NOT A HOTELの推定評価額は約746億円 ─ リリースで確認できない2026年1月の29億円増資と、黒字の別荘販売×ホテルモデルを決算公告・登記簿で検証

NOT A HOTELを決算公告4期と登記簿3通で分析。2026年1月にプレスリリースで確認できない約29.1億円の増資が登記され、全株式数ベースの推定時価総額は約746億円。確認できる直近2期の黒字とJ-KISS 6本の転換設計、総資産285億円の構造を整理した。

Compalyze 編集部分析対象NOT A HOTEL株式会社

この記事のポイント

  • 2026年1月16日、C種・C1種優先株式で計 約29.1億円の払込が登記された。対応するプレスリリースは確認できず、 登記が先に映した直近ラウンド 。1株単価49,496円から算定する全株式数ベースの時価総額は 約746億円
  • 決算公告で確認できる直近2期(2024年3月期 +4.8億円、2025年3月期 +2.6億円)は黒字。公告が確認できない2023年3月期も逆算ではおよそ +3億円と推定され、 推定を含めれば3期連続黒字
  • J-KISS型新株予約権6本(計約25.5億円)がA1種・B種・C種優先株式へ2〜3割引で転換。総資産は1年で119億円から285億円へ膨張

本記事の前提 NOT A HOTEL株式会社(本店:東京都中央区、設立:2020年4月1日)について、 (1) 決算公告 4期分(2021年3月期〜2025年3月期、官報)(2) 履歴事項全部証明書1通+閉鎖事項証明書2通(港区六本木→渋谷区千駄ヶ谷→中央区晴海の登記記録を全カバー)(3) 公開プレスリリース 70件(2021年〜2026年)(4) 厚生労働省 社会保険適用事業所の被保険者数 を相互参照し、第三者視点で構成した分析記事です。数字は単体・無連結ベース。


1. 登記が先に映した「シリーズC」 ─ 2026年1月、29.1億円

NOT A HOTEL の登記簿には、少なくとも同社の公開プレスリリースでは確認できない増資が載っている。

  • 2026年1月16日:C1種優先株式 52,501株とC種優先株式 7,827株を発行 。資本金は1億2,988万円から15億8,417万円へ増加した
  • 増資の払込は半分が資本金・半分が資本準備金に入る慣行から逆算すると、C1種の払込は 約26.0億円・1株49,496円 、C種は 約3.1億円
  • 合計 約29.1億円 。同社の公開リリースには2026年1月前後の調達発表が見当たらず、確認できる範囲では未発表の増資である

C種の単価はC1種のほぼ2割引で、後述する J-KISS 型新株予約権(2025年2月発行・3.1億円)の転換条件と金額がそのまま対応する。つまり今回のラウンドは「新規の出資26億円+既存のJ-KISSの転換3.1億円」という構成と読み取れる。

この単価で会社全体の時価総額を出すと次のとおり。

会社全体の時価総額(C1種ラウンド時点)

  • 発行済株式 1,335,444株 + 登記に現存する新株予約権 172,162株分 = 全株式数 1,507,606株
  • 1株49,496円 × 全株式数 = 約746億円 (発行済株式だけなら約661億円)

シリーズB(2024年6月、1株28,250円)からおよそ1年半で、1株あたりの値段は1.75倍になった。

2. 決算公告 ─ 黒字転換は2023年3月期と推定。総資産は1年で119億→285億円

NOT A HOTEL の損益は、スタートアップの定型から早々に外れている。

当期純損益の推移

官報の決算公告で確認できるのは、▲1.8億円(2021年3月期)→ ▲4.8億円(2022年3月期)→ 公告なし → +4.8億円(2024年3月期)→ +2.6億円(2025年3月期) 。確認できる直近2期は黒字が続く。

公告が確認できない2023年3月期も、前後の期の純資産と登記の払込額・新株予約権の発行額をつなぐと、およそ +3億円の黒字 だったと逆算できる。「別荘として販売し、オーナーが使わない日はホテルとして運用する」という同社のモデルは、物件の引き渡しがそのまま売上になるため、シリーズAの大型調達が完了した2023年3月期の時点で、すでに損益が立っていたとみられる。

一方でバランスシートは不動産会社の顔をしている。

総資産の構造

総資産は2024年3月期の119億円から 2025年3月期に285億円 へ、1年で2.4倍になった。内訳は純資産115.9億円・負債169.6億円。2024年12月に「借入等による総額105億円の資金調達」を公表しており、開発用地・建設中物件の取得を借入で賄う両建ての膨張と読み取れる。自己資本比率は40.6%で、借入を併用する開発型のモデルとしては一定の自己資本を残している。同月には「NOT A HOTEL COIN(NAC)」のIEOで目標20億円を満額調達したことも公表しており、エクイティ・デット・トークンの3通りの調達手段を並走させているのが同社の特徴だ。

