渋沢栄一ゆかりの帽子ブランドを継ぐ1896年創業の洋傘商・オーロラ ── コロナ期に縮んだ純資産18.5億円と回復、2025年の3社統合
渋沢栄一らが設立に関わった東京帽子(→オーベクス)の帽子事業を2007年に継いだ、1896年創業の洋傘商オーロラ。2020〜2022年2月期に純資産を約18.5億円縮め、その後黒字へ回復。2025年2月にグループ3社を本体へ吸収合併した老舗を、決算公告と登記から読む。

渋沢栄一ゆかりの帽子ブランドを継ぐ1896年創業の洋傘商・オーロラ ── コロナ期に縮んだ純資産18.5億円と回復、2025年の3社統合
この記事のポイント
- 新一万円札の顔となった渋沢栄一らが設立に関わった帽子会社(東京帽子→オーベクス)の帽子事業を、オーロラは2007年に引き継いだ。「トーキョーハット」というブランドは、その系譜を継ぐものである。
- 傘・スカーフ・帽子という「外出のための道具」を売る商いは、コロナ禍の外出自粛と相性が悪かった。当期純利益は2020〜2022年2月期の3期で累計約17.8億円のマイナス、純資産は2019年2月期の約48億円から2022年2月期の約30億円へ、約18.5億円縮んだ。その後は黒字に戻り、2025年2月期に純利益約4.6億円まで回復した(2026年2月期は約1.2億円)。
- 2025年2月、オーロラは渋谷区神宮前に集まっていたグループ会社3社を一斉に吸収合併し、本体へ束ねた。同じ「オーロラ」の名を冠したグループ会社を、本体へ整理した動きである。
§1 渋沢栄一ゆかりの帽子ブランドを継ぐ、1896年創業の洋傘商
オーロラ株式会社は、洋傘・スカーフ・マフラー・ストール・帽子をつくって売る、ファッション雑貨の会社である。創業は1896年(明治29年)2月。洋傘と和装ショールの製造卸として始まり、法人としての設立は1947年(昭和22年)5月にさかのぼる。資本金は1億円で、全期間を通じて据え置かれてきた。本社は東京都渋谷区神宮前の自社ビル(オーロラビル)に置かれ、香港に現地法人を構えるほか、大阪支店・福岡店なども持つ。代表取締役社長は若林康雄氏が務める。
130年近く続く老舗だが、親会社や株主構成は公開情報からは確認できない。資本金を1億円のまま据え置いてきた点は、外部から大きな増資を募ってこなかった姿としては読めるものの、非上場のため株式が誰の手にあるのかは見えない。ここでは独立系とみられる老舗として扱い、所有のかたちは未確認と断っておく。
この会社にはもうひとつ、出自にまつわる縁がある。新一万円札の顔となった渋沢栄一にゆかりのある帽子ブランドを、オーロラが継いでいるのだ。

§2 2007年、旧・東京帽子の帽子事業を継ぐ ── トーキョーハットの系譜
縁の中心にあるのは「トーキョーハット(Tokio hat)」というブランドである。ただし、ここは取り違えやすいので、史実を丁寧にたどっておきたい。
渋沢栄一が興したのはオーロラそのものではない。渋沢栄一らが設立に関わり、渋沢自身も出資して取締役会長を務めた(1909年に辞任)のは、別の会社「東京帽子株式会社」だ。東京帽子は1892年(明治25年)12月の設立で、前身は1887年に設けられた有限責任日本製帽会社にさかのぼる。日本の洋式帽子の草分けにあたる会社である。
その東京帽子は、1985年に「オーベクス株式会社」へ社名を変えた。そして2007年、オーロラがこのオーベクス(旧・東京帽子)の帽子事業を引き継いだ。トーキョーハットは、こうしてオーロラの手に渡ったブランドだ。会社側は「国内初」をうたうが、ここでは国内初をうたう帽子ブランド、と帰属を明らかにして記しておく。
オーロラの側にも、帽子を受け入れる素地があった。洋傘と和装ショールの商いとして始まった同社は、戦後にスカーフやマフラーへ品ぞろえを広げ、1993年からは婦人帽子も扱うようになっていた。洋傘で培った企画と流通の上に、帽子という季節商材を一本足していたところへ、2007年、渋沢栄一らが設立に関わった東京帽子の系譜が重なった。洋傘商が帽子の老舗ブランドを継ぐという展開には、こうした下地がある。
つまりオーロラは、渋沢栄一らが設立に関わった東京帽子の帽子事業の系譜を2007年に引き受け、いまも継いでいる会社ということになる。2024年7月に新一万円札が発行され、渋沢栄一がその顔となったのを受けて、オーロラはこのブランド資産を改めて打ち出している。歴史上の人物と、手元に残る商標とが結びつく、めずらしい縁である。
§3 コロナ期に縮んだ約18.5億円、そして回復 ── 「外出の道具」を売る商いの宿命
決算公告は、この会社が通った試練と回復を映している。なお、売上高は決算公告に開示されていないため、ここでは利益・純資産・総資産・自己資本比率で事業の姿を読む。決算期はいずれも2月で、数字は単体である。
当期純利益を並べると、2016年2月期の約0.87億円から、2017年2月期に約3.76億円のマイナス、2018年に約0.89億円、2019年に約3.28億円と、もともと上下の振れが大きい。赤字が続いたのが2020年2月期(約4.01億円のマイナス)・2021年2月期(約10.42億円)・2022年2月期(約3.33億円)の3期で、合算すると当期純損失は累計で約17.8億円に達する。このうち国内で外出自粛が広がったのは2020年春以降のため、コロナ禍の需要減がはっきり効いたのは2021年2月期と2022年2月期とみられる。2020年2月期の赤字は、それ以前から続く利益変動の延長線上にある可能性もある。
傘も、スカーフも、帽子も、人が外に出て使い、外出を装うためのものである。外出そのものが控えられた時期に、これらの需要が細る商いであることは想像にかたくない。純資産は、2019年2月期の約48.22億円から、2022年2月期には約29.72億円へ、約18.5億円縮んだ。自己資本比率も、2016年2月期の48.5%から、2021年2月期には34.4%、2022年2月期には32.2%へと下がった。

