アスエネの総資産の56%は、もう手元資金ではない──2年でM&A8件
CO2可視化のアスエネは、2025年9月期に流動資産が33.89億円減り、固定資産が30.55億円増えた。総資産に占める固定資産の比率は12.7%から56.1%へ。同じ2年でM&A・事業承継が8件あり、うち1件は三井住友銀行が自社のCO2算定クラウドを会社分割で渡し、同時に株主になった取引だった。

この記事のポイント
- 2025年9月期に 流動資産が33.89億円減り、固定資産が30.55億円増えた。総資産に占める固定資産の比率は 12.7%から 56.1% へ。総資産の規模はほぼ変わらないまま、中身が入れ替わった
- 同じ2年間に、M&A・資本参加・事業承継が 8件。うち1件は、三井住友銀行が自社で運営していたCO2算定クラウドを会社分割でアスエネへ渡し、同時にその親会社がアスエネの株主になったという取引だった
- 2026年7月のシリーズD 135億円は内訳が公表されている。会社に入るのはプライマリー68億円とデット約30億円の計約98億円で、返済不要の新規資本は68億円
CO2排出量の可視化クラウド「ASUENE」を手がけるアスエネ株式会社は、2026年7月23日にシリーズDで135億円を調達したと発表した。リード投資家は BlackRock と Temasek の合弁である Decarbonization Partners。累計調達額は250億円になったという。
調達の額はよく報じられる。だが、その資金で何を買い、貸借対照表がどう変わったかまでは、あまり見られない。この会社の場合、そこに大きな変化が起きている。
1. 総資産の56%は、もう手元資金ではない

決算公告の資産の部を3期分並べる。
| 第4期(2023年9月) | 第5期(2024年9月) | 第6期(2025年9月) | |
|---|---|---|---|
| 流動資産 | 29.21億円 | 65.14億円 | 31.25億円 |
| 固定資産 | 1.20億円 | 9.44億円 | 39.99億円 |
| 固定資産の比率 | 3.9% | 12.7% | 56.1% |
| 流動比率 | 5.03倍 | 6.52倍 | 1.80倍 |
直近の第6期で、流動資産が33.89億円減り、固定資産が30.55億円増えている。総資産の規模はほぼ変わらない(74.59億円 → 71.24億円)のに、中身が入れ替わった。
自社でソフトウェアを開発し、大きな設備を持たない事業では、固定資産の比率は低くなりやすい。この会社も第4期までは3.9%だった。それが2年で56.1%になっている。
手元の流動性も薄くなった。 流動資産と流動負債の比率は6.52倍から1.80倍へ落ちた。1.80倍という水準そのものは直ちに危ないと言える数字ではないが、余裕の度合いは明らかに変わっている。
では、何が増えたのか。決算公告に固定資産の内訳は載らない。ただ、同じ期に何が起きたかを並べると、当たりはつく。
2. 2年でM&A・再編8件

