STORESの黒字転換を数字で解剖 ─ 約52億円の赤字から、粗利が販管費を追い越すまでの4年

STORESの決算公告から、統合直後に51.9億円あった純損失が4年で黒字へ着地するまでを数字で解剖。横ばいの販管費を粗利が追い越して2025年に営業黒字化した過程と、決済で膨らむ薄い固定資産の構造を追う。

Compalyze 編集部分析対象STORES株式会社

STORES は、ネットショップ作成・キャッシュレス決済・予約・POSレジなどを束ね、店舗のデジタル化をまとめて担うソフトウェアの会社だ。この法人の登記上の設立は2012年にさかのぼり、2018年の経営統合を経て「ヘイ株式会社(hey)」を名乗ったのち、2022年10月に主力ブランドと同じ「STORES 株式会社」へ社名を変えた。上場していないため、外から中身を追える一次資料は決算公告と登記簿にほぼ限られる。その決算公告には、2021年12月期以降、貸借対照表だけでなく損益計算書の要旨(売上原価・売上総利益・販売費及び一般管理費・営業損益まで)が載っている。主要な機能会社を本体へ畳み込んだ2021年に51.9億円あった純損失が、その後どう黒字へ着地したのか。数字で追っていく。

この記事のポイント

  • 純損益は2021年12月期の-51.9億円から、2024年に+0.9億円、2025年に+2.2億円へ。ただし営業段階から黒字になったのは2025年(営業利益1.9億円)で、2024年は営業赤字のまま最終黒字に着地している
  • 黒字化の直接の担い手は「粗利の増加」。売上総利益が29.5億円→58.9億円へ倍増する一方、販管費は統合直後の81.1億円から54〜57億円に下がって以降ほぼ横ばいで、増えた粗利が販管費を追い越した
  • 固定資産は総資産の数%と薄いまま。決済の立替で膨らむ流動資産が総資産の大半を占め、開発投資を大きく資産に積み上げる姿は決算公告からは見えない

1. 損益計算書を開く ─ 4年で赤字を消した

まず全体像から。売上高は2021年12月期の96.7億円から2025年12月期の156.3億円へ、4年で1.6倍に伸びた。同じあいだに当期純損益は50億円超の赤字から黒字へ振れ、赤字を消している。

STORESの売上高と当期純損益の推移(Compalyze Journal)

ただし「いつ黒字になったか」は、最終損益と営業損益で1年ずれる。損益計算書の要旨を並べると次のようになる。

項目(12月期)2021年2023年2024年2025年
売上高96.7億円131.1億円146.0億円156.3億円
売上原価67.2億円87.0億円93.2億円97.3億円
売上総利益(粗利)29.5億円44.2億円52.8億円58.9億円
粗利率30%34%36%38%
販売費及び一般管理費81.1億円54.7億円53.9億円57.1億円
営業損益-51.6億円-10.5億円-1.1億円+1.9億円
当期純損益-51.9億円-10.8億円+0.9億円+2.2億円

(2022年12月期は決算公告を確認できず、表から除いている)

最終損益が黒字に転じたのは2024年(+0.9億円)だが、この期の営業損益はまだ-1.1億円の赤字だ。本業で稼いだ利益ではなく、営業損益から下の段階(営業外損益・特別損益・税など)で最終的に黒字へ着地している。売上から積み上げる営業段階で黒字になったのは翌2025年(営業利益+1.9億円)で、ここではじめて「本業でも黒字」の期がそろった。もっとも営業利益率にすると1.2%と薄く、黒字の厚みはこれからだ。


2. 黒字化の芯 ─ 粗利が、横ばいの販管費を追い越した

赤字が消えた理由を一段分解する。鍵は、売上総利益(粗利)と販管費のどちらが上にあるかだ。

STORESの売上総利益(粗利)と販管費の推移(Compalyze Journal)

2021年12月期は、粗利29.5億円に対し販管費が81.1億円。粗利の3倍近い販管費を投じており、営業損失は51.6億円に達した。ただしこの81.1億円は、複数の会社をひとつに束ね、2020年の大型調達を原資に採用・拡大投資を厚くした直後(後述)の数字でもある。当時のヘイは、調達した資金をもとに従業員を当時の約2倍にあたる400人規模へ広げる計画を掲げていた。統合に伴う一時的な費用や重複に、この先行投資が重なった期だったとみられる。翌2023年12月期には販管費が54.7億円へ下がり、以降は53.9億円→57.1億円と、おおむね横ばいで推移している。「販管費を毎年削り続けた」というより、統合直後の膨らみが剥がれたあとは一定の水準で保たれている、という姿だ。

一方で粗利は、29.5億円→44.2億円→52.8億円→58.9億円と着実に積み上がった。粗利率も30%から38%へ8ポイント改善している。売上原価の中身までは決算公告から分解できないが、少なくとも損益計算書の上では、売上の伸びと利幅の改善が両輪で粗利を押し上げた。

