コネクテッドロボティクスの推定評価額は約61億円 ─ 142件の知財で守る「調理ロボ」と、3年ぶりの増資が同じ単価だった理由
登記簿から復元したコネクテッドロボティクスの推定評価額(全株式数ベース、上場企業の時価総額に相当)は約61億円。2026年4月の増資は3年前のB種と同じ単価で、特許107件を含む142件の知財で調理ロボを守る独立系フードテックの現在地を整理する。

コネクテッドロボティクスの推定評価額は約61億円 ─ 142件の知財で守る「調理ロボ」と、3年ぶりの増資が同じ単価だった理由
この記事のポイント
- 登記から復元した全株式数ベースの推定評価額は約61億円。直近2026年4月の増資は10,457株・約1.1億円(1株10,518円)で、2023年のB種優先株式とまったく同じ単価=3年間ほぼ横ばいの値づけだった
- 特許庁データからの独自集計で、特許107件・商標22件・意匠13件の計142件。従業員が53人から28人へ半減した2023〜2025年に、むしろ特許出願は年33件まで増えている
- 創業時の商号は「astero株式会社」、本店は静岡県浜松市。たこ焼きロボットから食品工場の盛付ロボットへ、事業の重心を移してきた
1. 浜松の小さな一室から、たこ焼きを焼くロボットへ
コネクテッドロボティクス株式会社の履歴事項全部証明書をさかのぼると、いまの社名はもともとの名前ではない。設立は2014年2月10日。このとき登記された商号は「astero株式会社」、本店は静岡県浜松市の集合住宅の一室だった。資本金は200万円。翌2015年7月に「コネクテッドロボティクス株式会社」へ商号を変え、本店は浜松から東京都立川市、そして小金井市へと移っていく。途中で東京農工大学のベンチャー拠点に間借りした時期もある。登記の住所欄だけを並べても、大学の研究シーズを抱えた小さなチームが少しずつ場所を広げていった輪郭が残っている。
会社を率いるのは代表取締役の沢登哲也氏。2018年には AI・ディープラーニング領域の投資家から出資を受け、AIと画像認識を「食」の現場に持ち込むという方向が定まった。
最初に世の中の目を引いたのは、たこ焼きを焼くロボット「OctoChef」だった。2019年にはセブン&アイ・フードシステムズと組み、商業施設のフードコートに実機が並んだ。商標の出願記録を時系列に並べると、この会社が何を作ろうとしてきたかが製品名の変遷として見えてくる。たこ焼きから始まり、ソフトクリーム、そばロボット、フライドポテト、バーガー。飲食店の厨房を自動化する「見せるロボット」が前半の主役だった。
2. 「見せるロボット」から「工場の中のロボット」へ
その重心は、2021年あたりからはっきり移っていく。商標として登録されるのは「Delibot(デリボット)」「Futappy(フタッピー)」「食洗機ロボット」「コネクテッド検品」といった、食品工場のラインで動く言葉になる。Delibotはポテトサラダのような不定形の惣菜を一定量ずつトレイに盛り付ける盛付ロボット、Futappyは容器の蓋を閉めるロボットだ。話題性で集客するソフトクリームロボットと違い、これらは惣菜工場やセントラルキッチンの省人化を正面から狙う。
この転換は、知財の中身にもそのまま現れている。同社の特許は「保持システム」「制御システム」「搬送装置」「移動情報推定装置」「ロボットシステム」といったタイトルが並ぶ。たこ焼きを器用に返すための技術ではなく、形のばらつく食材をつかみ・運び・並べるためのハンドリングとAI検査の塊だ。人手不足が深刻な食品製造業で、いちばん自動化が難しかった「不定形のものを扱う工程」に的を絞ってきたことが、出願タイトルの言葉づかいから読み取れる。
そして、ここがこの会社の一番面白いところだ。製品を派手に売り込むより、技術を権利として積み上げることに資源を寄せている。

