退職代行17主体の社会保険を調べた ── 2026年8月は最大13人、中央値2人
退職代行を主力として運営する17主体の健康保険・厚生年金の被保険者数を照合した。2026年8月時点で全社13人以下・中央値2人。ただし最大の1社は1年前まで47人いた。合同労働組合が運営する主要サービスは、公表された法人番号から辿れない。

退職代行を利用した従業員の退職を経験する企業は増えている。だが、その事業者がどれくらいの規模なのかは、ほとんど分かっていない。
Compalyze は、複数の比較サイトのランキングに共通して掲載される退職代行サービスを対象に、公式サイトの運営者表記から現在の運営法人を特定した。そのうえで健康保険・厚生年金の被保険者数、決算公告、設立年を照合した。退職代行を主力として運営する主体として特定できたのは17。2026年8月時点で、その全てが13人以下、中央値は2人だった。
ただしこの数字は、業界の上限を示すものではない。最大の1社は1年前まで47人を数えていた。
この調査のポイント
- 退職代行を主力とする17主体の被保険者数は、2026年8月時点で最大13人・中央値2人。10人を超えるのは1主体のみ
- ただし最大の1社は2025年8月に47人を数えていた。13人は事件を経た後の現在地であって、業界の構造的な上限ではない
- わたしNEXT・トリケシなど、合同労働組合が運営する主要サービスは、公表された法人番号から辿れず、行政データに接続できない
17主体すべてが13人以下、中央値2人

最も多いのが退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロスの13人。次いで退職代行Jobsの株式会社アレスが9人、弁護士法人川越みずほ法律会計と退職代行みらいの株式会社あいゆめが8人と続く。10人を超えるのは17主体のうち1主体だけだった。
看板の大きさと人数は対応していない。株式会社ニコイチは創業2004年でこの業界の最古参にあたり、公称で累計6万8千人以上を支援したとしているが(2026年8月時点の同社公表値)、被保険者は1人である。労働組合が運営する退職代行SARABAの運営会社である株式会社スムリエと、退職代行ネルサポのネルサポート株式会社は0人だった。
被保険者数は従業員数そのものではない。役員も算入される一方、加入要件を満たさない短時間勤務者や業務委託は入らない。短時間労働者でも、所定労働時間・日数が通常の労働者の4分の3以上なら企業規模を問わず対象になり、被保険者51人以上の事業所では週20時間以上・月額8.8万円以上などの要件を満たせば対象になる。弁護士法人でも、社員弁護士等が厚生年金の対象になる場合がある。
つまり「何人が関わっているか」ではなく、「社会保険に載る形で人を抱えているか」を示す数字だ。ニコイチが公称する従業員7名と被保険者1人の開きが、その射程を示している。
言えるのは、2026年8月時点でこの17主体がいずれも13人以下だった、ということまでである。
ただし、最大の1社は1年前まで47人だった
この13人という数字を「業界の上限」と読むと、間違える。

最大のアルバトロスの被保険者数を月次でさかのぼると、2023年12月は10人だった。そこから増え続け、2025年8月には47人に達している。 1年8か月で4.7倍。同社は2025年1月期に売上高約3億3,000万円を計上したとされる(東京商工リサーチによる)。
数字が反転するのは、2026年2月の逮捕・起訴の翌月からだ。42→35→28→21→15→13人。当初の4か月は月6〜7人ずつ減り、その後13人で下げ止まっている。2026年4月に経営体制を改めて営業を再開した後も、13人のままだ。
つまり「この業界は人を増やさない」とは言えない。 少なくとも1社は47人まで組織を広げた。今回の13人以下という分布は、その1社が事件を経て縮んだ後の姿を含んでいる。2026年8月という一時点のスナップショットである。
他の16主体について同じ月次の増減を追うと、事件の前後で目立った変動はない。動いたのは、事件の当事者になった1社だった。
そもそも、法人番号から追えない主体がいる
業績も外からは見えにくい。Compalyze で官報の決算公告を確認できたのは、17主体では1社だけだった。 元祖である退職代行EXITを引き継いだENTRANCE株式会社の、2025年6月期・純利益▲210万円・純資産58万円である。17主体には労働組合や弁護士法人も含まれ、株式会社でも公告方法が官報とは限らないため、これを公告義務の履行率として読むことはできない。
さらに、この調査の対象にすら入らない主体がある。わたしNEXT・男の退職代行を運営する「退職代行toNEXTユニオン」、退職代行トリケシの「日本労働産業ユニオン」、退職代行オイトマが提携する「日本通信ユニオン」。
これらについては、国税庁の法人番号公表サイトで公表された法人番号を確認できなかった。
ただし「法人番号を持たない」とまでは言えない。法人番号は設立登記法人だけでなく、税法上の届出を提出する人格のない社団等にも指定される。そして人格のない社団等の場合、商号・所在地・法人番号の基本3情報は、代表者等が公表に同意したときにだけ公表サイトに載る。同意がなければ、番号を持っていてもサイトには現れない。
いずれにせよ、公表された法人番号をキーに社会保険や決算公告へ接続するこの方法では、追うことができない。規模を測る手がかりが、外部からは用意されていない。
同じ組合型でも、退職代行ガーディアンの東京労働経済組合や退職代行ローキの労働基準調査組合は公表された法人番号を持っており、数字を引くことができる。組合型の中で、辿れる主体と辿れない主体が混在している。
市場が伸びていると言われながら、その果実がどこにどれだけ落ちているかは、公開情報からはほとんど確認できない。この調査が並べた17主体も、業界の全体像ではない。外から数字を引ける範囲にすぎない。
設立10年以内が13主体
帝国データバンクが2025年10月に公表した調査によれば、退職代行を手がける事業者は全国に少なくとも52法人あり、その内訳は民間31法人・弁護士法人18法人・組合など3。うち75.0%が設立10年以内、32.7%は設立5年以内だという。
今回特定した17主体も同じ傾向を示した。設立日が判明する14主体のうち、13主体が設立10年以内、5主体は5年以内である。2020年以降に集中し、最も新しいのは2025年設立の2社だった。所在地は8つの都府県にまたがっていた。
本人の退職意思を勤務先へ伝えるだけの民間の退職代行に、専用の許認可制度はない。一方で、未払い賃金や有給休暇といった権利に関わる交渉、そして弁護士への有償の取り次ぎには法的な制約がかかる。その境界が問われたのが、今回の事件だった。
業界団体もある。一般社団法人日本退職代行協会は2019年に設立され、事業者を100項目以上の検査項目で審査して認定マークを付与する仕組みを掲げている。ただし確認できる範囲では、公式サイトの更新は2025年1月29日が最後だった。
事件後10か月、対象17主体のうち12は該当リリースなし
2025年10月以降、退職代行大手の運営会社をめぐって弁護士法違反事件が起きている。2026年8月28日、東京地裁は株式会社アルバトロスの前社長らに執行猶予付きの有罪判決を言い渡し、法人には罰金200万円を科した。紹介を受けた弁護士側では、一方は6月に有罪判決(控訴中)、もう一方は10月7日の判決を待つ。
その前後で、各社の発信量を数えた。