3. J-KISS 6本 ─ 発行から転換・消滅まで、数式が登記ですべて割れる

NOT A HOTEL の登記簿では、J-KISS型新株予約権(シード・ブリッジ用の転換型証券)の発行額・転換先・消滅までが途切れなく追える。発行は6本。

発行個数出資額転換先転換単価
第1回(2021年3月)300個3.0億円A1種優先株式約8,117円(A2種の3割引)
第2回(2021年6月)350個3.5億円同上同上
第3回(2021年6月)206個2.06億円同上同上
第4回(2022年3月)300個3.0億円同上同上
第5回(2023年12月)1,090個10.9億円B種優先株式約22,600円(B1種の2割引)
第6回(2025年2月)310個3.1億円C種優先株式約39,600円(C1種の2割引)

個数と金額の対応から、 J-KISS 1個=100万円 で設計されていることが登記だけで分かる。第1〜4回の合計11.46億円(第2回は10個分の0.1億円が転換前に消滅)は2022年10月のシリーズAでA1種141,194株に、第5回の10.9億円は2024年6月のシリーズBでB種48,227株に、第6回の3.1億円は2026年1月のシリーズCでC種7,827株に、それぞれディスカウント付きで転換された。転換のたびに古いJ-KISSは登記から消え、現在の登記簿に残るJ-KISSはゼロ。発行→転換→消滅のサイクルが綺麗に回っている。

ラウンドの合間をJ-KISSでつなぎ、本ラウンドで一括転換する。調達の「間合い」を埋める手段として、ここまで反復的に使っている例は登記で追える範囲でも珍しい。

4. ラウンド全史 ─ 単価は6年で8.2倍、公表額と登記は一円単位で符合

ラウンド別の株式払込額と1株単価

登記から復元したラウンド史を、プレスリリースと突き合わせる。

  • 創業期A種(2020年4〜6月) :A種155,530株・1株6,000円で 9.33億円 。設立からわずか3週間後に最初の払込が登記されている
  • シリーズA(2022年10月〜2023年2月) :新規払込のA2種が計 28.49億円・1株11,594円 。ファーストクローズ19.6億円は公表の「約20億円」と、完了時累計28.49億円は「約28億円」と一致する。あわせてJ-KISS転換のA1種11.46億円分が発行された
  • シリーズB(2024年6月) :新規払込のB1種が 44.01億円・1株28,250円 、J-KISS転換のB種が10.9億円分。合計54.9億円は公表の「約55億円」と符合する
  • B2種の追加(2024年12月〜2025年3月) :B2種19,378株・1株28,900円で 5.6億円 。B1種から2.3%だけ単価を上げた小規模の追加発行で、対応する単独のリリースは見当たらない
  • シリーズC(2026年1月) :前述の 29.1億円

設立からの払込(J-KISS経由の転換分を含む)を登記の資本金変動から合算すると累計約140億円。公表ベースの「累計調達額」には借入105億円やIEO20億円が含まれるため、株式・デット・トークンを分けて見られるのは登記ならではだ。

1株あたりの値段は6,000円 → 11,594円 → 28,250円 → 28,900円 → 49,496円と、6年間で8.2倍になった。従業員向け新株予約権の行使価額も3,082円 → 5,100円 → 11,200円 → 23,200円 → 25,000円(2026年2月発行の第18・19回)と階段状に切り上がっており、優先株式と普通株式の値段が並走して上がってきたことが分かる。

NOT A HOTEL は全ラウンドの単価が登記から確定できる珍しい会社なので、各時点の全株式数を掛け合わせれば、会社全体の時価総額の推移まで登記だけで復元できる。

会社全体の時価総額の推移

39億円(2020年6月)→ 128億円(2023年2月)→ 379億円(2024年6月)→ 397億円(2024年12月)→ 746億円(2026年1月) 。シリーズBからの1年半で評価はほぼ倍増しており、リリースのない直近の増資が、実は同社の評価額が最も大きく動いた節目だったことになる。

資本金は増資のたびに膨らみ、期末前に減資される。減資は2021年3月(3,000万円へ)、2023年3月(1億円へ)、2025年3月(1億円へ)、2026年2月(9,499万9,995円へ)の4回で、いずれも3月の決算期末に照準を合わせる。期末資本金を1億円以下にそろえることは外形標準課税や中小企業向け税制の判定に影響し得るためとみられ(近年は資本剰余金等も含めた判定への見直しが進む)、資本政策の几帳面さはこの会社も例外ではない。

資本金の推移

5. 体制 ─ 共同代表へ移行、監査役会設置会社の登記が完了

2026年1月7日、同社は共同代表体制(Co-CEO)への移行を公表した。登記でも代表取締役は創業者の濵渦伸次氏と江藤大宗氏の2名になっている。取締役には2024年12月と2025年6月に新任2名が加わり、2025年6月30日には監査役2名が追加されて計3名となり、 監査役会設置会社の登記が完了した 。会計監査人の登記はまだ現れていないが、機関設計は上場準備の型に一歩ずつ寄っている。