Compalyze が特許庁データで確認できる範囲では、特許・商標・意匠を合わせた知財は142件(特許107件、商標22件、意匠13件)にのぼる(2026年6月時点の独自集計)。なお同社公式は2026年3月時点で、盛付ロボット Delibot 関連の出願として特許140件・意匠13件・商標19件を掲げており、集計の対象範囲(製品限定か会社全体か)や出願中・登録済みの区分が異なるため、数字はそのまま一致するものではない。特許の出願件数を年で並べると、2018年に2件だったものが2022年に14件、2023年に23件、2024年には年33件まで増えている。スタートアップとしては相当な厚みで、調理・食品ロボット領域の独立系スタートアップとしては目立つ特許ポートフォリオだ。2026年3月には発明協会の第51回発明大賞で発明奨励賞を受けており、技術の評価は外部からも続いている。
注目したいのは、この特許の積み増しが起きた時期だ。後で見るように、同社は2024年から2025年にかけて従業員数を大きく絞っている。人を減らしながら、出願は増やしている。露出を抑えて現場での実装と権利化に集中する──プレスリリースの発信が2022年の年18件をピークに、2024年3件・2025年2件へと細っていく動きとも符合する。にぎやかなロボットを見せる会社から、工場の中で静かに権利を固める会社へ。事業の現在地は、この一点に表れている。
3. 決算公告が映す「踏ん張り」のフェーズ
事業の重心が工場に移る一方で、決算公告の数字は楽な局面ではないことを示している。

確認できる6期はいずれも純損失だ。研究開発と現場実装を先行させる開発型スタートアップなので赤字そのものは珍しくないが、純資産の動きには注意が要る。純資産は2023年1月期の約6.4億円をピークに、2024年1月期5.3億円、2025年1月期3.9億円、そして直近2026年1月期には1.2億円まで縮んだ。資本金は100百万円のまま据え置かれているので、毎期の赤字が積み重なって自己資本を削っていった構図だ。
自己資本比率はこの過程をはっきり示す。

2022年1月期に76.5%あった自己資本比率は、2023年に45.1%、2024年40.6%、2025年27.2%と下がり、直近の2026年1月期は10.5%まで落ちている。負債は同じ期間に約10.6億円へ膨らんだ。総資産は約12億円規模を保っているので、事業を畳んでいるわけではない。手元の自己資本を取り崩しながら、負債も増やして運転を続けている「踏ん張り」の局面だと読める。負債の内訳は公告だけでは分からず、借入・未払金・前受金・リース債務など複数の可能性がある。
従業員数(社会保険の被保険者ベース)も同じ向きに動いている。2023年末に53人だった人員は、2025年にかけて段階的に絞られ、2026年5月時点では28人。およそ半分の規模になった。プロダクトの選択と集中、そして固定費の圧縮が進んだことが、人数の推移からうかがえる。
4. 推定評価額 約61億円 ── ただし3年ぶりの増資は「据え置きの単価」だった
ここからは、登記簿に残された資本金と株式数から、会社全体の値づけを跡づける。
同社は普通株式のほかにA種・A1種・A2種・B種・B1種の優先株式を発行している。資本金の推移を見ると、増資のたびに資本金を一度1億円まで減らす場面が2回確認できる。2023年1月に約6億円から1億円へ、2024年1月にも約2億円から1億円へと減資し、その後あらためて増資する。資本金1億円は、税務・外形標準課税・各種手続きで判定上の節目になりやすい水準だ(実際の税務効果は資本剰余金等も含めて個別確認が要る)。増資のあとに資本金を1億円へ戻すのは、未上場スタートアップでよく見られる資本政策で、ここでも繰り返されている。
直近の増資は2026年4月。資本金は1億円から154,993,363円へ増えた。会社法の慣行では払込額の半分が資本金、半分が資本準備金に入るので、資本金の増えた分を2倍すれば株式で集めたお金のおおよその額になる。計算すると約1.1億円。このとき新たに発行された株式は10,457株だったので、1株あたりの値段は10,518円となる。
ここで検算が一円単位で揃う。さかのぼって2023年2月のB種優先株式による増資を同じやり方で割り戻すと、資本金の増えた額99,994,626円の2倍を新規発行19,014株で割って、やはり1株10,518円になる。これは登記簿に記された B種優先株式の払込額そのもの と完全に一致する。
つまり、2026年4月の増資は、2023年のシリーズBとまったく同じ1株10,518円で行われている。 3年が経っても1株あたりの値段は上がっていない。新しいラウンドで単価を引き上げず、前回と同じ条件で株式を出した格好で、外部から見える限り、この間に評価額を切り上げる増資ではなかったと整理できる。
その単価で会社全体を、ラウンドごとに評価してみる。

