日医工「1,050億円の崖」── ジェネリック大手の上場廃止と、債権放棄・増資による債務超過の解消
ジェネリック大手・日医工は、米国買収の減損と品質問題で2022年3月期に連結1,050億円の最終赤字に沈み、2023年に東証プライム上場廃止。事業再生ADRで15行が最大985億円を放棄、債権放棄・増資・減資で単体の債務超過を1年で解消するまでを決算公告と登記から跡づける。

日医工「1,050億円の崖」── ジェネリック大手の上場廃止と、債権放棄・増資による債務超過の解消
この記事のポイント
- 連結の最終損益は2022年3月期に 1,050億円の赤字 。米国事業の減損などが一度に表面化した「崖」だった。
- 事業再生ADRで15の金融機関が最大 985億円 の債権を放棄。2023年3月、東証プライムの上場が廃止された。
- 単体純資産は2023年3月期にマイナス132億円(債務超過)まで沈んだあと、翌2024年3月期にプラス110億円へ。資本金は1億円まで減資されている。
1. 売上首位級まで来た会社が、1年で1,050億円の最終赤字を出した
日医工株式会社は、ジェネリック医薬品(後発薬)で一時は国内最大手級まで規模を伸ばした製薬会社である。富山に本拠を置き、連結売上高は2020年3月期に1,900億円を超えた。
その会社の連結最終損益が、2022年3月期に 1,050億円の赤字 に沈む。2016年には110億円の最終黒字を出していたが、2021年3月期には42億円の赤字に転じ、翌2022年3月期に赤字幅が一気に1,050億円へ膨らんだ。営業損益も同期に1,101億円の赤字。利益は数年かけてじりじりと細っていたが、最後は減損で一気に崩れ落ちる「崖」のかたちになっている。

崖の翌年、日医工は東京証券取引所プライム市場から退場し、再生ファンドの傘下に入った。そしてほぼ同じ時期に実行された私的整理と増資によって、単体の財務は底を打って戻り始める。拡大の頂点・崩落・再生処理が短い期間に凝縮した会社であり、その輪郭は決算公告と登記簿にはっきり残っている。順を追って整理する。
2. 崖の中身 ── 海外買収の減損と、品質問題の二重苦
崖は二つの要因が重なってできた。
ひとつは海外事業である。日医工は2016年、米国のジェネリック医薬品会社セージェント社を約750億円で買収した。後発薬の世界市場へ打って出る拡大策だったが、買収後は赤字が続き、2022年3月期に800億円を超える減損損失として計上された。連結総資産が2017年3月期に一気に2,700億円規模へ膨らんでいるのも、この海外買収と借入が反映された姿である。

もうひとつは品質問題だ。2021年3月、主力の生産拠点をめぐる品質管理上の問題で、富山県から業務停止命令を受けた。後発薬は安価な薬を安定して供給することに事業の意義があり、その品質管理が問われたことは、業績だけでなく信用にも響いた。
品質問題の影響が残るなか、2022年3月期に米国事業の減損が重なり、連結自己資本比率は前年の30.6%から 5.1% へ薄くなる。連結では2022年9月末の中間時点で約356億円の債務超過に陥った。拡大の歪みが、一度に精算された期だった。

3. 登記が刻んだ「2023年3月8日」
経営の主体がいつ入れ替わったのか。それは決算ではなく、登記簿に日付として残っている。
履歴事項を開くと、2022年まで取締役・監査役に名を連ねていた経営陣の多くが、 2023年3月8日に一斉に「辞任」 と記されている。創業家出身の前社長もこの日付で代表取締役を退いた。そして同じ日、再生を担う新しい代表取締役と取締役が就任する。現在の代表取締役社長は岩本紳吾氏である。役員欄の改選日がこの一日に集中しているのは、後述する再生計画の実行に伴う経営体制の刷新だったと読める。取締役会の顔ぶれごと、経営の主導権が移った。

創業は1947年。富山の地で70年以上続いてきた会社が、この一日を境に、外部の再生主体へ経営を委ねた。事業再生ADRの成立・増資・役員の総入れ替えがこの前後に重なっており、登記の日付はその転換の節目を示している。
4. 985億円の債権放棄と、上場という看板の返上
崖から再生への橋渡しになったのが、事業再生ADRという私的整理の手続きだった。
2022年12月、日医工の事業再生ADRが成立する。取引のある15の金融機関すべてが同意し、金融機関側は最大で 985億円 の債権を放棄した。各社の開示では、これは金融機関の債権の6割強にあたる規模とされる。あわせて2023年3月、再生ファンドと医薬品卸が設立した会社が200億円の第三者割当増資を引き受け、再生の資本が注入された。
そして2023年3月29日、日医工の株式は東証プライム市場から上場廃止となった。上場企業が市場で資金を調達し、株主の評価にさらされ続ける――その立場を返上し、再生主体の資本の下で立て直す道を選んだことになる。会社の元手も整理された。累積した損失を相殺するかたちで、資本金は 1億円 まで減資されている。
5. 上場廃止と同時期に、単体財務は底を打った
ここからが、この会社のもうひとつの意外な点である。上場を失った2023年から2024年にかけて、単体の財務はむしろ急速に戻る。
単体の純資産をたどると、2022年3月期に80億円まで薄くなり、2023年3月期にはマイナス132億円の債務超過に沈む。ところが翌2024年3月期にはプラス110億円へ転じ、わずか1年で債務超過を解消した。2025年3月期にはさらに223億円まで回復している。

