Preferred Networks の78億円の損失は、17か月ぶんとみられる ── 決算公告と登記で復元する変則決算
Preferred Networks の第11期決算公告は、前期末から17か月あいている。当期純損失78億4,381万円をどう読むか。A種優先株式による200億円の払込と4回の減資を、決算公告と登記から復元した。

この記事のポイント
- 第11期の貸借対照表は前期末から17か月あいている。1年を超える期は、決算期を変えた期に限って認められている
- A種優先株式は一度に発行されたのではなく、1つのラウンドのなかで9か月かけて15回に分けて発行された。1株45,293円、累計200億3万10円
- 資本金は80.45億円から3,000万円へ。増資しては戻す減資が、2年足らずで4回登記されている
Preferred Networks の決算公告が2025年10月6日に出た。第11期、当期純損失 78億4,381万円。確認できた第7期・第9期〜第11期の公告のなかでは最大になる。
数字そのものより先に、目にとまるのは期の長さのほうだ。前の第10期は2024年1月31日で締まっている。今回の貸借対照表は「令和7年6月30日現在」。間は17か月ある。
17か月あいた決算 ── 決算期を変えた期にだけ許される長さ
事業年度は1年を超えられない——これは多くの人が知っている。ただし例外がひとつある。
会社計算規則59条2項は、計算書類の作成対象期間について「1年(事業年度の末日を変更する場合における変更後の最初の事業年度については、1年六箇月)を超えることができない」と定めている。決算期を変えた期の計算書類に限り、1年6か月 ぶんまで作れる。17か月はこの枠に収まる。
同社は1月末決算から6月末決算へ移った。移行にあたっては、5か月の短い期を挟んで区切る方法もあれば、1回だけ長い期を作る方法もある。
第11期の公告には対象期間の記載がなく、損益計算書も載っていない。 分かるのは貸借対照表の基準日だけだ。
ただし、期首を別の資料で探す必要はない。同じ59条2項が、計算書類の対象期間を「前事業年度の末日の翌日から当該事業年度の末日まで」と定めているからだ。第10期の基準日が2024年1月31日、第11期が2025年6月30日という公告の記載が正しければ、第11期は自動的に2024年2月1日から2025年6月30日までの17か月になる。
残る不確かさは、その2つの基準日が本当に連続する期のものかという一点に絞られる。ここはあとで見る資本剰余金の端数から確かめられる。
なお税務の扱いは別で、法人税法13条1項は1年を超える会計期間を1年ごとに区切る。仮に17か月であれば、税法上は12か月と残り5か月の2つに分かれることになる。

期の長さが違うものを並べると、損失の大きさは実際より急に見える。17で割ると1か月あたり約4.6億円。単純な月平均でくらべると、第9期の約2.6億円から上がってはいるが、78億円という総額が与える印象ほどの跳ね方ではない。
ただしこれは17か月で割っただけの数字で、損失が毎月同じように出ていたという意味ではない。特別損失や大きな支出が特定の時期に寄っていれば、実際の月ごとの姿は違う。
一部の報道はこの決算を5か月の変則決算として伝えている。ただ、第10期の貸借対照表が2024年1月31日現在で、第11期が2025年6月30日現在。そのあいだの利益剰余金の減り方は今回の損失額とぴたりと合う。公開資料から追えるかぎりでは、17か月と見るほうが無理がない。
調達は1日で終わらなかった ── A種優先株式、9か月で15回
第11期に何が起きたのか。登記を開くと、資金の入り方が普通ではない。
A種優先株式が最初に登場するのは2024年10月31日。15万4,550株。ここから2025年7月18日までのあいだに、発行済株数は15回にわたって増えていく。11月29日に2回、12月に3回、翌年3月31日には1日で4回。最終的に44万1,570株になった。
登記に書いてあるのは日付と株数と金額だけで、これらが1つのラウンドかどうかまでは分からない。ただし同社の発表と時期が重なる。2024年12月22日に総額190億円、2025年4月30日にエクステンションとして総額50億円。いずれも「第三者割当増資および金融機関からの融資により」という書き方で、増資と融資を合わせた額として公表されている。累計240億円。

