人口あたり起業が多い県、3位は沖縄 ─ ただし「テック集積」ではなく「観光×合同会社」の密度だった

人口10万人あたり新設法人(2021-25)は東京1,421・大阪805に次ぎ沖縄が706社で全国3位。だが沖縄の起業はテック集積でも短命でもなく、合同会社39.9%・観光系は全国の約4.3倍・名目本店の集中という『観光×軽い器』型の密度だった。福岡・京都=事業型との性格差まで、登記データで読む。

Compalyze 編集部

会社が新しく登記される密度は、都道府県でどれくらい違うのか。新設法人の「数」だけを見れば人口の多い東京や大阪が上位になるのは当然だが、人口あたりに直すと別の顔が見えてくる。Compalyze が国税庁の法人番号データを集計し、人口10万人あたりの新設法人数を出したところ、首位は東京(1,421社)、2位は大阪(805社)に続き、3位に沖縄(706社)が入った。神奈川や愛知を上回る数字だ。ただ「沖縄で起業が活発」と読むのは早い。その3位を中身まで分解すると、テック集積でも一過性の乱立でもない、沖縄ならではの「起業の質」が見えてくる。

この記事のポイント

  • 人口10万人あたりの新設法人数(2021〜2025年の累計)は、東京1,421社・大阪805社に次いで沖縄が706社で全国3位
  • だが沖縄の新設は「テック起業」ではない。IT・テック系の社名比率は2.43%と全国平均2.98%を下回り、福岡・京都・東京より低い
  • 「数だけ多くてすぐ畳む」でもない。設立4年内の早期閉鎖率は2.1%と、全国3.1%・東京3.9%より低く、むしろ定着している
  • 沖縄を押し上げているのは、新設の39.9%を占める「合同会社」(全国一級の高さ)と、全国の約4.3倍にのぼる観光・リゾート系、そして名目的な登記が集まる那覇の特定住所だった
  • 同じ高密度でも性格は違う。福岡・京都は事業・スタートアップ寄り、沖縄は「観光×軽い器」型の密度である

1. 人口あたりにすると、沖縄が3位に浮上する

新設法人の数そのものは、人口や経済規模の大きい都市部に集中する。だが「その地域に住む人の数あたり、どれだけ会社が生まれているか」を見ると、新設法人の登記密度という別の指標になる。

人口10万人あたりの新設法人ランキング。東京・大阪に次ぐ3位は沖縄(Compalyze Journal)

2021〜2025年に新しく登記された会社を都道府県別に数え、人口10万人あたりに直すと、首位は東京の1,421社。2位の大阪(805社)を大きく引き離している。そして3位に入ったのが沖縄の706社だ。沖縄は新設法人の絶対数では全国13位だが、人口が約147万人と少ないため、人口あたりにすると一気に上位へ駆け上がる。福岡(564社)、京都(543社)、神奈川(475社)、愛知(452社)がこれに続く。

ここまでは「人口あたりでは大都市圏が独占しない」という話だ。だが本当に面白いのは、その沖縄の706社が「どんな会社の集まりなのか」である。

2. 沖縄の起業は「テック」でも「短命」でもない

人口あたり3位と聞くと、移住者やIT企業が集まる活気あるスタートアップの街を想像するかもしれない。だが新設会社の中身を見ると、その像は二重に裏切られる。

ひとつは、テック起業ではないこと。社名からの粗い代理指標ではあるが、新設会社の社名にIT・システム・テック・デジタルといった語を含む比率を見ると、沖縄は2.43%で、全国平均の2.98%を下回る。東京(3.40%)はもちろん、福岡(2.86%)、京都(2.68%)よりも低い。沖縄でかつて語られた「IT・コールセンター誘致」は、新しく生まれる会社の名前にはほとんど表れていない(コールセンター系の社名は0.02%)。人口あたりの会社は多いが、それはテック集積の結果ではない。

もうひとつは、「数だけ多くてすぐ消える」のでもないこと。2021〜2025年に設立された会社のうち、すでに登記が閉鎖されたものの割合(早期閉鎖率)は、沖縄が2.1%。全国の3.1%、東京の3.9%より低い。むしろ沖縄の新設会社は、他地域より長く残っている。乱立してすぐ畳む、という像も当たらない。

では、テックでも短命でもないのに、なぜ沖縄は人口あたりで全国3位なのか。

3. 沖縄を押し上げる正体 ── 合同会社・観光・名目本店

沖縄の起業密度を分解すると、3つの固有性が浮かぶ。

沖縄の新設法人の特徴。全国平均を1.0とした倍率(Compalyze Journal)

第一に、合同会社の多さだ。沖縄の新設会社の39.9%が合同会社で、これは全国平均(28.7%)を大きく上回り、47都道府県でも一級の高さである。合同会社は、決算公告の義務がなく、株主総会や取締役会も要らない最も軽い器で、資産管理・民泊・小規模事業の受け皿として使われやすい。沖縄では、生まれる会社の4割がこの軽い器を選んでいる。