こうして、横ばいの販管費(54〜57億円)を、増え続ける粗利が2025年に追い越した。粗利58.9億円が販管費57.1億円を上回り、営業利益1.9億円が残る。赤字を消した主役は費用の削減というより、粗利が販管費の水準を超えるところまで伸びたことにある。裏を返せば、粗利率の改善が止まるか、販管費が再び伸びれば、この薄い黒字は簡単に振り出しへ戻りうる。実際、販管費は2024年の53.9億円から2025年に57.1億円へ増えており、黒字化と同時に再び投資の手綱をゆるめ始めた気配もある。


3. 複数の会社を、ひとつのブランドへ畳んだ

いまのSTORESの決算を読むには、この会社が「合併の集合体」であることを押さえておくとよい。登記簿には、複数の吸収合併が刻まれている。

出発点は2018年。決済のコイニーとネットショップのストアーズ・ドット・ジェーピーが経営統合し、「ヘイ株式会社」の体制が生まれた。予約システムのクービックは当初のメンバーではなく、2020年8月に全株式を取得してグループに加えた会社だ。この2020年8月は、ヘイがベイン・キャピタルを引受先とするシリーズEで約70億円(関係者の話では買収を含め計100億円規模)を調達したタイミングでもある。そして2021年1月、ヘイはコイニー・クービック・ストアーズ・ドット・ジェーピーの3社を本体へ吸収合併し、同年12月にはショップフォースも取り込む。決済・ネットショップ・予約・POSといった機能会社を、ひとつの法人・ひとつのブランドへ畳み込んだのがこの時期だ。2022年10月に商号を「STORES 株式会社」へ改め、直近では2025年4月にDigitarを吸収している。

畳まれた3社は、生まれた年も出自もばらばらだ。ネットショップのストアーズ・ドット・ジェーピーは最も古く、2008年に「株式会社ブラケット」の名で設立され、一時は大手アパレルECの傘下に入ったのち独立している。予約のクービックは2013年設立で、ベンチャーキャピタルからA種〜C種の優先株を発行し、資本金を250万円から3.3億円まで積み増した独立系スタートアップだった。決済のコイニーは、2018年にヘイが決済事業を分社化した受け皿会社だ。

そして、本体へ畳み込む直前、この3社はいずれも赤字だった。

STORESに畳まれた3社の合併直前の決算(Compalyze Journal)

合併直前の決算公告を見ると、決済のコイニーは純資産-17.6億円、ネットショップのストアーズ・ドット・ジェーピーは-12.0億円と債務超過に陥り、予約のクービックも累積赤字で資本金3.3億円を純資産7,200万円まで削っていた。2021年12月期の51.9億円という純損失は、統合と拡大投資の費用に加えて、こうして赤字の機能会社を一度に取り込んだことの反映でもある。

設立以来一貫して代表を務める佐藤裕介氏は、統合の前に、この3社すべての取締役に名を連ねていた。3社は合併に先立って本店を渋谷の同じ住所——ヘイの本店——へ移しており、物理的に一つの住所へ集まってから、法的にひとつへ束ねられていった。統合と先行投資が重なった年に費用が最も膨らみ、そこから畳み込みが一巡するにつれて損失が縮んでいく——決算公告の損益の流れは、この組織の統合スケジュールと重なって読める。売上高96.7億円が2021年12月期にいきなり現れるのも、この年に3社が本体へ合流したことと符合する。


4. 薄い固定資産と、決済で膨らむ流動資産

ソフトウェア企業の決算を読むとき、開発への投資が「資産」として貸借対照表に積み上がっているか、それとも「費用」として損益計算書を通っているかは、利益の見え方を左右する論点になる。STORESの貸借対照表を見ると、固定資産はごく薄い。2025年12月期の総資産334.4億円のうち、固定資産は12.8億円で全体の約4%にとどまる。過去4期を通じても固定資産は数%の水準で推移してきた。

STORESの総資産の構成(流動資産・固定資産)の推移(Compalyze Journal)

総資産は277.6億円(2021年)から334.4億円(2025年)へ伸びているが、その増分はほぼ流動資産で、固定資産は一貫して総資産の1〜4%の薄い層にとどまっている。この薄さから「開発費をすべて費用処理している」とまで断じることはできない。決算公告の貸借対照表は固定資産の総額しか示さず、自社開発ソフトウェアなどの内訳は開示されないからだ。ただ、少なくとも損益計算書を通り抜ける販管費(54〜57億円)に対して、貸借対照表に積み上がる固定資産が一貫して十数億円以下にとどまっている、という構造は確認できる。プロダクト開発の負担の多くが、資産として繰り延べられるより、その期の費用として損益に乗っている——決算公告から見えるのは、そこまでだ。

では総資産334.4億円の大半は何か。答えは流動資産で、321.6億円を占める。設備を持たないソフトウェア企業が数百億円規模の資産を持つのは、キャッシュレス決済の立替が主因とみられる。加盟店がカード等で受け取る売上をSTORESがいったん立て替え、決済ネットワークへの支払いが負債に乗る。決済の取扱高が伸びるほど、資産と負債が両側で膨らむ構造だ。ただし決算公告の要旨は流動資産・流動負債の総額までしか示さず、立替金・未払金といった科目別の内訳は確認できない。会社は2022年8月時点ですでに流通総額(GMV)が約750億円に達したと公表しており、決済プラットフォームとしての規模がこの貸借対照表の厚みを支えているとみられる。


