過去最高益の「九電工」は、なぜ社名から“九電”を外したのか ── 九州電気工事からクラフティアへの80年

旧・九電工(現クラフティア)は2026年3月期に連結純利益約400億円の過去最高益。財務が最も強い時期に『九電工』の看板を下ろし、2025年10月にクラフティアへ社名を変えた。九州電力は今も筆頭株主(約22.6%)で持分法適用関連会社。VISION 2029・天神への本社移転・最大50億円のCVC設立と連なる、創立100周年に向けた戦略を決算と登記から読む。

Compalyze 編集部分析対象株式会社クラフティア

過去最高益の「九電工」は、なぜ社名から“九電”を外したのか ── 九州電気工事からクラフティアへの80年

この記事のポイント

  • 旧・九電工(現クラフティア)は、2026年3月期に連結純利益約400億円(前年比+38.7%)と過去最高益を更新した。財務が最も強い時期に、80年近く親しまれた「九電工」の看板を下ろし、2025年10月に「クラフティア(KRAFTIA)」へ社名を変えた。
  • 九州電力はいまも筆頭株主で発行済株式の約2割を保有し、この保有比率からみて九州電力の持分法適用関連会社にあたるとみられる。社名から「九電」を外しても、資本のうえでのつながりは続いている。
  • 社名変更は単独の出来事ではなく、中長期ビジョン「VISION 2029」、天神への本社移転、最大50億円のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)設立と連なる、創立100周年(2044年)に向けた戦略の号砲だった。

1. 過去最高益の「九電工」が、なぜ社名を変えたのか

業績が悪くなったから名前を変えたわけではない。むしろ逆だ。クラフティア(旧・九電工)は、2026年3月期に連結純利益約400億円を計上し、過去最高益を更新した。自己資本比率は66.4%。財務はかつてないほど強い。それでも同社は、2025年10月1日付で、80年近く親しまれた「九電工」の看板を下ろし、「株式会社クラフティア(KRAFTIA)」へと社名を変えた。

「九電工」という名は、九州電力の工事会社という出自を示す名前でもあった。九州電力はいまもクラフティアの筆頭株主で、発行済株式の約2割(22.6%)を保有する。過半には届かないため子会社ではないが、この保有比率からみて九州電力の持分法適用関連会社にあたるとみられ、資本のうえでは九州電力グループとのつながりが続いている。つまりこの社名変更は、九州電力との関係を断つ動きではない。資本の出自は残したまま、顧客・事業・地域に対する「自己紹介」だけを変えた、と言うほうが近い。

理由は、社名と実態のズレにある。同社はもはや九州の電気工事会社ではない。電気工事に加え、空調・給排水などの管設備、情報通信、再生可能エネルギー、街づくりへと事業を広げ、会社は売上の3割超を関東・関西など九州の外で稼ぐようになったと説明している。事業エリアも東南アジアへと伸びている。九州電力の工事会社を連想させる「九州」「電気工事」という言葉では、首都圏の再開発やデータセンター、海外工事まで担う現在の姿を説明しきれなくなっていた。新社名のKRAFTIAは、技術を意味するクラフト(CRAFT)の頭文字Cを九州のKに替え、革新と実行の意味を重ねた造語だという。

社名は事業の自己紹介である。その看板を、最も業績が良いタイミングで架け替えたこの会社が、80年でどんな歩みをたどってきたのかを、決算と登記簿から追う。

クラフティアの80年 ─ 「九州電気工事」から「九電工」、そして総合設備企業へ(Compalyze Journal)

2. 1944→2025、商号と事業領域が一緒に広がった80年

登記簿と沿革をたどると、社名の変遷と事業領域の拡大が、きれいに重なって進んできたことが分かる。

始まりは戦中の1944年12月。九州各地の電気工事会社が統合し、「九州電気工事株式会社」として福岡で生まれた。配電線・屋内線の電気工事が出発点である。転機は1964年で、全国に先駆けて空調・管設備の工事へ進出する。電気だけの会社から、建物の設備全体を手がける会社への第一歩だ。1968年には大阪証券取引所2部と福岡証券取引所に株式を上場し、1971年には東京証券取引所2部にも上場した。

