ピーチ・ジョンはなぜ黒字と赤字を行き来するのか — 決算公告11期と登記で読む、親会社ガバナンスの変化

2026年6月2日付の決算公告で、株式会社ピーチ・ジョンが FY2026 +0.85億円の黒字復帰。11期で4回の黒字↔︎赤字スイングと、登記簿に残る親会社ワコールガバナンスの変化を読み解く。

Compalyze 編集部分析対象株式会社ピーチ・ジョン

この記事のポイント

  • 2026年6月2日付の決算公告 で、当社は前期赤字(▲1.90億円)から +0.85億円の黒字に復帰 。決算公告で追える11期のうち、 黒字↔︎赤字のスイングは4回 確認できる
  • 2026年4月1日、 親会社の現任取締役2名がピーチ・ジョン取締役に同日就任株式会社ワコール の登記簿でも在任が確認でき、 約11年ぶりに親会社側の現任取締役がピーチ・ジョンの取締役を兼務する体制 にあたる
  • 11期通算の当期純利益は +41.58億円 だが、純資産は +27.76億円 しか増えていない。差分の 約13.8億円 は、親会社 株式会社ワコールホールディングス 向けの剰余金配当などによる社外流出の可能性を示すが、各期の内訳は決算公告には現れない

1. 2026年6月2日公告、FY2026 は +0.85億円の黒字復帰

株式会社ピーチ・ジョン(法人番号 8011001046445、本店 東京都港区北青山三丁目1番2号、1994年6月1日設立)は、女性向けインナーウェアの企画・通販を主力とする非上場会社である。決算月は3月。当社の決算公告は官報に毎期掲載されており、現時点で確認できるのは 2016年3月期(FY2016)から 2026年6月2日付公告の 2026年3月期(FY2026) まで、 連続11期分

当期純利益11期のスイング

11期を並べたとき、まず目に飛び込むのは 赤字と黒字を行き来する振れ幅 である。

当期純利益同時期の主な出来事
FY2016(2016年3月期)+1.49億円
FY2017+2.13億円
FY2018+3.95億円この時点での過去最高益
FY2019+1.98億円減益
FY2020▲1.61億円コロナ禍、決算公告で初の赤字
FY2021+10.49億円巣ごもり需要で前期比 +12.1億円
FY2022+12.02億円過去最高益を更新
FY2023+2.40億円大幅減益
FY2024+9.78億円再び増益
FY2025▲1.90億円2回目の赤字
FY2026(2026年6月2日公告)+0.85億円黒字復帰

直近6期(FY2021〜FY2026)の動きを並べると、 +10.49 → +12.02 → +2.40 → +9.78 → ▲1.90 → +0.85 。プラスとマイナスがはっきり交互に並ぶというより、 「特定の期に利益が大きく振れ、翌期にはその反動が出る」 という波の打ち方をしている。FY2021〜FY2022 の2期で +22.51億円を稼いだあと、FY2023 は +2.40億円まで急減。FY2024 で再び +9.78億円まで戻したあと、FY2025 は▲1.90億円の赤字に転じ、2026年6月2日公告の FY2026 で +0.85億円まで戻した。

連続11期で 当期純利益の単純合計は +41.58億円 。決算公告では売上高や営業利益が開示されないため、利益スイングの内訳は読み取れないものの、 赤字期にも純資産は大きく毀損していない ことが次章の貸借対照表から見える。


2. 純資産は11期で +27.76億円、累計純利益との差分 約13.8億円

同じ11期を貸借対照表の側から追いかけると、損益のスイングとは別の輪郭が立ち上がってくる。

純資産・総資産・負債の11期推移

純資産は FY2016 の 51.80億円から FY2026 の 79.56億円 へ、11期で +27.76億円 増加した。資本金は 9,000万円のまま動かず 、発行済株式は 1,800株のまま 。利益剰余金が会社のなかに残っていく構造である。

ここで注目できる差分が1つある。 11期通算の当期純利益 +41.58億円 に対して、 純資産の増加は +27.76億円 。差分の 約13.8億円 は、11期のあいだに 当社の純資産に積み増されなかった利益 ということになる。

当社は非上場で、株主は 親会社の 株式会社ワコールホールディングス を中心とした構成と公開情報からは整理されている(次章以降で登記面から確認する)。 株主構成を踏まえると親会社向けの剰余金配当が主因とみられるが、決算公告には剰余金処分案の細目が出ないため、各期の配当金額や自己株式取得の有無までは確定できない 。本記事では「11期累計でおおむね13.8億円が社外に流出した計算になる」というところに留める。

