官公庁の電気を最も多く落札した再エネ新電力、ゼロワットパワーとは何者か
政府電子調達(GEPS)掲載ベースで官公庁向け電気供給の落札を集計すると、2015年設立の再エネ新電力ゼロワットパワーが764件・315億円で単独首位。価格で勝つ強さと市況に振られる決算、再エネの看板と火力が同居する現実までを登記・公告で描く。

この記事のポイント
- 政府電子調達(GEPS)で「官公庁向け電気供給」 の落札を集計すると、 2015年設立の再エネ新電力 ゼロワットパワー が 764件で単独首位(金額も315億円で首位)。 大手電力が地域ごとに各社で分担するなか、 1社で突き抜けている
- 勝ち方は思想ではなく 価格。 落札のほぼ全件が 一般競争入札・最低価格。 自社・調達電源(公表ベースで計230MW)と再エネ調達網を武器に、 官公庁の脱炭素・コスト両面の要請に応えてきた
- ただし安定性は別問題。 当期純利益は60.7億円から翌期▲17.7億円の赤字へ(官報決算公告で確認)。 卸電力市況で業績が激しく振れる
- 「再エネ100%の優等生」 という単純な像ではない。 排出係数は事業拡大とともに上昇し、 新規の大型電源はLNG火力 ── 再エネを掲げつつ火力も持つ、 現実的な新電力の姿が見える
本記事の前提
政府電子調達(GEPS/調達ポータル)の落札データ、 官報決算公告、 登記、 各社公開情報をもとに、 Compalyze 独自集計でまとめた分析記事です。 GEPS掲載ベースであり、 応札者数・予定価格・落札率は持たないため、 「価格で勝っている」 とは言えても他社との価格差や勝率は判断していません。 財務は官報決算公告(貸借対照表の要旨)に基づきます。 株主構成は登記事項ではなく、 公開情報では確認できていません。 詳細は §8 に記載します。
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1. ランキングの中にいた、 異質な1社
GEPSの落札データで「官公庁向け電気供給」(庁舎などで使う電気の調達、 市場全体で約7,300件)を集計すると、 1社が突出します。 ゼロワットパワー ── 764件で落札件数トップ、 金額も315億円で首位です。

注目すべきは顔ぶれです。 ランキングには四国電力、 関西電力、 中部電力ミライズ、 東京電力エナジーパートナーといった大手電力が並びます。 ただし大手電力は 地域ごとに事業会社が分かれているため、 1社あたりの件数は限られます。 そのなかで、 2015年設立・千葉県柏市の無名の新電力が、 全国の官公庁の電気を最も多く落札している ── これがこの記事の出発点です。
2. 何を売っている会社か ─ 再エネ特化の「電力プラットフォーム」
ゼロワットパワーは2015年3月設立。 代表取締役の佐藤和彦氏は、 商社勤務を経て2012年に新電力会社へ入り、 電源開発・電力調達・発電所建設に携わった後、 2015年に独立した 電力調達のプロ です。 社名には「CO₂排出ゼロの発電を目指す」 という意味が込められています。
事業は小売電気にとどまりません。 発電事業、 地域新電力支援、 脱炭素コンサルティング まで持つ垂直統合型で、 同社公表ベースで自社・調達を合わせ 合計230MWの発電所 を擁します。 電源は太陽光・風力・水力・バイオマスが中心で、 スーパーなどの 廃食用油を燃料にしたバイオマス発電 にも力を入れています。
登記を見ると、 同社の性格がさらに見えてきます。 登記上の資本金は550万円のまま据え置き、 新株予約権も種類株式もありません。 大型のベンチャーキャピタル調達を受けた痕跡がなく、 公開情報の範囲では大手電力や総合商社の傘下とも確認されません。 外部資本調達の痕跡は登記からは見られません(株主構成は公開情報では確認できていません)。
3. どう勝っているか ─ 思想ではなく「価格」 で
官公庁の電気入札には、 入口のハードルがあります。 国の機関の電力調達は「環境配慮契約法」に基づく裾切り方式が基本で、 CO₂排出係数や再エネ導入比率などの環境基準を満たした事業者だけが入札に参加できます。 ゼロワットパワーの落札は、 ほぼ全件がこの土俵での 一般競争入札・最低価格落札方式(随意契約は1件のみ)。 つまり「再エネだから選ばれた」 というより、 環境基準のハードルを自社電源と再エネ調達網で越えたうえで、 発注条件を満たしながら価格競争に勝てる供給力を持っていた ことが大きい ── そこに強みがあります。