2024年8月から2026年3月までに、会社が発表・登記した企業買収と組織再編は8件ある。
| 時期 | 内容 | 確認できる資料 |
|---|---|---|
| 2024年8月8日 | 第三者保証事業を買収し、子会社アスエネヴェリタスを設立 | リリース |
| 2024年12月1日 | 東大発のESG分析スタートアップ E4G を吸収合併 | 登記 |
| 2024年12月10日 | iPaaS事業の Anyflow を100%取得 | リリース |
| 2025年3月13日 | Carbon EX へ追加出資し、出資比率51%へ | リリース |
| 2025年5月12日 | 米 NZero を100%取得 | リリース |
| 2025年7月15日 | 三井住友銀行から Sustana 事業を吸収分割で承継 | 登記・電子公告 |
| 2025年9月 | 米 Iconic Air を取得 | リリース |
| 2026年3月17日 | exroad を100%取得 | リリース |
このうち第6期(2024年10月〜2025年9月)に入るのは、E4G の吸収合併から Sustana の承継までの5件。固定資産が30.55億円増えた期と、そのまま重なる。
取得した会社の株式や、承継した事業に係る資産が増加要因になった可能性はある。ただし固定資産には、子会社株式のほかに1年を超える定期預金、投資有価証券、敷金、ソフトウェア、繰延税金資産なども入る。内訳が公告に載らない以上、増加額をすべてM&Aによる資産だと特定することはできない。 個別の貸借対照表では、株式の取得は原則として子会社株式に計上され、のれんが個別上に立つのは事業の取得や吸収分割の場合なので、5件を一括りに「のれん」と呼ぶこともできない。
確認できるのは、総資産の半分以上が固定資産になった時期に、買収と再編が集中していたということまでである。
同じ期の損益と資本の動きも並べておく。第6期は当期純損失12.86億円を計上する一方、資本は約5億円、負債は約4.5億円増えた。赤字とM&Aを伴う事業拡大を、エクイティと負債の双方で支えた形に見える。ただしキャッシュフロー計算書がないため、調達した資金がどの支出へ充てられたかは特定できない。
人も増えている。社会保険の被保険者数は2024年3月の95人から2026年7月の260人へ、2年4か月で 2.7倍になった。ただし買収した会社の人員がここに合流している可能性があり、被保険者数からは元の所属を分けられない。人が増えたことと、買って増えたことを区別する材料は公開資料にない。
3. メガバンクが自社のSaaSを渡し、同時に株主になった
8件のなかで、性質が違うのが Sustana の承継だ。
他の7件は、いずれもアスエネが買いに行った取引である。E4G を吸収合併し、Anyflow を100%取得し、Carbon EX へ追加出資し、NZero と Iconic Air と exroad を取得した。買い手はすべてアスエネ側にいる。
Sustana だけが、向きが逆だ。
三井住友銀行は自ら「Sustana」というCO2排出量の算定クラウドを運営していた。それを会社分割でアスエネへ承継させている。効力発生日は2025年7月15日。銀行法36条1項に基づく公告の原文が残っており、登記にも記載がある。
当会社は、吸収分割によりアスエネ株式会社に対して当会社が日本国内で営むCO2排出量算定・削減支援クラウドサービス(Sustana)に係る事業に関する権利義務を承継させました
同じ時期、三井住友フィナンシャルグループはアスエネの株主にもなっている(2025年5月発表)。つまり 8件のうち7件はアスエネが取りに行き、1件は大手から差し出された。
なぜ渡す側にとってこの形になったのか。理由は公表されていないが、構造としては見当がつく。CO2算定のクラウドを自前で持つには、専門人材を抱え、制度改正のたびに機能を作り直し、専業のスタートアップと開発速度で競うことになる。銀行の本業とは別の競争だ。自社で単独運営を続けるのではなく、専門企業へ事業を移し、株主として関与する形を選んだ——公開資料から言えるのはここまでである。
受け取る側の意味も大きい。事業の承継では、製品だけでなく契約関係も移る。メガバンクが法人顧客に提供していたサービスを、顧客との関係ごと引き受けた可能性がある。ただし対価がいくらだったか、契約がどこまで承継されたかは公開資料からは分からない。会社側は承継後、Sustana を ASUENE へ統合しつつ、SMBCグループとの関係を継続すると説明している。
大手が自社事業を渡して株主に回るという形は、日本のクライメートテックでそう多くない。買収の巧拙より、大手が自前でやるかどうかの判断が変わってきたことのほうが、この取引の含意としては大きい。
4. 赤字は拡大している。それでも48億円が残っている

| 期 | 決算期 | 当期純損失 | 総資産 | 純資産 |
|---|---|---|---|---|
| 第2期 | 2021年9月 | ▲1.23億円 | 4.06億円 | 2.47億円 |
| 第3期 | 2022年9月 | ▲5.03億円 | 25.68億円 | 17.44億円 |
| 第4期 | 2023年9月 | ▲4.41億円 | 30.41億円 | 14.32億円 |
| 第5期 | 2024年9月 | ▲8.50億円 | 74.59億円 | 55.85億円 |
| 第6期 | 2025年9月 | ▲12.86億円 | 71.24億円 | 48.00億円 |
赤字は毎期ふくらんでいる。直近の第6期は ▲12.86億円で、前期の1.5倍だ。それでも純資産は48.00億円ある。
この48億円の中身は、単純な引き算で出る。累計の払込資本 80億2,664万円 から 累計の欠損 32億3,143万円 を引き、新株予約権 504万円 を足すと 48億0,025万円。決算公告の純資産と完全に一致する。48億円が残っているのは事業が黒字だからではなく、集めた80億円に対して累計の赤字がまだ32億円だからだ。
ただし、この32億円は会計上の累積損失であって、「32億円の現金が出ていった」という意味ではない。減価償却やのれんの償却のように現金を伴わない費用も含まれるし、逆に投資のように現金は出ても費用にならないものもある。キャッシュフロー計算書は公表されていないので、実際にいくら現金が減ったかは分からない。
なお代表者は2026年7月時点で「単月ベースではキャッシュフローがプラスになっている」と述べている。通期の損益は赤字が続いているが、月次では収支が回り始めているという主張だ。決算公告からはそこまで確認できない。
もうひとつ、対照的な数字がある。買収して設立した子会社のアスエネヴェリタスは、本体が12.86億円の赤字を出した同じ期に 4,546万円の黒字を出している。本体が買収と投資で赤字を掘るあいだ、切り出した専門機能の側は小さく黒字で回っている。
5. 次の買収の原資は、いくら入ったのか