戻りの主因は、本業の急回復ではなく財務の再構築である。2024年3月期の単体最終損益は281億円の黒字だが、その多くは金融機関の債権放棄に伴う利益とみられる。加えて、再生時に注入された200億円の増資も純資産の回復に効いている。重い借入を985億円規模で消し、増資で資本を補い、減資で損失を整理したことで、帳簿の傷が一気に塞がった。ただし、2022年3月期までの数字は連結、2023年3月期以降は単体が中心で、同じ物差しで並べているわけではない点には注意がいる。売上自体は単体で1,200億円台の横ばいが続いており、ここから先は債権放棄や増資のような一度きりの効果ではなく、本業の利益で純資産を積み増せるかが問われる局面に入っている。
6. 残った事業と、残った人
財務の傷が塞がっても、後発薬を作って届けるという事業そのものは止まっていない。
社会保険の加入者数でみると、従業員は再生の前後を通じて1,400〜1,500人規模で保たれ、むしろ緩やかに増えてきた。千億円規模の損失と上場廃止という出来事の大きさに比べれば、現場の人員は削られるどころか維持・拡充されている。

後発薬は、高齢化のなかで医療費を抑えるという公的な役割を担う産業であり、安定供給の担い手が事業を続けること自体に意味がある。富山県の業務停止命令を受けた品質管理の問題を立て直し、安く安定して確かな品質で供給するという後発薬の役割をどこまで取り戻せるかが、再生の本丸になる。
7. 看板を返した会社の、次の一手
日医工の数年は、海外買収と規模拡大で頂点に立ち、その歪みと品質問題で大きな損失を出し、私的整理と上場廃止で身を軽くして底を打つ、という流れをたどった。決算公告の数字と、登記簿の「2023年3月8日」という一日が、その全体を淡々と記録している。
ただし、ここまで戻したのは主に財務処理である。債権放棄・増資・減資で帳簿は整ったが、それは事業そのものの再生とは別の話だ。問われるのは、横ばいの1,200億円台の売上を本業の利益でどこまで厚くできるか、そして一度問われた品質への信頼をどこまで取り戻せるかだ。次の決算公告で純資産がどこまで積み上がるかは、「財務の処理」が「事業の再生」に接続したかどうかを測る、最初の物差しになる。
計算方法・データについて
- 連結業績は2022年3月期までの有価証券報告書・決算公告に基づく。2023年3月期以降は、本稿で確認できた決算公告の単体数値を用いた(連結と単体は同じ物差しではない点に留意)。2018年3月期の連結はデータが確認できず、グラフでは当該期を除外した。
- 単体純資産・最終損益は決算公告に基づく。2024年3月期の単体最終損益281億円には、事業再生ADRに伴う債権放棄の影響が含まれるとみられる。
- 事業再生ADRの成立(2022年12月)、金融機関による最大985億円の債権放棄、第三者割当増資、東証プライム上場廃止(2023年3月)、米国子会社の買収額・減損は、会社および関係各社の開示・公表情報に基づく。役員の改選日は登記簿(履歴事項全部証明書)による。
- 資本金1億円への減資は登記簿および決算公告の数値による。日医工は2023年3月の上場廃止に伴い有価証券報告書による継続開示を終えており、2023年3月期以降の数値は決算公告(電子公告)に基づく。
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | 日医工株式会社 |
| 本店所在地 | 富山市 |
| 設立 | 1947年9月 |
| 決算期 | 3月 |
| 主な事業 | ジェネリック医薬品・バイオシミラーの開発・製造・販売 |
| 代表取締役社長 | 岩本紳吾 |
| 連結売上高ピーク | 約1,901億円(2020年3月期) |
| 連結最終損益 | ▲1,050億円(2022年3月期) |
| 単体純資産 | ▲132億円(2023年3月期)→ +110億円(2024年3月期)→ +223億円(2025年3月期) |
| 上場廃止 | 2023年3月29日(東証プライム市場) |