伸びは急でした。 2019年に28件・2億円だった落札は、 2021年に101件へ跳ね、 2023年に176件・119億円(金額ピーク)、 2024年に183件(件数ピーク) まで拡大。 官公庁の脱炭素方針が追い風となり、 全国の発注機関へ横展開していきました。
4. どこで勝っているか ─ 防衛省から造幣局まで
落札先は小口だけではありません。 防衛省市ヶ谷庁舎で使う電気(18.45億円)、 独立行政法人造幣局、 PCB処理事業所、 さいたま新都心合同庁舎の特別高圧電気など、 大口・高圧の案件にも食い込んでいます。 国の中枢施設の電気を、 再エネ新電力が供給しているわけです。 本記事のGEPS集計対象外となる地方自治体向けでも、 世田谷区役所などに供給しており、 官公庁・自治体の脱炭素電力の受け皿になっています。
5. なぜ今、 それが可能だったのか
背景には、 電力市場の構造変化があります。 2016年の電力小売全面自由化で新電力が官公庁市場に参入できるようになり、 そこに 官公庁の再エネ調達・脱炭素方針 が重なりました。
決定的だったのは、 新電力の淘汰 です。 燃料・卸電力価格が高騰した2022〜2023年には、 調査会社の集計や業界報道で、 登録された新電力の約3割が契約停止・撤退・倒産・廃業に至ったとされ、 官公庁・自治体向けを手がけた事業者の破綻も相次ぎました(契約先を失った「電力難民」 は2022年秋に約4.6万件と報じられました)。 その 市場の空白 で、 自社電源を確保して生き残った再エネ系の新電力が、 官公庁の電気を一気に取りに行った ── ゼロワットパワーの急拡大は、 この市場再編と重なって読めます。
6. ただし、 安定性はまだ検証対象

ここからは慎重に見る必要があります。 売上は約1,000億円規模に達した一方、 当期純利益は第10期(2025年2月期)の60.7億円から、 第11期(2026年2月期)には▲17.7億円の赤字へ反転しました(官報決算公告の原本で確認)。 純資産は86億円から51億円へ、 自己資本比率は32%から22%へ低下しています。 卸電力価格に業績が大きく左右される、 新電力特有の 市況感応型 の財務です。 なお利益剰余金は純損失を上回って減っており、 配当などの社外流出もあったとみられます(決算公告は貸借対照表のみで、 詳細は確認できません)。
「再エネ100%の優等生」 という像も、 そのままでは正確ではありません。 同社の CO₂排出係数は2021年度こそ基礎係数0.025kg-CO₂/kWh(ほぼゼロ)でしたが、 事業拡大とともに2023年度の調整後係数は0.171kg へ上昇しています(再エネ調達が需要拡大に追いつかない構造)。 さらに、 国の 長期脱炭素電源オークションで落札したのはLNG専焼火力(市原発電所・約10万kW、 2033年度運開予定)。 子会社化した佐和田発電所(新潟・佐渡)も重油火力です。 つまり実態は、 再エネを看板に掲げつつ、 火力も組み合わせた現実的な電源ポートフォリオ を組んでいる ── 将来の水素・バイオマス転換を見据えつつ、 足元は火力も使う、 という姿です。
7. 結び:官公庁の脱炭素は「理念」 ではなく「調達市場」 になった
ゼロワットパワーが示すのは、 官公庁の脱炭素が、 もはや理念ではなく"調達市場"になった という事実です。 再エネ電力は、 入札で価格を競い、 自社電源を確保し、 全国の機関に横展開する ── ひとつのビジネスとして成立しています。
同時にこの会社は、 その市場の 難しさ も映しています。 急拡大の裏で利益は市況に振られ、 看板の再エネと現実の火力が同居する。 派手な成長物語にも、 単純な「環境優等生」 にも回収されない ── データが描くのは、 制度変化を商機に変えながら、 不確実な電力市場を泳ぐ、 等身大の新電力の姿です。
8. 計算方法・データの限界(Methodology)
- 対象データ:政府電子調達(GEPS/調達ポータル)の落札情報、 官報決算公告、 履歴事項全部証明書(登記)、 各社公開情報
- 市場の定義:「官公庁向け電気供給」 は、 タイトルに「使用する電気」「電力(電気)の調達」「電気需給」 等を含む落札を集計。 GEPS掲載ベースであり、 全調達を完全に捕捉するものではありません
- 「単独首位」 の意味:1社単位の落札件数・金額の比較です。 大手電力はグループ各社(地域別)に分かれて落札しており、 グループ合算では大手電力が大きくなります
- 競争性について:応札者数・予定価格・落札率を持たないため、 「価格で勝っている」 とは言えても、 他社との価格差や勝率、 競争の強弱は判断していません
- 財務:官報決算公告(貸借対照表の要旨)に基づきます。 決算期は公告原本の記載(基準日2月28日=2月期)に従っています(外部データベースには3月期と表記する例がありますが、 公告原本が優先)。 損益計算書は非開示のため、 赤字の要因や配当額は断定できません
- CO₂排出係数・電源:同社公開情報に基づく年度値です。 排出係数は年度・算定区分(基礎/調整後)で異なります
- 株主・資本関係:株主は登記事項ではなく、 公開情報では確認できていません。 登記上は増資・種類株・新株予約権がなく、 外部資本調達の痕跡は見られません
- 主な出典:GEPS落札情報、 官報決算公告、 登記、 同社公開情報・プレスリリース。 新電力の撤退割合・「電力難民」 件数は調査会社の集計・業界報道ベース
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