集めた80億円のうち32億円を使い、資産の重心を固定側へ移した。その最中に、次の調達が入っている。
2026年7月23日に発表されたシリーズD 135億円は、内訳が公表されている。
- プライマリー 68億円(新株発行。会社に入り、返済は要らない)
- デット 約30億円(会社に入るが、返済義務がある)
- セカンダリー 37億円(既存株主等の持ち分が現金化される。会社には入らない)
つまり 会社に入る資金は約98億円、そのうち 返済不要の新規資本は68億円である。「135億円を調達」という見出しだけを見ると、そのすべてが次の投資に回せる資金のように読めるが、実際に自由に使える新規の自己資本は半分ほどだ。
この払込は2026年5月に取得した登記にはまだ反映されていないので、1株いくらで発行されたかも確認できていない。
6. 次の見どころ
買った資産が、次の期にどう効くか。 固定資産39.99億円が総資産の56.1%を占める状態は、この会社の過去と比べて明らかに重い。中身によって、次期以降の費用の出方は変わる。子会社株式が含まれるなら、買収先の価値が大きく低下した場合に評価損が生じうる。事業承継でのれんが計上されていれば、償却費や減損が損益に表れる。ソフトウェアなら償却が進む。逆に、承継した事業が売上を生めば、それは買収の成果になる。第7期(2026年9月期)の公告が、最初の答え合わせになる。
統合の速度。 8件のうち海外企業の取得は NZero と Iconic Air の2件、残る6件は国内の買収・出資・事業承継である。買った会社と承継した事業をどれだけ早く一つの製品へ束ねられるかが、固定資産を収益に変える速度を決める。
制度の追い風と、競合。 サステナビリティ開示の新基準は2027年3月期から時価総額3兆円以上の企業に義務づけられ、対象は段階的に広がる。EUの炭素国境調整措置は2026年1月から本格実施に入った。追い風であることは間違いないが、この会社が booost technologies、ゼロボード、三井物産の e-dash と分け合う市場でもある。
集めた資金のうち32億円を使い、資産の半分以上が固定資産に置き換わった時点で、次の68億円が入ってきた。買う速度は十分に速い。問われるのは、買ったものを収益に変える速度のほうだ。
計算方法(Methodology)
- 財務数値は、確認できた決算公告5期分(2021年9月期〜2025年9月期)に基づく。第1期(2020年9月期)の公告は確認できておらず、他に公告があっても収録できていない可能性がある
- 売上高は5期とも開示されていない(決算公告は貸借対照表の要旨のみ)。したがって本稿では増収・減収や利益率には触れていない
- 2024年9月期の純資産は、公告の株主資本 55億8,157万円ではなく、総資産−負債=55億8,490万円(株主資本+新株予約権333万円)を採用した
- 固定資産の内訳は決算公告に載らない。 本稿ではM&A・事業承継との時期の重なりを示したが、増加額をM&Aによる資産と特定はしていない。長期預金・投資有価証券・敷金・ソフトウェア・繰延税金資産なども固定資産に含まれる
- 当期純損失と、増資・借入による資金調達は別の概念である。 キャッシュフロー計算書が公表されていないため、調達した資金がどの支出へ充てられたかは特定できない
- 累計欠損32.31億円は会計上の累積損失であり、支出額やキャッシュの流出額ではない
- 合併・会社分割・機関設計は履歴事項全部証明書および電子公告による。M&A8件のうち登記・公告で直接確認できるのは E4G の吸収合併(2024年12月1日)と Sustana の吸収分割承継(2025年7月15日)で、他はリリースによる。海外企業の取得は NZero と Iconic Air の2件
- シリーズD 135億円の内訳(プライマリー68億円・セカンダリー37億円・デット約30億円)は会社公表値。セカンダリーは既存の株式が売買される取引で会社に資金は入らず、デットは会社に入るが返済義務がある
- 従業員数は社会保険の被保険者数であり、ある時点の在籍者のストックである。買収した会社からの合流分を分離することはできない。会社が公表する従業員数とは範囲が異なる場合がある
- 累計調達額(250億円)および過去の各時点の累計額は会社公表値であり、エクイティ・デット・セカンダリーを合算したフローである