1株あたりの実際の払込額は、資本金への組入額のおよそ2倍になる。

この払込単価に各時点の株式数を掛けると、会社全体の推定評価額(上場企業でいう時価総額に相当する、登記と決算公告からの独自試算)は、2014年末の約0.8億円から、増資のたびに1.7億円、2.9億円と上がり、最後の2017年6月の増資の時点で約4.3億円になる。新株予約権も種類株もないので、この株式数がそのまま全体の株数だ。ただしこれは2017年の増資時点の目安であって、2年後にBookLiveが払った取得額(非公表)でも、いまの企業価値でもない。子会社になる前のパルミーは、株式の世界で4億円規模の会社として値がついていた、ということになる。

パルミーの推定評価額の推移(Compalyze Journal)


2. 2019年、凸版グループの一員になる

2017年を最後に資本が動かなくなった理由は、登記のもう少し先にある。2019年10月1日、電子書籍ストアを運営するBookLiveが、パルミーの株式譲渡契約を締結して子会社化した。BookLiveは凸版印刷(現・TOPPANグループ)の傘下企業だ。取得額は公表されていない。親会社の有価証券報告書の関係会社の状況を見ると、翌2020年3月末の時点でBookLiveの議決権の持ち分は過半にあたる51%で、全株を握ったわけではない。創業から5年で、パルミーは独立スタートアップから大手グループのコンテンツ事業の一員へと立場を変えた。全株ではなく過半という持ち方からは、旧来の株主の一部が株式を残す資本構成だったとみられる。

ここで押さえておきたいのは、BookLiveがなぜイラスト学習サービスを傘下に置いたか、という接続の向きだ。BookLiveは、できあがった作品を読者に届ける電子書籍・マンガの配信側にいる。パルミーは、その作品を生み出す描き手を育てる学習側にいる。読み手のプラットフォームを持つグループが、描き手を育てる場を取り込んだ ── 完成品の流通と、描き手の裾野の両側をグループの中に抱える形になる。子会社化の狙いとしてBookLiveが挙げたのも「コンテンツビジネスにおける新しい価値の創出」だった。ただし、TOPPANグループ全体の中でこの学習サービスがどれだけの戦略的な重みを持つのかまでは、公開されている情報からは測りにくい。

BookLiveがコンテンツの周辺を広げていくのは、パルミーが最初ではない。電子書籍の配信そのものから外へ出る動きは、2017年のマンガ出版社の傘下入りに始まっている。ただ、そちらが作品を「作って世に出す」側だったのに対し、「描き手を育てる」教育の領域に踏み込んだのはパルミーが早い。BookLiveはその後、2022年にクリエイター向けのプラットフォームを自ら立ち上げ、2023年にもマンガ制作会社を傘下に加えている。並べてみると、パルミーの子会社化は、読み手の側にいた会社が描き手の育成にまで手を伸ばした、その早い一歩にあたる。

もっとも、そこから先がどれだけ噛み合ったかは、外からは見えにくい。公開情報で確認できる両社の直接の連携は、2022年にパルミーの長期プラン契約者へBookLiveのポイントを配った販促キャンペーンにとどまる。パルミーで学んだ人がBookLiveで作品を出す、という育成から流通までの一本道が敷かれたのかどうかは、公表資料からはたどれない。描き手の入口は手に入れた。その先でどこまで束ねられたかは、いまのところ外から検証できる材料が限られる。

この立ち位置を頭に入れると、次章で見る決算の読み方が変わる。パルミーの帳簿は、単独で走る会社のものではなく、凸版グループのコンテンツ戦略の一区画としての帳簿だからだ。資本金を動かすかどうか、利益をどう扱うか ── その判断の主体は、パルミー単体ではなく親会社の側にある。


3. 子会社になってから積み上がった帳簿

パルミーの決算公告がデータとして残るのは2020年3月期から。つまり、公告で追える数字はほぼすべて「BookLive傘下に入ったあと」のものだ。その7期を並べると、稼ぎと自己資本の両方が右肩上がりで積み上がっている。

パルミーの総資産の内訳と自己資本比率の推移(Compalyze Journal)