事業面では、公表ベースで全国17拠点までエリアを拡大し、2023年12月には1棟約42億円という同社最大規模の物件販売を開始。2026年4月には世界的建築事務所の設計による瀬戸内の新拠点を開業し、ホテルブランド2系統の立ち上げや日英バイリンガル雑誌の創刊など、発信の幅も広がっている。プレスリリースは累計70件、従業員は社会保険の被保険者ベースで273人(2026年6月時点)。2025年3月には1件の吸収合併も登記されている。

プレスリリース月次と調達タイミング

6. 論点 ─ 「黒字のまま大きくなれるか」を登記と公告で追う

NOT A HOTEL の数字を並べて見えてくるのは、「赤字を掘って成長を買う」典型的なスタートアップとは別の設計図である。損益は推定を含めれば4期目から黒字圏を保ち、その代わりにバランスシートが借入とともに年2.4倍のペースで膨らむ。成長のアクセルは損益計算書ではなく貸借対照表に踏み込まれている。

だからこそ、見るべき指標も変わる。第一に次の決算公告(2026年3月期)。285億円まで膨らんだ総資産と169億円の負債が、物件の引き渡しでどう回転したか。黒字を保ったまま規模を倍にできていれば、このモデルの再現性は一段確かになる。第二に、2026年1月の29.1億円の増資がいつ・どんな文脈で公表されるか。新拠点の開発計画と紐づくのか、別の用途なのか。第三に会計監査人の登記。監査役会まで整えた機関設計の次の一手が載った時点で、資本市場との距離は具体的に縮まる。登記簿が答え合わせの場所になる。


7. 計算方法(Methodology)

時価総額の基本ルール(資本金増×2、新株予約権を含む全株式数の現存ベース集計)は記事末尾の共通注記のとおり。ここでは NOT A HOTEL 固有のメモを残す。

  • 検証 :シリーズA ファーストクローズ(19.60億円⇔公表約20億円)、シリーズA累計(28.49億円⇔公表約28億円)、シリーズB(B1種44.01億円+J-KISS転換10.9億円=54.9億円⇔公表約55億円)が一致。A2種11,594円・B1種28,250円・B2種28,900円・C1種49,496円は資本金増×2÷株数の計算で端数なく割り切れる
  • 新株予約権の現存ベース集計 :C1種ラウンド日(2026年1月16日)時点で存続する第1回〜第17回の17シリーズ・計172,162株分(1個=1株)を発行済株式に加算。2026年2月16日発行の第18回(2,215個)・第19回(99,148個)はラウンド後のため対象外。これらを含めた現在の全株式数で計算すると約796億円になる
  • J-KISSの転換単価 :A1種 約8,117円・B種 約22,600円・C種 約39,606円は、転換時の資本金増×2÷株数による逆算値。新ラウンド単価のそれぞれ約7掛け・8掛け・8掛けに相当する
  • 時価総額の推移(5時点) :各ラウンド最終クローズ日のスナップショットで、全株式数は発行済+当日存続する新株予約権(創業期A種時点は新株予約権ゼロ、シリーズA完了時点 64,042株分、シリーズB時点 95,050株分、B2種時点 108,896株分、シリーズC時点 172,162株分)。J-KISS型新株予約権はいずれの時点でも直前に株式へ転換済みで、未転換残高はない
  • 2025年3月6日のB2種6,669株 は対応する資本金の変動が登記に見当たらず、同月に登記された吸収合併の対価交付など払込以外の発行とみられるため、払込額の集計から除外した
  • 2023年3月期の純損益の推定 は、公告された前後期の純資産に、当期の株式払込(28.49億円)と新株予約権の発行・転換を加減して逆算した概算値。公告原本が確認でき次第差し替える

ファクトシート

  • 法人名 :NOT A HOTEL株式会社
  • 設立 :2020年4月1日
  • 本店所在地 :東京都中央区晴海四丁目7番4号(2026年2月9日 登記)
  • 代表取締役 :濵渦伸次、江藤大宗
  • 決算月 :3月
  • 資本金(直近 2026年3月 登記) :9,499万9,995円
  • 発行済株式(2026年1月16日時点) :普通株式 502,576株/A種優先株式 155,530株/A1種優先株式 141,194株/A2種優先株式 245,742株/B種優先株式 48,227株/B1種優先株式 155,800株/B2種優先株式 26,047株/C種優先株式 7,827株/C1種優先株式 52,501株(合計 1,335,444株)
  • 機関設計 :取締役会設置会社・監査役会設置会社
  • 公告方法 :官報