プレスリリースを出す士業、出さない士業 ─ 1万4,000法人×2,825件を数えてわかった「発信の偏り」
8士業1万4,680法人とPR TIMES等の公開プレスリリース2,825件を全件突合。プレス配信の経験があるのは283法人(1.9%)で、普及率は弁護士法人5.4%から土地家屋調査士法人0%まで業種で大差。上位3法人で27%の超集中、5年で5倍の急増の中身までを数えた。

この記事のポイント
- 8つの士業法人 計1万4,680法人のうち、プレスリリースを1件でも出したことがあるのは 283法人(1.9%) 。普及率は弁護士法人の5.4%から土地家屋調査士法人の0%(639法人中ゼロ)まで、業種で4倍以上の開きがある
- 発信は超集中。 上位3法人だけで全2,825件の27% を占め、最多の弁護士法人は1法人で343件
- 件数はコロナ初年(2020年)に倍増し、2025年は過去最多の699件と 5年で5倍 。ただし「急増した士業」の中身を割ると、実は2法人が広報を始めただけ──という集計の罠も見つかった
本記事の前提 法人名に「税理士法人」「弁護士法人」「監査法人」など8つの士業法人格を含む存続法人 1万4,680法人と、公開プレスリリース 2,825件(2005年〜2026年6月)、社会保険の被保険者数を突合した Compalyze 独自集計です。 ここでいう「発信」は、Compalyze が収集する PR TIMES 等の公開プレスリリースに限ります。自社サイトのお知らせ、SNS、メルマガ、セミナーページのみでの発信は含みません ──「広報活動をしている士業が1.9%」ではなく「プレス配信という手段を使ったことがある士業が1.9%」とお読みください。その他の定義と限界は記事末尾の Methodology を参照。
1. 発信する士業はどこにいるか ─ 普及率は弁護士5.4%、調査士0%
「士業もこれからは発信の時代」と言われて久しい。では実際に、どれだけの士業法人がプレスリリースを出しているのか。全部数えてみると、答えは「ほとんど出していない。ただし偏って」だった。

普及率トップは 弁護士法人の5.4% (1,912法人中104)。監査法人の4.5%がそれに続き、税理士・社労士・司法書士・行政書士・弁理士は1%台で横並びになる。そして 土地家屋調査士法人は639法人中ゼロ ──1件も確認できなかった。
この並び順は、各士業の「客の取り方」とそのまま重なる。弁護士は債務整理・交通事故・相続など、依頼者が一生に一度しか発生しないBtoC案件を広告と発信で奪い合う業種だ。一方、土地家屋調査士の仕事は不動産登記に伴う測量・表示登記で、司法書士や不動産業者からの紹介で回る。 発信の普及率は、その士業が「紹介経済」で食えているかどうかの裏返し と読める。
2. 誰が出しているか ─ 上位3法人で27%。1位は年間100本ペースの「ウェビナー工場」

発信は業種内でも極端に偏る。2,825件のうち、 上位3法人だけで27% 。すそ野の283法人のうち大半は累計数件で、「業界の習慣」と呼べるものはまだ存在しない。発信は、ごく少数の事務所の経営戦略である。
最多の弁護士法人Authense法律事務所(343件)の中身を分類すると、突出して多いのが セミナー・ウェビナーの告知で127件 。企業法務・人事労務・情報管理といったテーマで週次に近いペースの開催を続けており、構図は法律事務所というよりBtoB SaaS企業のリード獲得装置に近い。広告で「困った個人」を待つのではなく、ウェビナーで「まだ困っていない企業」を育てる──伝統的な士業マーケティングとの違いがいちばん鮮やかに出ている事務所だ。
2位の辻・本郷税理士法人(224件)は職員1,800名規模の業界最大手で、こちらもセミナー告知と拠点開設が柱。3位の弁護士法人(207件)は相続分野の発信に特化している。
3. 何を出しているか ─ どの士業も最大勢力は「ウェビナー」

