TOWINGの推定評価額は約98億円 ─ 名古屋大発「宙炭」が脱炭素化支援機構を引き込むまで
名古屋大発のアグリテック TOWING を登記から分析。シリーズBで集めた株式分は約17.8億円、全株式数ベースの推定評価額(上場企業の時価総額に相当)は約98億円。脱炭素化支援機構が入った資本政策を読む。

この記事のポイント
- シリーズBの19.4億円のうち、登記から復元できる株式で集めたお金は約17.8億円。差額の約1.6億円は、ベンチャーデット・農協系融資などの非エクイティ部分に対応するとみられる
- 「増資 →約2か月後に資本金1億円へ減資」という資本政策を2度くり返している
- C種優先株式の1株単価34,700円で計算した全株式数ベースの推定評価額は約98億円
愛知県名古屋市千種区、名古屋大学のインキュベーション施設の一室に本店を置く株式会社TOWINGは、廃棄されるもみ殻や畜糞を炭にして微生物を仕込んだ高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」を売る会社だ。一般に数年かかるとされる土づくりを約1か月に縮め、化学肥料を減らしながら農地に炭素を固定する——という、農業と脱炭素の両方に同時に効く資材を中核に据えている。
2025年5月、同社はシリーズBで約19.4億円を調達し、累計調達額が約29.5億円に達したと公表した。この記事では、その公表額が登記簿の上でどう積み上がっているかを跡づけ、株式で集めたお金から逆算した推定評価額を出す。決算公告だけを見れば3期連続の純損失が並ぶが、未上場のアグリテックでこの損失をどう読むかは、調達と資本政策の文脈を置いて初めて像を結ぶ。
宙炭という事業の現在地 ─ なぜ脱炭素化支援機構が入ったのか
TOWINGの設立は2020年2月。農研機構が開発した人工土壌技術を、名古屋大学発のスタートアップとして栽培システムへ実用化したのが出発点だった。一般的なバイオ炭は施用量や土壌条件によってアルカリ化などに注意がいるのに対し、宙炭は中性に近い性質を持つとされる。品質基準を満たしたバイオ炭と、土壌に合わせた施肥設計を組み合わせ、農地に大量導入しやすい資材にしている——この点が、散布を前提にする脱炭素農業のビジネスを成り立たせている。
事業の広がりは公開リリースから追える。プレシリーズA(2021年12月)の時点では「愛知県刈谷市に自社農園を立ち上げ、宙農の実証を行う」段階だった。シリーズA(2023年5月)では試験導入が24都道府県に広がり、「生産法人7件への試験導入で20〜70%の増収を確認」という定量的な手応えも公表された(特定条件下の試験結果で、すべての作物・圃場で同じ効果を保証するものではない)。実証から普及へと軸足が移った局面だ。
そしてシリーズB(2025年5月)の引受先には、既存投資家のベンチャーキャピタル各社に加えて、東邦ガス、兼松、サントリーホールディングス、ノリタケ、電源開発、博報堂といった事業会社が名を連ねた。なかでも象徴的なのが、新規引受先に株式会社脱炭素化支援機構(JICN)が入ったことだ。JICNは2022年に設立された官民ファンドで、脱炭素事業へ資金を供給するために作られた組織にあたる。農地への炭素固定をカーボンクレジット化する宙炭のモデルは、この政府系資金の投資対象として説明のつきやすい構造を持っている。「環境に良い資材」という曖昧な評価ではなく、炭素固定量を計測してクレジットに変換できることが、機関投資家を引き込む現在地をつくっている。
事業会社の顔ぶれもばらばらに見えて筋が通っている。未利用バイオマス(もみ殻・畜糞・食品残渣・下水汚泥)の供給側と、宙炭で育てた作物の出口側、そしてカーボンクレジットの買い手——宙炭を中心にした資源循環の輪に、それぞれの立場で関わりうる企業が並んでいる。
3期連続の純損失を、どの帳簿で読むか
決算公告は3期分が確認できる。2022年9月期、2024年9月期、2025年9月期で、その間の2023年9月期は公告が掲載されておらず欠けている。
| 決算期 | 当期純損益 | 純資産 | 負債 | 総資産 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年9月期 | ▲16百万円 | 139百万円 | 54百万円 | 193百万円 |
| 2024年9月期 | ▲356百万円 | 413百万円 | 110百万円 | 522百万円 |
| 2025年9月期 | ▲876百万円 | 1,316百万円 | 649百万円 | 1,965百万円 |