総資産は同期間で 64.53億円 → 88.35億円。負債は 12.74億円 → 8.79億円まで圧縮されており、自己資本比率は 80.27% → 90.05% へ上昇した。 借入依存度は低く、自己資本を厚く保ったまま事業を回している会社 である。


3. ROE は ±16% の振れ幅、自己資本比率は90%へ

利益率と財務体質に目を移すと、業績スイングのなかに「弱まらないもの」がはっきり残っているのが分かる。

ROE・ROA・自己資本比率の11期推移

ROE(純利益 ÷ 純資産)は11期のあいだに ▲3.01% から +16.40% まで 振れている。 FY2021・FY2022 のピーク(16.40%・16.28%)は、過去最高益の2期で記録された数字。FY2023 に 3.19% まで戻り、FY2024 に 11.82% へ再上昇、FY2025 に ▲2.41% で再び赤字。 FY2026 は +1.07% で、いったん黒字側に戻ったが、ピーク時の10分の1以下の水準にとどまる。

ROA も同じ形のスイングを描いている。FY2022 の 13.80% がピークで、FY2025 の ▲2.16% がボトム。

その一方で、 自己資本比率は11期通じて80%台後半〜90%台で安定 している。赤字期にも自己資本は大きく削られていない。FY2021 だけ自己資本比率が 75.14% まで下がっているが、これは負債側が同期に 10.37億円 → 21.17億円へ膨らんだことが効いている。FY2022 には自己資本比率が 84.74% に戻っており、FY2026 公告では 90.05% と過去11期の最高水準に到達した。

業績は派手にスイングしながら、 財務体質そのものは年々堅くなっている 。それが11期の貸借対照表が語る、もう1つの側面である。


4. 2026年4月、親会社の現任取締役2名がピーチ・ジョン取締役に同日就任

2026年6月2日付の決算公告と並んで、もう1つ重要な登記上の動きがある。 2026年4月1日付で、当社の取締役に2名が同日就任 している。

役員ガバナンスの変遷と主要イベント

この2名は、当社の登記簿の取締役欄に新たに登場するだけでなく、 同じ氏名が 株式会社ワコール の現行登記簿の取締役欄にも 2023年4月1日就任分として在任中 であることが確認できる。すなわち、 親会社(事業会社)の現任取締役2名が、ピーチ・ジョンの取締役を兼務する体制 に切り替わったことが、両社の登記の突合から読み取れる。

決算公告に毎期1名掲載される当社の代表者欄を11期分追いかけていくと、 代表者は3代続けて交代 している。

公告期代表者欄
FY2016〜FY2018前代表取締役 A(同一人物)
FY2019〜FY2023(公告ベース)前代表取締役 B(同一人物)
FY2024〜FY2026西澤恒地氏(現任、2024年4月1日代表取締役就任)

加えて、当社の閉鎖履歴には、 2012年〜2015年のあいだ、親会社の経営トップ(当時)が当社の取締役に在任していた ことが記録されている。同氏は2012年11月30日に就任し、2015年6月22日に退任。 創業者が役員から退いた直後の時期に、 親会社側の役員が当社の取締役を兼ねる体制が登記の上で確認できる 段階である。

そこから 約11年。 2026年4月1日の取締役2名の同日就任は、 2015年の同種の体制が一旦解消されて以来、親会社側の役員兼務が再び明確になった節目 にあたる。

なお、 当社の現任の代表取締役は西澤恒地氏(2024年4月1日就任)のままで、2026年4月の動きは取締役レベルの変更で、代表交代は伴っていない。新任取締役2名は、 親会社側の現任取締役がピーチ・ジョンの取締役を兼務する という位置づけにある。


5. 創業者の退任と「親会社経営トップ取締役在任」の重なり — 2012年の節目

役員の交代を、現行登記から閉鎖履歴の側へさかのぼっていくと、 2011〜2012年に2つの大きな変化が同時に起きていた ことが浮かび上がる。

1つは 創業者の登記簿上の変化 。当社の閉鎖履歴には、 創業者の取締役在任が 2011年10月10日に「重任(前姓から後姓へ氏変更)」と記録され、 その8か月後の 2012年6月18日に辞任 という流れで残っている。創業者の経営からの退任は、登記の上ではこの 2012年6月18日が節目になる。

もう1つが、 同じ2012年の11月30日、親会社の経営トップ(当時)が当社の取締役に就任 している点。 創業者退任のおよそ5か月後に、親会社側の役員が当社の取締役を兼ねる体制が登記の上でも確認できるようになった節目である。