5. 400人を目指した拡大から、人員を絞って黒字へ

投資先行から採算重視への転換は、人員の面にもっともはっきり表れている。2020年の大型調達のあと、ヘイは従業員を400人規模へ広げる計画を掲げ、2022年8月時点では391人まで増えていた。そこからは反転する。社会保険の被保険者数で追える従業員数は、2023年末の385人から2026年7月には315人へ、社保人数ベースでおよそ18%減った。

STORESの従業員数(社会保険被保険者数)の推移(Compalyze Journal)

売上を1.6倍に伸ばしながら、人員はむしろ絞ってきた。400人を目指して膨らんだ組織を、黒字化に向けて畳み直した局面と読める(社保人数だけでは、退職・採用抑制・雇用形態やグループ内の異動といった内訳までは分からない)。黒字化を人員の絞り込みだけで説明することはできないが、粗利率の改善・販管費の横ばい・人員の反転は、いずれも同じ方向——拡大に張った投資の手綱を締めながら黒字に寄せる——を向いている。

資本政策の側では、大会社としてのガバナンスの体裁が整っている。同社は監査等委員会設置会社で、大手監査法人による会計監査人を置いている。株式は普通株のほかにA種からF種、そして直近のF-1種まで複数の優先株式が発行された、いく度もの資金調達を重ねた会社だ。2023年2月にはGoogleが新株予約権を通じて約30億円を出資し(資本業務提携に伴うもの)、2025年1月にも増資を実施している。この1月の増資では登記上の資本金が約14億円増えており、払込の半分を資本金に組み入れる一般的な慣行に当てはめると、株式で集めた金額はおよそ28億円。これは同時期に報じられた調達額ともほぼ一致する。赤字を消しつつ、外部からの資本でバランスシートの厚みを保ってきたことがわかる。発信の面でも、店舗向けの新機能や導入事例、外部サービスとの連携を継続的に打ち出しており、プロダクトの広がりが止まっているわけではない。


6. 数字で見えた「畳み込みの後」の現在地

決算公告の損益計算書・貸借対照表と社会保険の数字を開けると、STORESの現在地が像を結ぶ。

複数の会社をひとつに束ね、大型調達を原資に拡大へ張った直後に50億円を超えた純損失は、先行投資の膨らみが剥がれ、粗利が積み上がるにつれて縮み、2024年に最終黒字、2025年に営業黒字へと着地した。黒字化の芯は費用の削減ではなく、横ばいに保った販管費を、伸びる粗利が追い越したことにある。固定資産は薄く、総資産の大半は決済の立替で膨らむ流動資産だ。人員は400人規模を目指して膨らんだのち絞り込み、外部資本でバランスシートの厚みを保っている。

残る問いは、この薄い黒字がどこまで太るかだ。営業利益率はまだ1.2%で、販管費は黒字化と同じ年に再び増え始めている。粗利率38%前後を保ったまま売上を伸ばし、増える粗利が販管費の伸びを上回り続けられるか——次の決算公告で、営業利益が1.9億円からどれだけ厚みを増すかが、畳み込みを終えたこの会社にとって最初の試金石になる。


計算方法・データについて

  • 財務数値は決算公告の要旨(貸借対照表・損益計算書とも2021年12月期以降を取得。2022年12月期は公告を確認できず表から除外)。すべて単体・無連結で、子会社や連結調整の影響は含まない。粗利率=売上総利益÷売上高。営業利益率=営業利益÷売上高。
  • 従業員数は社会保険(厚生年金・健康保険)の被保険者数(月次)。会社全体の正社員数とは範囲が異なる。
  • 組織再編(吸収合併)の相手・時期は登記簿による。売上高が2021年12月期にはじめて現れるのは、この年に機能会社3社を本体へ合併したことと対応する。
  • 2025年1月の増資は、登記上の資本金増加額(約14億円)を基に「払込の半分を資本金へ組み入れる」慣行から株式調達額を約28億円と試算した(同時期の公表額とほぼ一致)。なお年度末の決算公告上の資本金は、増資後の減資により小額に戻っており、この登記上の一時的な増加額から逆算している。転換社債や借入の有無までは本記事では扱わない。

ファクトシート

  • 商号: STORES 株式会社(旧・ヘイ株式会社)
  • 設立: 2012年3月23日
  • 本店: 東京都渋谷区
  • 代表取締役: 佐藤裕介
  • 決算期: 12月
  • 2024年12月期(単体): 売上146.0億/売上原価93.2億/売上総利益52.8億/販管費53.9億/営業損失1.1億/当期純利益0.9億
  • 2025年12月期(単体): 売上156.3億/売上原価97.3億/売上総利益58.9億/販管費57.1億/営業利益1.9億/当期純利益2.2億/総資産334.4億/純資産42.7億
  • 従業員数(社会保険被保険者): 315人(2026年7月時点、2023年末は385人)

本文で言及した企業