1株あたりの値段は登記から割り出せる。資本金の増加額を株数の増加で割ると、どの回も22,646.5円。払い込まれた額の半分を資本金に入れる形なので、1株の値段は 45,293円 になる。15回すべてで同じ数字が出るので、単価は最初から最後まで動いていない。
44万1,570株を掛けると、200億3万10円。ほぼ200億円ちょうどである。
第11期の期末(2025年6月30日)時点ではまだ43万530株なので、そこまでの累計払込額は194億9,999万5,290円になる。公告の資本剰余金は第10期の160.17億円から第11期の355.60億円へ、195.43億円ふえている。両者には約0.43億円の差が残る。普通株式にかかわる資本取引などが考えられるが、公告だけでは内訳までは特定できない。それでも、登記から積んだ額と公告の増加額は0.2%ほどの範囲で噛み合っている。
ここで、公表額との関係を整理しておきたい。会社の発表が「増資および融資により総額190億円/50億円」と書いているとおり、累計240億円は増資と融資を合わせた額だ。一方、登記から積み上げた約200億円はA種優先株式の払込だけを見た数字になる。2つを引き算して融資の額を出せるわけではない。2025年6月30日にも金額を公表しない増資が発表されており、普通株式にかかわる資本の動きも別にあるからだ。登記から確かに言えるのは、A種というひとつの種類株で200億円が入ったところまでになる。
1つのラウンドを9か月にわたって刻む形は、投資家ごとに払込のタイミングをずらせる利点がある。エクステンションの回には講談社・TBSホールディングス・東映アニメーションなどが名を連ねており、事業会社が個別に意思決定していった経緯とも噛み合う。ただ、なぜこの形をとったのかは登記にも公告にも書かれていない。書かれているのは日付と株数と金額だけだ。
増資しては戻す ── 4回の減資
同じ期間、資本金は逆方向にも動いている。

減資は登記上の資本金を減らす手続きで、現金が出ていくとは限らない。今回の数字を見るかぎり、減った額はその他資本剰余金という別の枠へ振り替えられている。ただし減資には株主への払戻しを伴う形や、欠損の穴埋めに充てる形もあり、いつも同じ処理になるわけではない。
- 2024年1月30日:80億4,458万9,762円 → 5,000万円
- 2025年1月30日:75億7,157万6,865円 → 5,000万円
- 2025年6月30日:22億9,997万5,070円 → 5,000万円
- 2025年11月10日:3億9,413万720円 → 3,000万円
A種で入ってきた資金の半分が資本金に積み上がり、ある程度たまった段階で5,000万円まで戻される。増資のたびに減資するのではなく、何度かの払込をまとめて一区切りにする形だ。2年足らずのあいだにこれが4回。最後の1回だけは3,000万円まで下げている。
この動きは貸借対照表の側からも確かめられる。1回目の減資額は79億9,458万9,762円で、第10期のその他資本剰余金は79億9,458万9千円。公告は千円未満を切り捨てて載せるので、端数まで一致している。
第11期も同じだ。1回目に、2回目の75億2,157万6,865円と3回目の22億4,997万5,070円を足すと177億6,614万1,697円になり、公告のその他資本剰余金は177億6,614万1千円。ここも切り捨てぶんを除いて合う。登記に残る3回の減資が、そのまま帳簿の1つの数字になっている。
資本金1億円という水準が税制上のいくつかの区分の境目にあたることはよく知られているが、同社はそのさらに下、5,000万円と3,000万円で止めている。何を意図したものかは、登記からは分からない。
帳簿は膨らみ、欠損も膨らんだ

総資産は第10期の179.32億円から353.42億円へ、ほぼ倍になった。うち327.51億円が流動資産で、総資産の9割以上を占めている。ただし公告に載るのは「流動資産」という1行だけなので、その中身が現預金なのか、売掛金や前払費用なのかまでは分からない。純資産も133.27億円から249.03億円へ増えた。
一方、利益剰余金は34.36億円のマイナスから112.80億円のマイナスへ。この期の損失をそのまま積み増した形で、資本剰余金からの穴埋めはしていない。累積の欠損を消さずに残す選択をしている。
売上高については、第9期(2023年1月期)の76.55億円が最後の開示になっている。第10期・第11期の公告は貸借対照表の要旨だけで、損益計算書は載っていない。第11期の当期純損失78億4,381万円も、利益剰余金に添えられた注記として記されているものだ。したがって、この17か月で売上がどう動いたかは公開資料からは追えない。
参考までに、開示されていた時期の推移はこうなっている。第7期(2021年1月期)は売上84.86億円に対し粗利67.75億円、販管費77.89億円で営業損失10.13億円。第9期は売上76.55億円、粗利52.15億円、販管費64.77億円で営業損失12.61億円。ここに18.67億円の特別損失が乗って、当期純損失は30.66億円になった。
切り出して、1年8か月で戻した
第9期の官報を開くと、決算公告のすぐ隣に新設分割公告が並んでいる。2023年9月28日付。AI基盤モデルに関する事業を、新しく作る会社へ移すという内容だ。移された先が Preferred Elements。登記上は2023年11月1日の分割で生まれ、本店は東京都千代田区大手町一丁目6番1号 大手町ビル。分割元と同じ住所である。
ところが、この会社は長く続かなかった。PFNの登記には「令和7年7月1日 …… 株式会社Preferred Elements を合併」と記されている。 切り出してから1年8か月で、本体に戻したことになる。
日付にも意味がある。合併の効力が生じた2025年7月1日は、第11期が終わった翌日にあたる。つまりこの記事が見ている17か月の決算は、Preferred Elements がまだ別会社だった最後の期のものだ。
Preferred Robotics は同じ住所に残っている。
赤字が最大になった期も、人は増えた