そして1989年、社名を「株式会社九電工」へ変更する。「九州電気工事」を縮めた通称を正式名にした格好だが、このときすでに事業は電気にとどまっていなかった。情報通信、環境・エネルギー、リニューアルへと多角化は続き、海外では東南アジアに拠点を構えた。2019年から2020年にかけては、再生可能エネルギーを手がける九電工新エネルギーと、設備工事のクオテックという2社を相次いで合併し、グループの機能を本体へ集約している。

こうして広がりきった業容に、2025年の「クラフティア」への改称が追いついた。社名の歴史は、そのまま事業領域が広がってきた歴史でもある。

3. 売上は横ばい、利益が跳ねた2026年3月期

社名を架け替えた2026年3月期の決算は、この会社のいまの強さをはっきり示している。

注目すべきは、売上ではなく利益率だ。連結売上高は約4,761億円で、前年比はわずか0.5%増にとどまった。ところが、営業利益は約546億円で31.9%増、純利益は約400億円で38.7%増。売上をほとんど伸ばさずに、利益だけを大きく押し上げた。背景には、物価上昇分をきちんと工事代金へ転嫁し、採算の悪い工事を無理に取りにいかず、人手を踏まえて受注を選ぶという、案件選別の徹底がある。人手不足の時代の設備工事会社は、売上を追う会社から、工事の採算を選ぶ会社へと変わりつつある。

受注の中身も、九州の配電工事だけではない。会社は、首都圏・福岡の再開発、関西圏の統合型リゾート、そしてデータセンター関連工事を中心に受注を積み増したと説明しており、工事の受注高は前期比6.0%増の約4,790億円に伸びた。クラフティアという新しい看板が向き合う市場は、すでに九州の外に大きく広がっている。年間配当も、前期の140円から220円へと引き上げた。

クラフティアの連結 売上高と純利益の推移(Compalyze Journal)

4. 自己資本比率66.4%という堅牢さ

この会社のもう一つの顔は、財務の堅さである。

連結の純資産は、2016年3月期の約1,131億円から、2026年3月期には約3,516億円へ。10年で約3.1倍に積み上がった。利益をしっかり内部に残しながら、株主にも配当を続けてきた結果だ。総資産に占める自己資本の割合は2026年3月期で 66.4%(連結)。総資産のおよそ3分の2が返済不要の自前のお金でまかなわれている計算だ。残りの負債も、その多くは工事代金の支払いに関わる流動的なもので、借入などの有利子負債は総資産に対して小さい。借入に大きく頼らずに事業を回せる、工事会社としては厚いバランスシートだといえる。

資本金は約125億円で、近年は大きく動いていない。外部から増資を受けて資金を集める局面ではなく、本業で稼いだ利益で自己資本を厚くしてきた会社であることが、ここからも読み取れる。設備工事は、工事代金の回収や資材の手当てで一時的に多額の資金が要る業態だが、厚い自己資本はその振れを吸収する余力にもなる。

クラフティアの連結 純資産の推移(Compalyze Journal)

5. 社名変更は「攻めの号砲」だった

クラフティアへの改称は、それ単独の出来事ではなかった。2025年は、この会社にとって変化が固まった年である。

まず、社名変更に合わせて中長期ビジョン「VISION 2029」が始まった。掲げる目標のひとつが、電力インフラ関連以外の分野(非電力分野)の売上比率を、いまの20%台から30%超へ引き上げることだ。これは九州電力向けの売上を減らすという話ではなく、配電・電気工事を土台に残しつつ、空調・情報通信・再生可能エネルギー・街づくりといった非電力分野へ事業構成を広げる方針である。電気工事の枠を超えて業容を広げるという点で、社名から「九電」を外す動きと地続きになっている。同じ2025年には、本社を福岡市南区から、天神の大型再開発ビルへと移した。九州電力系の設備工事会社としての歴史を背負いながら、福岡の都市再開発の中心へ拠点を移した格好だ。

さらに2025年秋には、最大50億円を投じるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「クラフティアイノベーション投資事業有限責任組合」を設立した。脱炭素技術やAI、建設分野のデジタル化に取り組むスタートアップへ出資する枠組みである。80年続いた工事会社が、外部のスタートアップへ投資する側に回る。社名変更は、業容が広がった現状を後追いで追認したというより、創立100周年(2044年)を見据えて、自ら次の事業をつくりにいく「攻めの号砲」だったと読める。