回復は、その後にやってきた。2023年2月期に約0.46億円の黒字へ戻ると、2024年2月期は約1.26億円、2025年2月期は約4.64億円と利益を伸ばした。ただし2026年2月期は約1.20億円で、利益の水準は前期から一段下がっている。純利益の戻りは、外出が日常に戻った商いの回復として読める。一方で、黒字が続いても純資産は30億円前後で頭打ちで(2026年2月期は約31.23億円)、コロナ前の約48億円の水準には戻っていない。黒字を計上しながら純資産が積み上がらないということは、稼いだ利益とほぼ同じだけのものが、配当などで会社の外へ出ているか、過年度の損失の穴埋めに充てられている計算になる。非上場のオーナー企業として、利益を内部に厚く残すより株主へ還元してきた姿とも読めるが、決算公告だけでは配当の有無までは確かめられない。総資産は2016年2月期の約99.71億円から、2020年2月期に約104.10億円まで膨らんだのち、2025年2月期には約74.86億円へ縮み、2026年2月期は約82.61億円へ戻している。負債は48〜63億円規模で動いており、決済や仕入れの運転資金を厚めに抱える、卸売型のバランスシートの姿がうかがえる。

人の面でも、規模は保たれている。公式の従業員数は正社員ベースで158名、社会保険の被保険者ベースでは約350人とされる(被保険者数は正社員数そのものではない)。

§4 153件の商標が映すブランド工房
オーロラの輪郭は、特許庁の記録にもよく表れている。商標の登録は累計で153件にのぼる。出願は2000年代から途切れず続き、2000年に17件、2009年に17件、2012年に16件と、毎年のようにブランドを出願してきた。実用新案は11件あり、傘の差し込み機構「楽スポっ」のような、開閉や着脱の仕掛けに関わるものが並ぶ。意匠は6件、特許は3件である。