純損失は期を追って大きくなり、2025年9月期は約8.8億円に達した。だが同じ期に純資産は約13.2億円へと厚みを増している。損失で自己資本を食いつぶしているのではなく、外から株式で資本を入れながら、その資本を研究開発と普及に先行投資で回している局面だと読める。自己資本比率は2025年9月期で約67%と、まだ負債に依存しない形で立っている。
赤字が拡大していること自体は、量産化と全国展開に資金を振り向けるアグリテックでは珍しい数字ではない。注目すべきは、その投資の原資をどこから、どんな形で集めているかだ。そこに、この会社固有の資本政策が見えてくる。
「増資 →減資」を2度くり返す資本政策
履歴事項全部証明書から資本金の推移を並べると、はっきりしたリズムが現れる。

プレシリーズA後の2021年12月に資本金は8,610万円。シリーズA(B種優先株式)の払込で2023年4月に約4億8,596万円まで増えたあと、同年7月に資本金1億円へ減資している。シリーズB(C種優先株式)でも同じで、2025年5月に約9億8,995万円まで積み上げたあと、同年7月に再び1億円へ減資した。増資のたびに、約2か月後に資本金を1億円へ落とす——この動きが2度くり返されている。
これは、増資で集めたお金が消えたという話ではない。払い込まれた資本のうち資本金に組み入れた分を、後から資本準備金などへ振り替えて資本金の額面だけを1億円に戻す手続きだ。資本金1億円は税務や外形標準課税などで判定上の節目になりやすい水準で(近年は資本金だけでなく資本剰余金等も含めた見直しが進んでおり、実際の税務効果は個別確認を要する)、増資後に資本金だけを1億円へ戻す動きは、調達を重ねる未上場スタートアップの資本政策としてよく見られる。クローズのたびに同じ形が現れているのは、これが行き当たりばったりではなく、ラウンド設計に組み込まれた定型動作になっていることを示している。
株式で集めたお金から逆算する
公表された調達額には、株式で集めたお金のほかに借入やベンチャーデットが混ざることがある。実際、シリーズBの公表額19.4億円には、リリースに明記されたあおぞら企業投資のベンチャーデットと、愛知県信用農業協同組合連合会の融資が含まれている。会社全体の値段を見積もるには、このうち株式で集めた分だけを取り出す必要がある。
増資では払い込まれたお金の半分が資本金に、残り半分が資本準備金に入るのが通例だ。だから「資本金の増えた額 ×2」で、株式で集めたお金が復元できる。各ラウンドで計算すると次のようになる。
- B種優先株式(シリーズA・2023年) ─ 資本金の増加分から逆算した株式での調達は約8.0億円。発行株数61,047株で割ると1株あたり13,100円
- C種優先株式(シリーズB・2025年) ─ 株式での調達は約17.8億円。発行株数51,294株で割ると1株あたり34,700円
この2つの単価には裏取りがある。登記簿に載っている新株予約権(ストックオプション)の行使価額が、第1回は13,100円、C種を対象とする第3回・第4回は34,700円と記載されており、株式の払込から逆算した単価とぴたりと一致する。別々の登記事項から出た数字が同じ値で噛み合うため、単価の確度は高い。
公表額との差も筋が通る。シリーズBの株式分が約17.8億円、公表が19.4億円。差の約1.6億円が、リリースに書かれたベンチャーデットや農協系の融資などの非エクイティ部分に対応するとみられる(各デットの個別金額は公表されておらず、公表額・登記額の丸め差も含み得る)。株式で集めた分と借りた分を分けて読めば、「19.4億円すべてが株主資本になった」という誤読を避けられる。
推定評価額 ─ 約98億円
会社全体の値段は、直近ラウンドの1株単価に、その時点の全株式数を掛けて出す。全株式数には、発行済みの普通株式と各種優先株式に加えて、新株予約権として存在する潜在的な株式も含める。
直近ラウンド(C種優先株式・2025年5月時点)の株式の内訳は、普通株式113,000株、A種優先株式48,067株、B種優先株式61,047株、C種優先株式51,294株の合計273,408株。これに新株予約権が4種類あり、登記上の最新の個数を足すと9,866株分(第1回1,850個、第2回6,000個、第3回864個、第4回1,152個。いずれも1個あたり1株)。全株式数は283,274株になる。