6. 技術を権利化する会社

総合設備業というと労働集約的な工事業のイメージが強いが、クラフティアは現場の技術を知的財産としても積み上げている。

特許庁のデータで保有する権利を数えると、特許が111件、商標が27件、実用新案が11件、意匠が4件にのぼる。停電させずに配電線を扱う無停電工法や、電気を流したまま作業する間接活線工法といった、電力インフラの施工現場で培われた技術が権利の中心とみられる。施工会社の知財は、研究所が生む発明というより、現場の事故を減らし、停電の時間を短くし、熟練者の作業を標準化するためのものだ。人手不足が進むほど、こうした工法の権利化は、単なる防衛ではなく、現場の再現性を高める経営資産になっていく。

クラフティアの知的財産 ─ 権利種別の保有件数(Compalyze Journal)

クラフティアの従業員数の推移(Compalyze Journal)

7. 残るリスクと、その先へ

もっとも、すべてが順風というわけではない。象徴的なのが、長崎県・宇久島で進む国内最大規模のメガソーラーだ。クラフティアは京セラなどとともに事業会社へ出資し、施工も担う。事業全体の総投資額は約2,000億円規模にのぼるが、これは事業全体の規模であって、クラフティア単独の負担額ではない。だが工事は地区ごとに進む大型案件で、進捗は全体の3分の1ほど。当初予定していた2023年度の完成からは遅れ、会社は2026年度中の完成を目指すとしている。出資先かつ施工者として、工程の遅れや採算の管理を注視すべき案件であり、再生可能エネルギーや街づくりへ事業を広げるほど、工事会社は大型プロジェクトの許認可・工程・採算のリスクとも向き合うことになる。厚い自己資本は、こうした長期案件の振れを支える備えでもある。

九州電力の工事会社という出自を残したまま、首都圏の再開発、データセンター、再生可能エネルギー、海外へと向かう。問われるのは、ここから先だ。VISION 2029が掲げる売上の拡大のなかで、2026年3月期に見せた高い採算を保てるか。データセンターやメガソーラーといった大型案件で、工程と採算のリスクを抑えられるか。そして、九州で培った施工の技術力を、全国・海外で再現できる会社になれるか。社名を変えた最初の1年の成績を、次の決算が映し出す。


計算方法・データについて

  • 売上高・営業利益・経常利益・純利益・純資産・自己資本比率・配当は、有価証券報告書および決算短信(連結)に基づく。自己資本比率は会社公表値(自己資本÷総資産)。2020年3月期など一部の期は作図元データの都合で点を省いた箇所がある。
  • 「売上の3割超が九州外」は会社の社名変更時の説明による。
  • 九州電力の持株比率(約22.6%)は各種開示・報道による。持分法適用関連会社にあたるとの位置づけは、この保有比率に基づく一般的な整理である。
  • 従業員数のグラフは単体(個別)の人数で、企業グループ全体(連結)では約1万人規模。平均年間給与は単体の値。
  • 自己資本比率(66.4%・2026年3月期・連結)は会社公表値で、純資産の推移グラフに注記として示した。
  • 知的財産の件数は特許庁データを集計した保有件数で、出願中・登録済みを含む時点値である。
  • 社名変更(2025年10月1日付で「株式会社九電工」から「株式会社クラフティア」へ)、本社移転、VISION 2029、CVC設立、上場、合併などの沿革は登記簿および各社開示・報道に基づく。資本金は約125億円。

ファクトシート

項目内容
商号株式会社クラフティア(旧・株式会社九電工)
本店所在地福岡県福岡市中央区(2025年5月に天神へ移転)
創立1944年12月(九州電気工事株式会社として)
決算期3月
上場東京・福岡の各証券取引所(証券コード1959)
主な事業電気・空調管・配電・情報通信・再生可能エネルギー・海外設備工事
代表取締役社長石橋和幸
連結売上高約4,761億円(2026年3月期)
連結純利益約400億円(2026年3月期・過去最高益)
自己資本比率66.4%(2026年3月期・連結)

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