日付出来事
2006年(公開情報)当社が親会社の傘下に入る
2011年10月10日創業者、氏変更を伴う重任登記
2012年6月18日創業者、取締役を辞任
2012年11月30日親会社の経営トップ(当時)が取締役に就任
2014年4月1日株式会社HONEY BEE INTERNATIONAL を吸収合併
2015年6月22日親会社の経営トップ(当時)、取締役を退任
2018年11月5日本店を渋谷区神宮前から港区北青山へ移転
2024年4月1日新代表取締役(西澤恒地氏)就任
2026年4月1日親会社の現任取締役2名が取締役に同日就任

2012〜2015年と、2026年。 約11年の間隔を空けて、親会社側の役員兼務という形でのガバナンス接続が登記の上で再び明確になっている という時系列が、現行登記と閉鎖履歴の両方を重ねたときに見えてくる。


6. 2014年4月の吸収合併 — 株式会社HONEY BEE INTERNATIONAL を本体に取り込む

当社の閉鎖履歴には、 2014年4月1日付で、株式会社HONEY BEE INTERNATIONAL を吸収合併 した記録が残っている。被合併会社の本店は「東京都渋谷区神宮前六丁目17番11号」と書かれており、 当時のピーチ・ジョン本店(同じく渋谷区神宮前六丁目17番11号)と 完全に同じ住所 である。

社名と本店住所が当時のピーチ・ジョンと完全に一致している点から、当社の関連ブランド・関連事業を担っていたグループ内の別法人だった可能性が高い。 親会社の傘下に入ったあとに関連法人を本体に取り込む動きが、 創業者退任のおよそ2年後 に登記の上で起きていることになる。

この合併以降、当社の決算公告に被合併会社由来の事業が組み込まれた状態で、FY2016 以降の貸借対照表が並んでいく。


7. 商標176件で追う、創業期 → ワコール傘下 → D2C 再構築

特許庁 J-PlatPat 上で確認できる当社名義の知財は、 商標176件・意匠8件・特許3件 の合計187件。1999年から2025年までを年単位で追うと、 ブランド戦略の節目がはっきり3つに分かれる。

商標出願件数の年次分布

第1のヤマは 1999〜2001年 の創業期。法人化(1994年6月)から数年遅れで主要商標を一気に出願している。

第2のヤマは 2007年の22件集中出願 。 親会社が当社を傘下に取り込んだ直後の時期にあたり、 親会社傘下入り後に当社名義の商標を一気に整理・拡充した動きとして読める。

第3のヤマは 2018〜2021年の40件 。「PEACHYS」「PJ BASIC」「Mira Fit/ミラクルフィット」「Real Size Model/リアルサイズモデル」「恋する、ルームウェア」「まいにち美胸」など、 D2C ブランドの再構築期 にあたる名称が並ぶ。直近では2024年に「巨匠のブラ」「PEACH JOHN FASHION」、2025年に「ふわもこキャットルームシューズ」が出願されている。

期によって出願ペースは波打つが、 創業期 → ワコール傘下 → D2C 再構築 の3つの段階が、商標の年次グラフだけで追えるかたちになっている。


8. PRリリースは2022年が過去最多87件 — 過去最高益と同じ期に集中

PRTimes 経由のリリース数は11期で 601件。年次推移は、業績スイングと意外と近い波形を描く。

PRリリース件数(PRTimes、年次)

2014年の 12件から、2017年に 54件、2018年に 64件、2019年に 53件、2020年に 46件、2021年に 65件、 2022年に過去最多の 87件 。FY2022 の当期純利益 +12.02億円(過去最高益)と、PRのピーク 87件が 同じ会計年度(2022年)に重なっている

2023年以降は、FY2023 の減益局面で 50件まで一旦下がり、FY2024(2024年)の 56件、FY2025(2025年)の 59件と、年60件前後の水準が継続している。2026年は5月末時点で 22件、これは年率換算で 55〜60件のペースである。

決算公告では売上高が読めないものの、 PR件数のピークと当期純利益のピークが同じ時期に重なっている 点は、事業活動の活発さを公告以外の角度から見るときの補助線になる。因果の方向(発信が利益を押し上げているのか、業績の追い風がPRに反映されているのか)は公開情報からは確定できない。


9. 従業員数は 316名(2026年5月時点)