C種優先株式の1株単価34,700円を全株式数に掛けると、 全株式数ベースの推定評価額(上場企業の時価総額に相当)は約98億円 。これは登記簿から独自に試算した推定値で、すべての株式が普通株式に転換した前提(優先株式の清算優先権などの条件は反映しない)の概算であり、実際の取引価格や公正価値評価とは異なりうる。
この評価額は一度に付いたものではない。1株単価が確定できる直近2ラウンドで全株式数ベースの推定評価額をたどると、B種ラウンド(2023年4月、1株13,100円)時点では約29億円。それがC種ラウンド(2025年5月、1株34,700円)で約98億円へと、およそ3.4倍に上がっている。

1株単価そのものが13,100円→34,700円と2.6倍になったアップラウンドで、株式数の増加だけでなく単価の引き上げを伴って評価が積み上がった点が、この調達の特徴だ。なお、登記から1株単価を一意に確定できないA種ラウンドは、この推移には含めていない。
ここで資本政策の意味が立体的になる。設立から5年あまり、A種・B種・C種と優先株式を積み上げてきた。公表ベースの累計調達額は約29.5億円(デットや融資も含む)で、C種ラウンドの単価から見た推定評価額は約98億円に達している。普通株式113,000株はプレシリーズA以降ほとんど動かず、外部資本は優先株式で入れてきた——普通株式の株数を増やさずに調達を重ねてきた跡が、株式の内訳に残っている。
ガバナンス整備の外形
経営の枠組みからも、次の段階を見据えた整え方が読み取れる。代表取締役CEOは西田宏平氏。2025年12月の登記では、取締役4名の重任と並んで監査役が3名体制に拡充されている。設立から日の浅いスタートアップで監査役を複数置く整備は、上場準備と断定はできないが、シリーズB後の事業拡大や外部株主の増加に合わせたガバナンス整備として自然に読める。
知財も、宙炭という製品名を守る方向で積み上がっている。商標は登録済みのものが複数あり、宙炭・宙苗・宙農・サスベジといったブランド名を囲い込む出願が確認できる。特許も技術の核を押さえる形で残っている。資材ビジネスは「効く」だけでは模倣されやすく、ブランドと製法の両面で守りを固めることが普及フェーズの前提になる。
従業員数も急だ。社会保険の被保険者ベースで、2023年末の28人から直近は85人。シリーズB前後で約2倍になっている。

次に見えるもの
TOWINGの登記からは、「実証 →普及 →世界展開」という事業の段階に合わせて、株主の顔ぶれと資本の入れ方を組み替えてきた跡がはっきり残っている。プレシリーズAは大学系VC中心、シリーズBは政府系ファンドと素材・エネルギー・商社の事業会社——という移り変わりは、宙炭が「面白い技術」から「資本市場と事業会社が乗れる脱炭素資材」へと位置づけを変えてきたことの裏返しだ。
次の決算公告で問われるのは、約13.2億円まで厚くなった自己資本を、宙炭の量産と全国・海外への普及にどこまで変換できるかだ。炭素固定をクレジットとして売る出口が、制度・価格・買い手の面で回り始めれば、損失先行の3期が反転に向かう局面が、いずれの帳簿に現れるかが見どころになる。
計算方法(この記事固有のメモ)
- B種優先株式の株式調達額(資本金増 ×2 =約8.0億円、1株13,100円)、C種優先株式(約17.8億円、1株34,700円)は、いずれも登記簿の新株予約権の行使価額(第1回13,100円/第3回・第4回34,700円)と一致したため、単価の確度は高い
- シリーズBの公表額19.4億円のうち、株式で集めた分は約17.8億円。差額の約1.6億円は、公表リリースに明記されたベンチャーデット・農協系融資などの非エクイティ部分に対応するとみられる(各デットの個別金額は非公表)
- 全株式数に含めた新株予約権は、登記簿の最新個数ベース(第1回1,850個=当初2,450個から減)。退職・放棄・行使で減った分を反映した現存ベースで集計している
- 2023年9月期は決算公告が確認できず、損益・財務の時系列から欠落している
- 設立から日が浅く移記等の中断がないため、消滅した新株予約権による潜在株式の取りこぼしは確認されない
ファクトシート
- 商号:株式会社TOWING
- 本店所在地:愛知県名古屋市千種区(名古屋大学インキュベーション施設)
- 設立:2020年2月27日
- 決算期:9月
- 代表者:代表取締役CEO 西田宏平
- 監査役:3名体制(2025年12月時点)
- 資本金:1億円(2025年7月の減資後)
- 従業員数:85人(社会保険被保険者ベース・2026年6月時点)
- 累計調達額:約29.5億円(公表ベース/うち株式分は登記からの試算)
- 推定評価額:約98億円(C種優先株式・2025年5月時点/全株式数ベースの独自試算)
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