登録されたブランドは多彩だ。前章でたどったトーキョーハット(Tokio hat)に加え、社名を冠した「AURORA」、2023年にリブランディングしたオリジナルの「Beaurance(ビューランス)」、俳優の松山ケンイチ・小雪によるコレクション「momiji(モミジ)」などがある。さらに、オーストラリア発のブランド「LORNA MURRAY」の傘ライセンス、晴雨兼用傘でのUngridやdazzlinといったライセンスも手がける。自社ブランドと、外から預かったライセンスとを、ひとつの会社のなかで仕立てて束ねる形である。153件という商標の厚みは、この多ブランド経営を支える資産として読める。
§5 2025年、グループ3社を本体へ
ブランドの統合に呼応するように、会社の器そのものも整え直された。
登記簿によれば、2025年2月20日、オーロラはグループ会社3社を一斉に吸収合併している。株式会社オロール、株式会社極光、株式会社コルドナータの3社で、いずれも渋谷区神宮前というオーロラと同じ所在地に置かれていたグループ会社である。
3社の来歴は、登記と決算公告からある程度たどれる。株式会社オロールは、もともとイタリアの高級帽子ブランド「ボルサリーノ」の日本法人として2007年に設けられた会社で、設立時の商号は「ボルサリーノ・ジャパン」だった(2018年に現在の商号へ変わっている)。資本金1,500万円の小さな会社である。株式会社極光は、合併直前の決算公告で総資産が約15.9億円にのぼる事業会社だったが、純資産はマイナス(債務超過)の状態にあった。株式会社コルドナータは、総資産約2.45億円のほぼ全額が純資産で、負債の少ない、資産を持つための器のような姿だ。ブランド・事業・資産の機能を別々の会社に分けて持っていたグループを、本体へ一本化したのが、この2025年2月の合併だったと読める。
社名も、この会社の世界観を映している。「極光」はオーロラ(aurora)の和名であり、「オロール」はフランス語で暁を意味するAurore(オーロラ)にあたる。ボルサリーノの日本法人だった会社は、2018年の商号変更でこの「オロール」の名をまとった。同じ「オーロラ」の名を、和とフランス語でそれぞれ冠したグループ会社だったことになる。本店の移転履歴も、この集約と歩調を合わせている。かつて千代田区一番町、次いで麹町にあった本社は、2021年2月に現在の渋谷区神宮前へ移った。
§6 結び ── 旧・東京帽子から継いだ系譜を、どう伸ばすか
オーロラの直近は、PRの動きにも表れている。2023年6月にコンセプトストア「AURORA」をグランドオープンし、2024年7月には新一万円札の発行に合わせて「トーキョーハット」を打ち出した。2025年5月にはAURORA丸の内店を期間限定で開き、2026年4月にはZOZOTOWNに「AURORA」公式ショップを設けて、Ungridやdazzlinの晴雨兼用傘を並べている。歴史あるブランドと、いまの売り場とを、両方の手で動かしている。
ここから先で見たいのは、二つの問いである。ひとつは、2025年2月にグループ3社を束ねたことで、本体の単体決算がどう変わるか。3社を取り込んだ後の純資産や総資産が、これまでの数字とどう接続するのかは、次以降の公告で初めて見えてくる。もうひとつは、渋沢栄一らが設立に関わった東京帽子から受け継いだ帽子の系譜と、晴雨兼用傘やライセンスといった現在の主力を、どこまで太く育てられるかである。130年の歴史と、新札がもたらした追い風と、整え直したばかりの器。これらをどう束ね直すのかが、この老舗の次の見どころになる。
計算方法・データについて
- 売上高は決算公告に開示がないため、本記事では利益・純資産・総資産・自己資本比率で事業の姿を読んでいる。利益などの数値は、いずれも各2月期の単体の決算公告による。
- 累計純損失(約17.8億円)は、2020年2月期(約4.01億円)・2021年2月期(約10.42億円)・2022年2月期(約3.33億円)の3期の当期純損失を合算したもの。純資産の縮小(約18.5億円)は、2019年2月期の約48.22億円と2022年2月期の約29.72億円の差。国内で外出自粛が広がったのは2020年春以降のため、コロナ禍の需要減がはっきり効いたのは2021年・2022年2月期とみられ、2020年2月期の赤字には別要因の可能性もある。
- 親会社・株主構成は公開情報からは確認できず、本記事では独立系とみられる非上場の老舗として扱った(所有構造は未確認)。
- 2025年2月20日のグループ3社(オロール・極光・コルドナータ)の吸収合併は登記簿による。各社の所在地・法人番号は、本文中の会社名リンク先で確認できる。オロールの旧商号(ボルサリーノ・ジャパン)と各社の資本金・総資産・純資産は、登記簿および各社の決算公告(2024年2月期)による。
- オーロラの帽子事業は、1896年の洋傘・和装ショールの創業、1993年からの婦人帽子の取り扱い、2007年の東京帽子(→オーベクス)の帽子事業の承継、という流れによる(会社の公表沿革)。
- 従業員数は、社会保険の被保険者ベースで約350人(正社員ベースの公式従業員数は158名)。被保険者数は正社員数そのものではない。
- 商標・実用新案・意匠・特許の件数は、特許庁の登録・出願の記録による。
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | オーロラ株式会社 |
| 本店所在地 | 東京都渋谷区神宮前(オーロラビル) |
| 創業 / 設立 | 1896年(明治29年)2月創業 / 1947年(昭和22年)5月設立 |
| 決算期 | 2月 |
| 主な事業 | 洋傘・スカーフ・マフラー・ストール・帽子の製造販売(ファッション雑貨) |
| 代表取締役社長 | 若林康雄 |
| 資本金 | 1億円 |
| 純資産 | 約31億円(2026年2月期) |
本文で言及した企業