LINE WORKSの決算を数字で解剖 ─ ビジネスチャットの黒字と、総資産の6割を占めるに至った固定資産の正体
LINE WORKSの決算公告8期を分析。ビジネスチャットが2021年に営業黒字化する一方、固定資産が総資産の2%から60%(約140億円)へ急拡大。その正体である2023年のLINEのAIカンパニー事業承継まで、数字で解剖する。

LINE WORKS は、「LINE」の使い勝手を企業向けに作り替えたビジネスチャット「LINE WORKS」を運営する会社だ。前身は2015年に設立された「ワークスモバイルジャパン株式会社」で、2024年1月に現在の商号へ変えた。この会社の決算公告は珍しく手厚く、設立まもない2017年12月期から損益計算書の要旨(売上原価・粗利・販売費及び一般管理費・営業損益)を、2022年をのぞく8期分そろえて確認できる。売上5.3億円・営業赤字から、売上162.1億円・営業黒字までを数字でたどれるわけだ。ただし途中の2023年、貸借対照表の形が大きく変わる。その正体まで含めて見ていく。
この記事のポイント
- 売上高は8期で5.3億円→162.1億円へ約31倍。営業損益は2021年12月期に黒字化し(+0.6億円)、直近は営業利益14.7億円・当期純利益19.7億円。粗利率は44%→70%まで上がったのち、直近は59%へ下がっている
- 固定資産が総資産に占める割合は2021年の2%から2025年には60%(約140億円)へ急拡大。時期は2023年4月にLINE株式会社から「AIカンパニー事業」を吸収分割で引き継いだことと一致する
- 資本金は55.2億円で据え置きだが、純資産は2023年に137億円増えた。資本金の不動は「資本が入っていない」ことを意味せず、増加の大半(当期純利益7.9億円を除く約129億円)は吸収分割の対価に対応する資本剰余金とみられる(純資産の内訳は公告に出ない)
1. 損益計算書を開く ─ 8期で赤字から黒字へ
まず全体の流れから。売上高は2017年12月期の5.3億円から2025年12月期の162.1億円へ、8期で約31倍に伸びた。損益は長く赤字が続いたのち、2021年12月期に営業損益がプラスへ転じている。

損益計算書の要旨を並べると次のようになる。
| 項目(12月期) | 2017年 | 2019年 | 2021年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 5.3億円 | 37.1億円 | 80.4億円 | 100.6億円 | 140.4億円 | 162.1億円 |
| 売上総利益(粗利) | 2.3億円 | 23.5億円 | 56.3億円 | 64.1億円 | 83.6億円 | 94.9億円 |
| 粗利率 | 44% | 63% | 70% | 64% | 60% | 59% |
| 販売費及び一般管理費 | 14.2億円 | 28.8億円 | 55.7億円 | 58.7億円 | 67.2億円 | 80.2億円 |
| 営業損益 | -11.8億円 | -5.3億円 | +0.6億円 | +5.4億円 | +16.5億円 | +14.7億円 |
| 当期純損益 | -11.9億円 | -5.2億円 | +0.0億円 | +7.9億円 | +20.4億円 | +19.7億円 |
(2018年・2020年は表では省き、2022年は決算公告を確認できなかった)
注目したいのは、営業黒字への転換が2021年12月期にすでに起きている点だ。ビジネスチャットという単一プロダクトで、粗利が販管費を上回るところまで到達している。後述する貸借対照表の大変動(2023年)より前に、本業の採算は先に黒字圏へ入っていた。この「本業の黒字化」と「バランスシートの膨張」は別の出来事として分けて読む必要がある。
一方で、当期純損益が営業損益を上回る期が続いているのも特徴だ。2024年は営業16.5億円に対し純利益20.4億円、2025年は営業14.7億円に対し純利益19.7億円。営業外の収益や税負担の調整が最終利益を押し上げている可能性が高く、本業の利益水準そのものは営業損益で見るのが素直だ。その営業利益も2024年の16.5億円から2025年に14.7億円へ微減しており、売上が伸びるなかで販管費(67.2億円→80.2億円)の増加が利益を押し戻している。
2. 粗利率が、販管費比率を追い越すまで
赤字から黒字への道筋を、粗利率と「販管費が売上の何%か」で見る。