純資産は4,550万円(2020年3月期)から7.42億円(2026年3月期)へと6期で16倍に膨らんだ。総資産は7.79億円まで伸びる一方、負債は3,730万円まで縮み、自己資本比率は81%から95%へ。借入にほとんど頼らず、稼いだ利益を自己資本に積み増してきた体質だ。決算公告7期はいずれも黒字で、赤字の期は一度もない。

ここで、冒頭の「資本金が9年動かない」に戻る。子会社の視点で読み直すと、その意味ははっきりする。グループの一員であれば、外部から新たに増資を受ける必要がそもそもない。資本金が動かないこと自体は、独立性でも自力の強さでもなく、追加の資本注入なしに黒字を続けてきた結果だ。純資産の厚みも、親会社が利益を配当で大きく引き出さず、内部留保として残すことを許してきた、という資本政策の側から見るのが正確だろう。

一つ、慎重に触れておきたい動きがある。2020年から2023年3月期にかけては、純資産の増加額がその期の純利益とほぼ一円単位で一致していた ── 利益を外に出さず、まるごと積み増していたということだ。ところが2024年3月期以降は、純資産の増え方が純利益をやや下回るようになる。たとえば2026年3月期は、純利益1.02億円に対して純資産の増加は7,459万円で、差が2,785万円ある。利益の一部が社外に出た(配当などの利益処分があった)可能性を示す動きだが、決算公告に載るのは純資産と純利益だけで、その差が配当なのかどうかまでは公告からは確認できない。子会社が親会社へ配当を始めた、という読み筋はありうるが、ここは断定せずに留めておく。


4. 稼ぐ力のピークと、生成AIの時代

積み上がる帳簿の裏で、もう一つの動きが進んでいる。稼ぐ力のピークアウトだ。

パルミーの純利益とROEの推移(Compalyze Journal)

純利益は374万円(2020年3月期)から一気に伸び、2024年3月期の1.67億円で頂点を打つ。だがそこから2025年3月期1.39億円、2026年3月期1.02億円と、直近2期は減速している。自己資本利益率(ROE)はもっと早く、2021年3月期の64.5%をピークに、直近は13.8%まで下がっている。ROEの低下には、分母である純資産が厚くなったこと自体も効いているが、直近の利益減はそれとは別の話だ。

なぜ利益が落ちたのか ── ここは踏み込みすぎないほうがいい。パルミーの決算公告には売上高も費用の内訳も載らないため、純利益が減った理由を数字から特定することはできない。学習領域を広げるための先行投資かもしれないし、集客コストの変化かもしれないし、グループ内での費用のやり取りが影響しているのかもしれない。公告の数字だけで「これが原因だ」と一つに絞るのは無理がある。

そのうえで、業績が落ちた原因という話とは切り離して、事業環境として一つ確かなことがある。イラスト学習サービスは、画像生成AIが「描く」という行為そのものを揺さぶる時代に置かれている。人が描く技術を教えるサービスにとって、これは追い風にも逆風にもなりうる変化だ。パルミー自身の立ち位置は、公開されている運用に表れている。11周年を記念したイラストコンテストの応募規約では、画像生成AIの使用を明示的に禁じている。人が手で描く技術を学ぶ、という軸足を守る姿勢だ。稼ぐ力の再加速が、この軸足の上で描けるかどうかが、これからの帳簿に映ることになる。

サービスの広げ方も見えている。2022年4月には、WEBデザインを学ぶ「rimomo」を新たに立ち上げた。イラストで培った動画学習の仕組みを、隣接するクリエイティブ領域へ横に広げる動きだ。月謝制で講座が見放題というパルミーのモデルを、別の学習テーマに移し替えられるかを試す場になっている。これが収益や費用にどう効いているかも、やはり公告の数字からはうかがえない。


5. 創業者から、グループの経営体制へ

10年の節目には、経営そのものの世代交代もあった。設立以来の代表取締役だった創業者は、2023年5月31日に代表取締役・取締役をともに退任し、登記の上から姿を消している。創業者が席を降りたのは、9期目にあたる2023年3月期 ── 純資産が4億円を超えて締まった期の、決算を出し終えた直後だった。