第二に、観光だ。社名に観光・リゾート・マリン・ホテルといった語を含む比率は、沖縄が0.91%。全国平均0.21%の約4.3倍にのぼる。観光という、比較的小資本で始めやすい産業の厚みが、新設の多さを底上げしているとみられる。

第三に、名目的な登記の集中だ。沖縄で最も多くの新設会社が登記された住所には、4年あまりで75社が集まっていた(うち合同会社37社)。社名はEC、小規模サービス、「ジャパン」を冠した会社などが混在し、シェアオフィスや登記代行の住所とみられる。本店の実態というより、登記の住所だけが置かれているケースが一定数あることを示している。

つまり沖縄の「人口あたり3位」は、観光という起業しやすい産業と、合同会社という軽い器への偏り、そして名目本店の集中が重なって生まれた密度である。事業の厚みやテック集積を直接示すものではない。

興味深いのは、軽い器が多いのに脆くはない点だ。一般に合同会社は「試しに作ってすぐ畳む器」と見られがちだが、沖縄は合同会社の比率が全国一級に高い一方で、早期閉鎖率はむしろ低い。これは、観光や小規模事業を長く続けるための実務的な器として合同会社が選ばれている可能性を示している。「数は多く、器は軽く、しかし脆くはない」――それが沖縄固有の起業の姿だ。

4. 同じ高密度でも、性格が違う

人口あたりで上位に並ぶ県も、その「中身の性格」は一様ではない。

新設会社の性格マップ。横軸=合同会社比率、縦軸=IT系比率(Compalyze Journal)

合同会社の比率(軽い器をどれだけ選ぶか)を横軸に、IT・テック系の社名比率(事業の先端性のおおまかな代理)を縦軸にとると、高密度県でも位置が分かれる。福岡(合同会社25.6%・IT2.86%)や京都(25.0%・2.68%)は、軽い器が少なくIT比率が高めの「事業・スタートアップ寄り」の側にいる。福岡はスタートアップ支援の都市政策、京都は大学発の研究・ものづくりという背景と整合する。

対して沖縄は、合同会社が突出して多く、IT比率は低い「観光×軽い器」型の側に、ひとり離れて位置する。同じ「人口あたり上位」でも、福岡・京都が事業の密度なら、沖縄は器と観光の密度――性格はかなり違う。人口あたりの数字を同じ「起業の活発さ」として横並びに読むと、この違いを見落とす。

5. 7倍の地域差と、密度指標の読み方

ランキングの下のほうに目を向けると、地域差の大きさがはっきりする。人口あたりの新設法人が少ないのは、岩手(201社)、秋田(209社)、山形(210社)、青森(218社)など東北・日本海側の県だ。最下位の岩手と首位の東京では、約7倍の開きがある。

ただし本稿で見たように、人口あたりの「数」が大きいことは、必ずしも事業の厚みやスタートアップの活発さを意味しない。合同会社という器の選ばれ方、観光のような産業構造、名目本店の集中といった要素が、密度を押し上げる。新設法人の登記密度は、地域の事業開始動向をみる入り口の指標であって、そこから先は「どんな会社が、どんな器で生まれているか」まで分解して初めて、地域の起業の姿が見えてくる。

人口あたりという物差しで全国を並べると、「数の大きさ」では見えない地域の個性が浮かぶ。沖縄のように、規模は小さくても人口あたりでは全国3位という県があり、しかもその中身は大都市圏とはまるで違う。数の順位の一段下まで降りることが、地域の起業を読む鍵になる。


調査概要・この記事のメモ

  • データ:国税庁 法人番号公表データに基づく、登記上存続している(閉鎖登記がない)会社5種(株式・合同・有限・合資・合名)の新設を Compalyze が集計。2021〜2025年に設立された会社を対象とし、本店所在地の都道府県別に数えた。
  • 人口あたりの算出:各県の新設法人数を、総務省人口推計(2024年)の概数で割り、人口10万人あたりに換算した。新設は5年累計、人口は直近の1時点のため、厳密な同一期間の比率ではない(起業密度の目安)。
  • 業種・性格の代理指標:本記事のIT系・観光系の比率は、社名に含まれる語からの代理集計であり、実際の事業内容の分類ではない。ブランド名で事業を表す会社は捕捉できないため、絶対水準は実態より低めに出る。県間の相対比較の目安として読まれたい。
  • 早期閉鎖率:2021〜2025年設立のうち、登記が閉鎖された会社の割合。設立から日が浅く、清算結了の登記には時間差があるため、いずれの県も低めに出る。県間の相対比較として扱う。
  • 名目本店の集中:同一住所への登記集中は、シェアオフィス・登記代行・資産管理などの可能性を示すが、個社の実態を断定するものではない。
  • 留意点:本店所在地ベースのため、実際の事業地と異なる場合がある。背景要因は登記データから特定できず、本文の説明は確かめられる範囲の事実と、その読み筋である。本記事は地域を序列化・評価するものではなく、起業の地域差とその中身を示すものである。