2025年10月22日以降、表題に「退職代行」を含むプレスリリースのうち、今回の17主体および事件に関する告知を出した弁護士法人によるものは20件だった。最も多かったのは2025年2月設立の後発企業で8件、次いで弁護士法人が5件。
一方で、対象17主体のうち12主体では、この期間に条件に合う退職代行関連のプレスリリースを確認できなかった。
ただし、これは受任が動いた記録ではない。各社がそう公表した、という記録である。発信がないことも、依頼が来ていないことの証拠にはならない。そもそも発信しない会社はある。
それでも、被保険者の側は動いていない。「連休中の問い合わせが過去平均比700%超」と公表した事業者も、2026年7月・8月とも1人のままだった。需要が振れても、常用雇用の側は動かなかった。
何が測れていないか ── この調査の限界
対象は「複数の比較サイトのランキングに共通して掲載され、かつ公式サイトの運営者表記から現在の運営法人を特定できたサービス」に限っている。業界全体は少なくとも52法人あり、今回の17主体はその一部である。
もう一つ、母集団の取り方を明示しておく。今回並べたのは「退職代行を主力として運営する主体」であり、退職代行が事業の一部にすぎない会社は外している。この線引きを外して「現在の運営法人」を機械的に採ると、退職代行OITOMAを運営する株式会社H4(被保険者1,066人・本業は労働者派遣や職業紹介などの人材サービス)のような会社が入り、分布はまったく違う形になる。
したがって今回言えるのは「退職代行を主力とするプレイヤーは小さい」であって、「退職代行サービスの運営会社はすべて小さい」ではない。
とくに、合同労働組合が運営する主要サービスは運営主体に法人番号がないため、この方法では最初から対象にできない。測れないものが体系的に落ちる、という偏りを含んだ数字であることを、あらかじめ断っておく。
立ち上げ元と現在の運営法人が異なるサービスもあった。退職代行Jobsは株式会社アイリスからアレスへ、退職代行OITOMAは株式会社5coreから株式会社H4へ移っている。本稿では現在の運営法人を採った。なお両社のうち株式会社アイリスは73人、株式会社H4は1,066人の被保険者を抱えるが、いずれも本業は退職代行ではない(訪問鍼灸マッサージ等、および人材サービス)。まとまった常用雇用を抱えていたのは、退職代行を本業にしていない会社のほうだった。
なぜ、この業界の事業者は大きくならないのか。 弁護士法72条が定める「交渉」の担い手の制約と、その制約だけでは説明しきれない部分について、別稿で詳しく分析している。
この調査で使ったデータ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 退職代行を本業として現に運営している17主体。複数の比較サイトのランキングに共通して掲載されるサービスを候補とし、公式サイトの運営者表記・特定商取引法に基づく表記で現在の運営法人を確認できたものに限った。合同労働組合が運営する主要サービス(わたしNEXT・男の退職代行・トリケシ等)は運営主体に法人番号がなく対象外 |
| 社会保険の被保険者数 | 2026年8月4日時点。法人単位。パート・短時間・業務委託、弁護士法人の社員弁護士は含まない |
| 決算数値 | 官報に掲載された決算公告 |
| 設立年・所在地 | 履歴事項全部証明書および国税庁法人番号公表サイト |
| プレスリリース | 2025年10月22日〜2026年8月26日に配信され、表題に「退職代行」を含むもののうち、対象17主体および事件に関する告知を出した弁護士法人によるもの |
事業者数・運営形態の内訳は帝国データバンク「主要『退職代行サービス』動向調査」(2025年10月24日)による。
本文で言及した企業