設立まもない2017年12月期は、販管費が売上の268%。売上5.3億円に対し14.2億円を投じ、先行投資で大きく赤字を掘っていた。そこから売上が立ち上がるにつれ販管費比率は急速に下がり、2019年には77%と、早くも売上(100%)を割り込む。ただ、販管費が売上を下回っても、それだけでは営業黒字にならない。売上原価を引いた粗利が、販管費を上回る必要があるからだ。粗利率のほうも44%から70%まで上がり、2021年に販管費比率(69%)が粗利率(70%)を下回ったところで、営業損益がプラスに転じた。ソフトウェア事業のスケールメリット——売上が伸びても費用が同じ比率では増えない——が効いた局面だ。
もっとも、直近では粗利率が70%から59%へ下がっている。売上原価の内訳は公告からは分解できないが、後述するAI事業の取り込みや、インフラ・人件費など原価構成の変化が背景にあるとみられる。粗利率が下がっても販管費比率(直近49%)がそれを下回っているため営業黒字は保たれているが、利幅の質は2021年頃のピークからやや変わってきている。
3. 2023年に膨らみ始めた固定資産 ─ 総資産の6割を占めるまで
この会社の決算でいちばん目を引くのは、損益ではなく貸借対照表だ。固定資産が総資産に占める割合が、ある時期を境に跳ね上がる。

2021年12月期まで、固定資産は総資産70億円のうち1.6億円、わずか2%だった。設備を持たないビジネスチャット企業らしく、資産の大半は現預金などの流動資産だ。ところが2023年12月期には、総資産が216億円へ一気に膨らみ、そのうち固定資産が89.1億円(41%)を占める。2025年12月期には固定資産140.0億円、総資産の60%に達した。ソフトウェア企業で固定資産が総資産の6割というのは、かなり珍しい姿だ。
時期をたどると、この急拡大は組織再編と重なる。登記簿によれば、2023年4月1日、同社はLINE株式会社(現在は商号を変え「Z中間グローバル株式会社」となっている)から、「AIカンパニー事業」に係る権利義務を吸収分割で引き継いだ。「LINE CLOVA」ブランドで展開されていたAI関連の事業(一般消費者向けの音声アシスタントを除く)が、このタイミングでLINE WORKS側へ移ってきた。総資産は2021年の70億円から2023年に216億円へ約146億円、純資産も53億円から190億円へ約137億円ふくらんでおり、その時期は分割の効力発生日とぴたりと重なる。決算公告を確認できなかった2022年12月期も、公表情報の範囲では固定資産は総資産の数%にとどまっていたとみられ、急増は2023年に一度に起きたことになる。
つまり、固定資産140億円の起点は、この会社が自前の開発費を年々資産へ積み上げた結果というより、親会社側のAI事業を丸ごと引き受けたことで乗ってきた無形資産等とみるのが、時期の重なりからは自然だ。ただし決算公告の貸借対照表は固定資産の総額しか示さず、その内訳(無形固定資産か、投資その他の資産か)は開示されない。承継との結びつきは有力な説明ではあるが、内訳まで断定はできない。加えて、2024年から2025年にかけて固定資産はさらに92.4億円から140.0億円へ増え、同じ期間に流動資産が121.5億円から93.5億円へ減っている。手元資金が固定資産の側へ振り替わった動きで、これは2023年の事業承継だけでは説明しきれない。追加のAI投資、自社開発ソフトウェアの資産化、グループ内再編に伴う資産の追加計上など、複数の要因が考えられるが、いずれも公告からは確定できない。
4. 承継の背景 ─ NAVER系のグループ会社という立ち位置
固定資産の膨張を読むうえで欠かせないのが、この会社の資本上の立ち位置だ。LINE WORKSは独立系のスタートアップではなく、韓国NAVER系のグループ会社である。前身のワークスモバイルジャパンは、NAVERのグループ企業が「LINE WORKS」を日本で展開するために設けた法人で、2020年には資本金を55.2億円へ増資している。報道ベースでは、日本法人の出資比率はNAVERクラウドが約78%、LINEヤフーが約22%とされる。登記簿にも、グループ由来とみられる役員が複数名を占める。
2023年のAIカンパニー事業の承継も、この文脈の中にある。LINEが持っていたAI事業を、同じグループ内のLINE WORKS法人へ移す再編で、外部の投資家から現金の払い込みを受けた資金調達ではない。ただし、資本金が55.2億円のまま動いていないことを「資本が入っていない」と読むのは正確ではない。純資産は2023年12月期に137億円ふくらんだが、この期の当期純利益は7.9億円にすぎず、差し引き約129億円は利益以外の要因による増加だ。増資や組織再編の対価は、その全額を資本金に組み入れず資本準備金・資本剰余金へ計上できる。つまり資本金が動かなくても、吸収分割の対価として交付された株式に対応する資本剰余金が積み上がれば、純資産(自己資本)は厚くなる。この約129億円は、その資本剰余金の増加とみるのが会計上は自然だ。もっとも決算公告の要旨は純資産の内訳(資本金・資本剰余金・利益剰余金)を開示しないため、振り分けまでは確認できない。サービスを支える基盤の運用もグループのクラウド会社に委託しており、自前で大規模な設備(サーバー等)を抱える会社ではない。この点からも、固定資産140億円は有形の設備というより、AI事業とともに乗ってきた無形資産等が中心とみられる。
2024年に代表へ就いた島岡岳史氏が率いるいまのLINE WORKSは、こうして「ビジネスチャット」と「AIカンパニー事業」の二つを抱える会社になった。特許も25件を保有しており、コミュニケーションツール単体の会社だった頃とは、事業の輪郭が変わっている。
5. 事業規模と人員 ─ 拡大局面の会社
損益と資産の変化は、事業規模と人員にも表れている。会社の公表では、導入社数は2023年初の43万社から2025年には52万社規模へ増えた。受注ベースの年間経常収益(ARR、契約中の月次収益を年換算した見込み額)は、2025年7月の創業10周年時点で160億円を突破したと公表している。会計上の売上高162.1億円と指標は異なるが、受注の積み上がりも売上と並行して伸びている。