B種ラウンド(2023年2月)の時点では、発行済株式515,812株に当時存続していた新株予約権を含めた全株式数に1株10,518円を掛けて、推定評価額は約58億円(既存 約54億+潜在 約4億)。直近の2026年4月の増資後は、発行済株式526,269株に、登記簿でいま存続している新株予約権の目的株式数55,611株を加えた全株式数581,880株へ同じ10,518円を掛けて、会社全体の推定評価額(上場企業でいう時価総額に相当する)は約61億円(既存 約55億+潜在 約6億)になる。
2つを並べて見えてくるのは、推定評価額が約58億円から約61億円へ動いた一方で、1株あたりの単価は10,518円のまま変わっていないことだ。評価額の微増は値づけを引き上げた結果ではなく、株式と新株予約権の数が増えた分にすぎない。これは市場で値段がつく上場株とは違い、あくまで登記の資本金と株式数から逆算した推定値である点は押さえておきたい。
この約61億円という水準と、自己資本が1.2億円まで薄くなった足元の帳簿との間には、はっきりとした距離がある。それは、いまの数字ではなく、不定形食材を扱う独自のロボット技術と142件の知財という「将来の事業」に対して投資家が値づけしている、というスタートアップの評価の構造そのものだ。少なくとも、同じ単価で追加資金を入れる相手がいたという点で、期待が完全に消えたわけではない(ただし引受先が新規投資家か既存株主かは登記からは分からない)。
5. 食品工場の自動化に賭ける13期目へ
コネクテッドロボティクスは、外食店の厨房で人目を引くロボットから出発し、いまは食品工場の中で不定形の惣菜を扱う省人化ロボットへと軸足を移してきた。決算公告は自己資本の薄まりという厳しい数字を映すが、同じ時期に従業員を絞り、特許を年33件まで積み増し、前回と同じ単価で新たな増資を成立させている。派手な拡大ではなく、技術の堀を深めながら持ちこたえるフェーズに入っていると読める。
人手不足が構造化した食品製造業で、いちばん自動化が難しい「形の定まらないものを扱う工程」を正面から取りに行く会社が、次にどの工場のラインへ実機を入れていくか。約61億円という値づけが事業の伸びでどう裏づけられていくかは、これからの決算公告と、増え続ける特許の中身に表れてくる。
計算方法(この記事の固有メモ)
- 1株単価には、登記簿に記載されたB種優先株式の払込額10,518円を用いた。2023年2月と2026年4月のいずれの増資も、資本金の増加額を2倍して新規発行株数で割ると10,518円と一致し、株式で集めた純額が公表ベースと噛み合うことを確認した。
- 新株予約権は現存ベースで集計した。直近(2026年4月)時点では、第1回(30,000個)は2024年9月30日に全部放棄され抹消されているため除外。生存分は第7回3,802個・第10回3,803個・第11回50個(当初2,629個から変更)・第12回46,145個、これに第1回エクイティキッカー型1,811個(2022年6月発行、消滅事由なし、行使期間2032年まで)を加えた合計55,611株(いずれも1個あたり目的株式数1株)。
- 推移チャートのB種ラウンド(2023年2月)時点の潜在分は、その時点で存続していた新株予約権=第1回30,000個(当時は有効。2024年9月に全部放棄)+第7回3,802+第10回3,803+第1回エクイティキッカー型1,811=合計39,416株で集計した(第11回・第12回はそれ以降の発行のため当時は存在せず除外)。発行済515,812株と合わせた全株式数555,228株に単価10,518円を掛けて約58億円。
- 2020年1月期・2021年1月期は決算公告が確認できなかったため、損益・財務のグラフではこの2期を非表示とした。
- 資金調達のうちシリーズB(2023年)は総額17億円と公表されているが、本記事の評価額は登記の資本金・株式数から逆算した株式分のみを用いており、公表調達額そのものではない。
ファクトシート
- 商号:コネクテッドロボティクス株式会社(創業時の商号:astero株式会社、2015年7月に変更)
- 本店所在地:東京都小金井市梶野町五丁目4番1号
- 設立:2014年2月10日
- 決算期:1月
- 事業:食産業向けロボットサービスの研究開発・販売(盛付ロボット、AI検査、蓋閉ロボット、ソフトクリームロボット等)
- 代表取締役:沢登哲也
- 従業員数(社会保険被保険者ベース):約28人(2026年5月時点)
- 上場区分:未上場