社会保険被保険者数の月次推移では、2024年4月の 329名から、 2026年5月時点で 316名 。 2年余りで微減ながら、ほぼ横ばいの推移にとどまる。

新任取締役の同日就任(2026年4月1日)後の単月、 2026年4月の被保険者数は 315名、5月は 316名。 大規模な人員入れ替えを伴う体制刷新というよりも、 役員レベルの体制強化が先行する形のガバナンス変更 と読める。


10. 11期の総括 — 親会社ガバナンスと業績スイングをつなぐ補助線

11期の決算公告と、現行+閉鎖の登記情報を重ねるだけで、 業績スイング・代表交代・親会社側との役員兼務・吸収合併・ブランド戦略の節目 が、すべて時系列でつながる。 連続11期分の貸借対照表が官報に出ているという事実そのものが、当社を分析対象として扱える前提になっている。

そのうえで、本記事が 届かなかった領域 を簡潔に共有しておく。

  • 損益計算書の内訳(売上高・営業利益・販管費)が出ないため、 赤字期の主因(在庫評価・販促費の先行投下・為替など)は今回の情報源からは特定できない
  • 親会社向け配当の各期の金額は剰余金処分案の細目が出ないため、 純資産差ベースの試算(約13.8億円)以上の精度には踏み込めない
  • 自社EC・直営店・卸売・海外事業の構成比は公告には現れず、 業績の「振れの内訳」はチャネル単位では追えない
  • 親会社 株式会社ワコールホールディングス の連結開示で「ピーチ・ジョン事業セグメント」がどこまで切り出されるかは、グループ全体での位置づけを読むうえでの今後の補助線になる

計算方法(Methodology)

  • 11期分の決算公告データは、すべて 官報の決算公告 から取得した株式会社ピーチ・ジョンの年次データ。決算月は3月、すべて単体ベース。各期の「FY」は決算期末の年を指す(FY2026 = 2026年3月期、2026年6月2日公告分)
  • 当期純利益・総資産・純資産・負債は、官報の表記をそのまま採用し、円換算後の 億円表示(小数点第2位まで) に統一している
  • 「11期累計純利益 +41.58億円」は、11期の当期純利益の単純和。「純資産増 +27.76億円」は、FY2026 の純資産(79.56億円) − FY2016 の純資産(51.80億円) で算出。差分の 約13.8億円 は、配当・自己株式取得・その他の資本取引による正味の社外流出と整理しているが、各期の内訳までは公告から取れない
  • 自己資本比率(純資産 ÷ 総資産)、ROE(当期純利益 ÷ 純資産)、ROA(当期純利益 ÷ 総資産)は公告の数字から算出。期中平均ではなく期末値による単純比
  • 役員・代表取締役の変遷は、当社の現行登記事項全部証明書と閉鎖事項証明書の両方を突き合わせた範囲で集計。当社の現任の代表取締役は西澤恒地氏(2024年4月1日就任)のため、本文では同氏のみ実名で表記。それ以前の代表者や、親会社経営陣として在任した取締役は役職表記としている
  • 親会社の現任取締役2名がピーチ・ジョン取締役を兼任していることは、当社の現行登記簿の取締役欄(2026年4月1日就任)と、 株式会社ワコール の現行登記簿の取締役欄(2023年4月1日就任、現任)の 氏名突合 から確認している
  • 商標176件は、特許庁 J-PlatPat 上で 株式会社ピーチ・ジョンを出願人とする登録分 を集計した数値。 親会社や関連会社名義の商標は集計対象外
  • 株主構成(親会社の持株比率)は当社の公告にも登記にも数字としては記載されないため、 会社全体の時価総額の算定は行っていない (前掲のジャーナル共通の算定ルールが、当社のデータ条件では成立しないため)

ファクトシート

項目内容
法人名株式会社ピーチ・ジョン
法人番号8011001046445
本店東京都港区北青山三丁目1番2号
設立1994年6月1日
決算月3月
資本金9,000万円(11期間動かず)
発行可能株式総数2,400株
発行済株式の総数1,800株
株式の譲渡制限あり(取締役会承認)
公告方法官報に掲載して行う
機関設計取締役会設置会社/監査役設置会社
現在の代表取締役西澤恒地(2024年4月1日就任)
社会保険被保険者数316名(2026年5月時点)
主要な親会社株式会社ワコールホールディングス(公開情報。持株比率は公告・登記には記載されない)
過去の合併株式会社HONEY BEE INTERNATIONAL を吸収(2014年4月1日、閉鎖履歴に記載)
直近の本店移転2018年11月5日、東京都渋谷区神宮前から東京都港区北青山へ

本文で言及した企業