タイトルをキーワードで分類すると、 主要士業のすべてで「セミナー・ウェビナー」が最大勢力 だった(税理士36%、行政書士28%、社労士27%、弁護士25%)。士業のプレスリリースは新サービスの発表の場である以上に、「見込み客を集める集客装置」として使われている。
業種ごとの色も出る。社労士はサービス・ツール系が13%と相対的に厚く、勤怠・労務管理のソフトウェアを自ら売る「士業のSaaSベンダー化」がうかがえる。司法書士だけは型が違い、セミナーは14%にとどまる代わりに書籍・メディア・サービス系が並ぶ──相続・終活という高齢の依頼者層に、ウェビナーが効きにくいことの裏返しだろう。
4. いつから増えたか ─ コロナで点火、5年で5倍。ただし「急増」の中身に罠がある

年次で見ると、転換点は明確に2020年。対面の営業と紹介が止まったコロナ初年に件数は前年の67件から139件へ倍増し、以後は一度も減らずに2025年の699件まで 5年で5倍 になった。
ただし、この手の集計には罠がある。司法書士法人は2024年の4件から2025年の59件へ「15倍に急増」した──と書くと業界の地殻変動に見えるが、中身を割ると司法書士法人永田町事務所の30件とグリーン司法書士法人の20件で大半を占める。 業界の変化に見えたものは、実際には2つの事務所が広報を始めただけ だった。母数が小さい業種の「◯倍」は、いつも個社の意思決定の影である。
5. 規模との関係 ─ 職員301名以上の士業法人は、半分が発信している

社会保険の被保険者数で輪切りにすると、発信率は規模にきれいに比例する。職員10名以下では1.2%、31〜100名で8.8%、101〜300名で19.4%、そして 301名以上の24法人では50.0% 。広報の専任を置ける規模になると、発信は一気に「やるのが普通」側に倒れる。発信が法人を大きくしたのか、大きくなったから発信できるのか──順序はおそらく後者が主で、プレスリリースは成長の原因というより、組織化に成功した士業法人の到達点として現れている。
なお地理的には東京都が2,179件と全体の77%を占め、発信文化はほぼ首都圏の現象である。
6. 発信の偏りは、ビジネスモデルの偏りそのもの
2,825件を数え終えて残るのは、士業のプレスリリースが「広報」という一枚岩の現象ではない、という感触だ。BtoCの獲得競争を戦う弁護士はウェビナーと拠点開設を打ち続け、最大手の税理士法人は教育コンテンツを量産し、社労士はツールベンダーの顔で発信する。そして紹介で完結する士業は、639法人がそろって沈黙したままでも商売が成り立っている。
発信量の地図は、そのまま「どの士業が、誰から、どうやって仕事を取っているか」の地図である。逆に言えば、この地図が動くとき──沈黙していた士業が発信を始めるとき、それはその業種の客の取り方が変わり始めた合図だ。2024年に4件だった司法書士が翌年59件になったように、最初の変化はいつも、たった1〜2法人の決断として現れる。
7. 計算方法・データの限界(Methodology)
- 対象法人 :法人名に「税理士法人」「社会保険労務士法人」「弁護士法人」「司法書士法人」「行政書士法人」「監査法人」「弁理士法人(特許業務法人を含む)」「土地家屋調査士法人」を含む存続法人 1万4,680法人(2026年6月時点)。複数の士業名を含む場合は先に一致した法人格に分類
- プレスリリース :当社が収集する公開プレスリリース(PR TIMES等)2,825件。配信サービスを使わない自社サイトのみの発信は含まれないため、実際の発信法人はこれより多い可能性がある
- テーマ分類 :タイトルのキーワードによる機械分類(優先順位つき)。約4割が「その他」に残る粗い分類であり、構成比は傾向の把握にとどめてほしい
- 規模 :厚生労働省 社会保険適用事業所の被保険者数。法人単位の名寄せのため、グループで複数法人に分かれる事務所は実態より小さく出ることがある
- 2026年 :6月12日までの集計途中のため年次グラフから除外した
本文で言及した企業