社会保険の被保険者数で追える従業員数は、2024年末の174人から2026年7月には273人へ増えた。とくに2025年前半から増員のペースが上がっている。売上を伸ばしながら人も増やす、拡大局面の姿だ(この人数はLINE WORKS法人単体の被保険者数で、グループ全体の人員とは範囲が異なる)。前章までの数字と合わせると、本業は黒字を保ちつつ、AI事業を抱え込んで事業と組織を広げている、という現在地が見える。
6. 数字で見えた「黒字」と「厚いバランスシート」の由来
この会社の決算は、二つの層に分けて読むと像がはっきりする。
一つは、ビジネスチャットとしての採算だ。売上を31倍に伸ばす過程で粗利率を44%から70%まで上げ、粗利が販管費を上回った2021年に営業黒字へ到達した。単体の決算の上では、ソフトウェア事業らしいスケールの効果として読める(プロダクト別の採算やグループからの支援の影響までは、公告からは切り分けられない)。
もう一つは、バランスシートの厚みだ。総資産の6割を占める固定資産140億円は、自前の開発投資を年々積み上げた結果というより、2023年に親会社のAIカンパニー事業を引き受けたことが起点とみるのが、時期の重なりからは自然だ(2025年にかけての上積みまで内訳を確定できるわけではない)。純資産が137億円厚くなったのも、資本金は動いていないが、外部投資家からの現金払込ではなく、グループ内の事業承継の対価が資本剰余金として積まれたためとみられる(純資産の内訳は公告に出ないため、確認はできない)。
次の決算公告で見たいのは、この二層がどう噛み合うかだ。営業利益は2024年の16.5億円から2025年に14.7億円へ下がり、粗利率も59%まで落ちている。抱え込んだAI事業が、粗利率の低下を上回る売上と利益をこれから生むのか、それとも当面はバランスシートを厚くしただけにとどまるのか。ビジネスチャットの黒字に、AI事業の採算が積み上がっていくかどうかが、この会社の次の見どころになる。
計算方法・データについて
- 財務数値は決算公告の要旨(損益計算書は2017年12月期以降、貸借対照表とも取得)。2025年12月期の数値は2026年に掲載された決算公告に基づく。2022年12月期は公告を確認できず、固定資産・総資産の一部は公表情報で補った。すべて単体・無連結。粗利率=売上総利益÷売上高。
- 純資産の増加のうち当期純利益を超える部分は、吸収分割の対価に対応する資本剰余金の増加とみられるが、決算公告の要旨は純資産の内訳(資本金・資本剰余金・利益剰余金)を開示しないため、内訳は確認できない。
- 固定資産が総資産に占める割合は、決算公告の固定資産÷資産合計。公告は固定資産の総額のみを示し、無形固定資産・投資その他の資産などの内訳は開示されない。2023年の急増と2023年4月1日の吸収分割の時期は一致するが、承継資産の金額・内訳そのものは公告・登記からは確定できないため、本文では推定として扱った。
- 組織再編(吸収分割)の相手・時期は登記簿による。分割元の法人はその後商号を変更している。
- 導入社数・ARRは会社の公表値(ARRは会計上の売上高とは異なる指標)。従業員数は社会保険(厚生年金・健康保険)の被保険者数(月次)で、会社全体の人員数とは範囲が異なる。
- 出資比率(NAVERクラウド約78%・LINEヤフー約22%)は報道ベースで、登記簿の株主欄までは本記事では確認していない。
ファクトシート
- 商号: LINE WORKS 株式会社(旧・ワークスモバイルジャパン株式会社)
- 設立: 2015年6月3日
- 本店: 東京都渋谷区
- 代表取締役: 島岡岳史
- 決算期: 12月
- 2024年12月期(単体): 売上140.4億/売上総利益83.6億/販管費67.2億/営業利益16.5億/当期純利益20.4億/総資産214.0億(うち固定資産92.4億)
- 2025年12月期(単体): 売上162.1億/売上総利益94.9億/販管費80.2億/営業利益14.7億/当期純利益19.7億/総資産233.6億(うち固定資産140.0億)/純資産196.8億
- 従業員数(社会保険被保険者): 273人(2026年7月時点、2024年末は174人)
本文で言及した企業