現在の代表取締役は大野英紀氏。大野氏は親会社BookLiveの取締役を兼務している。創業者が去り、グループ側の経営者が舵を取る体制へと切り替わったことになる。

機関設計の整備は、もう少し前から進んでいた。2019年9月、子会社化の直前に、取締役会設置会社と監査役設置会社への移行を同時に登記している。株式の譲渡を承認する機関も、代表取締役の一存から取締役会の決議へと切り替えた。ガバナンスの形を、少人数のスタートアップのものから、組織として意思決定する会社のものへ整えたタイミングだ。ただし、上場企業に求められる会計監査人の設置までは登記に出てこない。取締役会と監査役までは整えつつ、その先の段階には進んでいない ── グループ子会社としての、いまの立ち位置に見合った機関設計といえる。


6. 読み手と描き手を、両側で持つということ

パルミーの帳簿を通して見えるのは、一つの小さな会社が10年かけてたどった立場の移り変わりだ。スーパーフラットという名前で始まり、事業会社とメディアから資本を受けてパルミーになり、電子書籍のグループの子会社として黒字を積み上げてきた。優先株もストックオプションも使わず、普通株式だけで通してきた。少なくとも登記の上では、種類株式やストックオプションを積み重ねていく資本政策はとっていない。

そして2019年以降のパルミーは、単独で成長を測る会社ではなくなっている。読者に作品を届けるBookLiveと、その作品を生む描き手を育てるパルミー ── 完成品の流通と描き手の裾野を、TOPPANグループが両側で持つ構図の一角だ。次に問われるのは、直近2期でいったん落ちた稼ぐ力を、生成AIが「描く」を揺さぶる時代に、もう一度上向かせられるか。それは、パルミー単体の決算というより、描き手を育てる場をグループがどう位置づけ直すか、という問いでもある。次の決算公告は、その答えの最初の一枚になる。


計算方法・データについて

  • 財務数値は決算公告(官報)の2020年3月期〜2026年3月期。決算公告は貸借対照表の要旨と当期純利益が中心で、売上高・営業利益・費用の内訳は開示対象外のため、本記事では純利益・純資産・自己資本比率をもとに整理している。
  • 自己資本比率は「純資産 ÷ 総資産」、ROEは「当期純利益 ÷ 期末純資産」で試算(いずれも単体・各期末時点。期中平均自己資本を用いる一般的なROEとは異なる簡易試算)。
  • 資本金・発行済株式数・商号・本店・役員・機関設計は登記簿(履歴事項全部証明書および閉鎖事項証明書、2026年7月時点)に基づく。管轄をまたぐ本店移転で登記簿が複数に分かれているため、設立から現在までを突き合わせて復元した。資本金は登記上40,899,834円で、決算公告の「40,899千円」は千円単位表示によるもの。
  • 種類株式(優先株式)および新株予約権(ストックオプション)は、登記簿のいずれの区にも記載が確認できなかった。各増資の引受先や1株あたりの正確な払込価額は登記からは特定できない。
  • 推定評価額は、決算公告の貸借対照表に資本金(40,899千円)とほぼ同額の資本準備金(39,493千円)が計上されており、各増資が払込の半分ずつを資本金と資本準備金に振り分けている(会社法第445条の半額組入)ことから、「1株あたり資本金組入額 × 2」を1株の払込単価とみなし、各時点の全株式数を掛けて試算した。新株予約権・種類株がないため全株式数は発行済株式数に等しい。資本準備金は第6期〜第12期を通じて39,493千円で変動なく、増資後の減資や資本準備金の資本組入は確認されない。
  • BookLiveの議決権の持ち分51%は、親会社TOPPANホールディングス(旧・凸版印刷)の有価証券報告書「関係会社の状況」の2020年3月末時点の記載による(取得時点の比率とは限らない)。取得価額は開示されていない。
  • 2024年3月期以降の「純資産の増加額 < 当期純利益」については、利益処分(配当等)の存在を示唆する動きとして記載したが、配当かどうかは決算公告だけでは確認できない。

ファクトシート

  • 商号: 株式会社パルミー(旧商号: 株式会社スーパーフラット、2016年6月変更)
  • 設立: 2014年10月14日
  • 本店: 東京都港区
  • 代表取締役: 大野英紀
  • 決算期: 3月
  • 事業: イラスト・マンガ学習「パルミー(Palmie)」、WEBデザイン学習「rimomo」の運営
  • 資本構成: BookLive(TOPPANグループ)の子会社(2019年10月、議決権51%取得)

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