社会保険の被保険者数は、2024年3月の327人から2026年7月の452人まで、ほぼ一貫して増えている。第11期末の時点で384人。損失が最大になった期をまたいでも、被保険者の総数に純減は表れていない。個々の入退社や部門ごとの増減までは、この数字からは分からない。
直近では2026年4月の417人から5月に445人へ、1か月で28人ふえている。年度替わりの採用が一因とは考えられるが、社会保険の届出時期のずれもあり、公開データだけでは理由を特定できない。
論点
第11期の姿は、17か月という長さを外して読むと見誤りやすい。総額78億円は確かに同社の公告のなかで最大だが、月あたりに直せば4.6億円で、増え方は総額の見た目ほど急ではない。
同じ期間に195億円が株式で入り、期末の流動資産は327.51億円まで積み上がった。ただし、貸借対照表の残高からは、この資金がどこへ使われ、どれだけ残っていたのかまでは追えない。
次に出る公告は、決算期をふたたび変えなければ12か月ぶんに戻る。そこで初めて、月あたりの損失がこの期の水準から動いたかどうかが分かる。A種は2025年7月18日の44万1,570株で止まっているので、追加の払込があるかどうかも同じ公告と登記で確かめられる。
もうひとつ、次の期は Preferred Elements を本体に統合してから最初の決算になる。AI基盤モデルの開発が別会社の帳簿から本体の帳簿へ移るので、費用の出方も資産の持ち方も、この17か月とは違う姿になるはずだ。
計算方法
- 第11期の期間(17か月)は、公告に記載された第10期の基準日(2024年1月31日)と第11期の基準日(2025年6月30日)に、会社計算規則59条2項の「前事業年度の末日の翌日から」という定めを当てはめて導いた。公告に期間そのものの記載はないため、2つの基準日が連続する期のものであることを前提にしている
- 公表された調達額との関係: 会社発表の累計240億円(2024年12月の190億円+2025年4月末のエクステンション50億円)は第三者割当増資と金融機関からの融資を合わせた総額。本稿の約200億円はA種優先株式の払込のみで、両者の差額をもって融資額とすることはできない
- 第10期の基準日を2025年1月31日とする読み方は採らなかった。第10期のその他資本剰余金79億9,458万9千円が2024年1月30日の減資額と端数まで一致し、2024年10〜12月のA種増資ぶんが資本準備金に反映されていないため
- A種優先株式の1株あたり払込額45,293円は、連続する登記のあいだの資本金増加額を株数の増加で割って算出した。全15回で22,646.5円(=払込額の半分を資本金に組み入れる形)が一致する
- 資本金・株式数の履歴は2026年6月12日取得の履歴事項全部証明書による。同一日に複数の増資登記があるものはそれぞれ1回として数えた
- 第8期の決算公告は確認できていない。第7期・第9期は官報、第10期・第11期は日刊工業新聞への掲載
- 月あたりの損失は当期純損失を17で割ったもの。当期純損失は現金の流出額ではなく、資金の減り方を示す数字ではない
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | 株式会社Preferred Networks |
| 本店 | 東京都千代田区大手町一丁目6番1号 大手町ビル |
| 設立 | 2014年3月26日 |
| 決算期 | 6月(第11期より変更。従前は1月) |
| 代表 | 代表取締役 西川徹 |
| 資本金 | 3,000万円(2025年11月10日時点) |
| 従業員 | 452人(2026年7月・社会保険被保険者数) |
| 公告方法 | 日刊工業新聞(第7期・第9期は官報掲載を確認) |
本文で言及した企業