カンリーの推定評価額は約87億円 ─ 店舗集客SaaSが1年で組み上げた、次の成長段階への資本構造と「第2創業期」
店舗の集客アカウントを一括管理するSaaS「カンリー」。登記から復元した全株式数ベースの推定評価額(上場企業の時価総額に相当)は約87億円。2025年に株式分割とシリーズC20億円調達を重ね、次の成長段階に向けた資本構造を1年で整えた。

カンリーの推定評価額は約87億円 ─ 店舗集客SaaSが1年で組み上げた、次の成長段階への資本構造と「第2創業期」
Googleビジネスプロフィールやアップル地図、各SNSといった店舗の集客アカウントを一括で管理するSaaS「カンリー」を運営する株式会社カンリー。飲食・美容・眼鏡・ドラッグストアなど業界を問わず、全国およそ11万店舗に導入が広がっている。その会社が2025年に入り、登記簿の上で資本の整理を一気に進めた。増資のあとに資本金を1億円まで戻す動きを二度くり返し、10月には1株を100株に分ける株式分割を実施。そして11月、シリーズCの1stクローズで20億円を集め、累計調達は約35億円に達した。
登記に残る各ラウンドの払込単価をたどると、会社が値づけに用いてきた基準をラウンドごとに復元できる。決算公告はまだ1期分しか出ていないが、登記の調達ラウンドと資本政策には、上場を視野に入れた会社の足取りがはっきり現れている。公開データだけで、この会社の現在地を整理する。
この記事のポイント
- 登記の払込単価から復元した推定評価額は、A種ごろの約24億円からシリーズCの約80億円(発行済株式ベース)へ。新株予約権を含む全株式数では約87億円(上場企業の時価総額に相当)
- 2025年に「増資→資本金1億円へ減資」を二度くり返し、10月に1対100の株式分割。ブリッジのCE型新株予約権がシリーズCで優先株式へ転換するなど、将来の大型調達や上場も見据えやすい資本の整理が1年に集中
- 決算公告は1期のみで純損失 約10.4億円。店舗集客を軸に福利厚生・採用・ローカル在庫へ事業を広げ、2026年2月には3件のM&A(グループジョイン)を実行
2025年に一気に進んだ、上場仕様の資本の組み替え
カンリーの登記簿でいちばん目を引くのは、2025年という1年に資本の動きが集中していることだ。

資本金は2024年まで1億円だったが、2025年2月の優先株式の発行で8.45億円まで積み上がり、6月にはおよそ10.1億円に達する。ところが7月31日、決算期末にあわせて再び1億円まで引き下げ、8月に1.1億円へ戻したあと、12月30日にまた1億円へ減らしている。増資で膨らんだ資本金を、期末や年末の節目で1億円に戻す動きが、半年あまりで二度くり返されている。
資本金を1億円以下に保つことは、外形標準課税や法人住民税の均等割といった中小企業向けの税制上の区分と結びつくことが多い動きで、赤字を抱えながら投資を続けるスタートアップでは珍しくない。個別の狙いまでは登記からは読み取れないが、増資のたびに資本金を律儀に戻している点は目を引く。
もう一つ、2025年10月31日に1株を100株に分割している。同じ日に発行できる株式の上限も10万株から1000万株へ引き上げた。発行済株式の総数は、分割前のおよそ2万2千株から222万9千株へと一気に増えている。1株あたりの値段を下げて株式の数を増やす動きは、上場時に投資家が買いやすい価格帯へ株価を整える準備として行われることが多い。
その株式の中身を見ると、ベンチャー投資の標準的な道具立てが一通りそろっている。普通株式に加えてA種・B種・C種の優先株式があり、役職員向けの新株予約権も第1回から第7回まで積み上がっている。さらに、2024年に発行されたCE型と呼ばれる新株予約権は、次の資金調達が決まったときに優先株式へ転換する設計のブリッジ(つなぎ)の資金調達で、2025年2月のシリーズCで実際にC種優先株式へ全部転換し、役目を終えている。増資・株式分割・ブリッジの転換という、上場を目指す会社にも見られる資本整理の手順が、2025年の登記に凝縮されている。
推定評価額は約24億円から約87億円へ
未上場のカンリーに市場でついた株価は存在しない。それでも、登記簿に残る各種類株式の1株あたり払込金額をたどれば、会社が値づけに用いてきた基準をラウンドごとに外から復元できる。

株式分割前の1株あたりの値段は、A種が18万円、B種が20万3,472円、C種が35万7,490円。A種からC種までで、1株の値段はおよそ2倍に上がっている。最も新しいC種の35万7,490円(株式分割後では1株3,574.90円)が、いまの会社の値づけを示す水準になる。
この単価に、それぞれの時点で発行されていた株式数を掛けると、評価額の移り変わりが見えてくる。

A種を発行した2021年ごろは約24億円、2023年に公表したシリーズBのB種で約35億円、そして2025年のC種では発行済株式だけで約80億円になる。役職員などに割り当てられた新株予約権(普通株式に直すと約20万株)まで含めた全株式数で見ると、直近の推定評価額は約87億円だ。上場企業でいう時価総額に相当する規模だが、未上場のため市場価格ではなく、登記からの独自試算になる。なお、これはシリーズCの「1stクローズ」時点で登記から確認できるC種単価を、現時点の全株式数に当てはめた推定値であり、今後の追加クローズや新たな発行条件によって、単価も評価額も変わりうる。
この単価には裏づけがある。シリーズCで資本金がおよそ1億円から10.1億円へ増えた局面の増加額を二倍にすると約18億円で、C種の発行株数に35万7,490円を掛けた額とほぼ一致する。シリーズC1stクローズで公表された20億円は、報道によれば第三者割当増資が約17億円、借入が約3億円という内訳で、この約18億円は株式で集めた増資分とほぼ重なる。公表の総額そのものではなく、株式で集めた純額の側から評価額を組み立てていることになる。
ただし、これらの優先株式には、清算のときに普通株主より先に元本相当を回収できる権利が付いている。推定評価額は優先株式の単価を全株式に当てはめた単純計算で、こうした優先権は考慮していない。将来の調達や上場でつく価格とも、決算上の純資産とも別の数字として見たほうがいい。
「店舗集客」から採用・在庫へ ─ 事業の広がりが評価額の背景にある
評価額の数字だけを並べると、登記をなぞるだけの話に閉じてしまう。なぜこの会社に資金と期待が集まるのか。その源は、店舗まわりの課題を次々に取りにいく事業の広がりにある。
カンリーの主力は、Googleビジネスプロフィールやアップル地図、ホームページ、各SNS、さらに中国の主要媒体まで、店舗の集客アカウントを一元管理するSaaS「カンリー店舗集客」だ。煩雑な情報更新をまとめて引き受け、データ分析や専任スタッフの伴走で集客の改善につなげる。ITRの調査による「店舗集客・MEO対策支援システム市場」では国内シェアの首位とされ、2024年には中国の主要媒体6つと連携する独占契約も結んでいる。
事業の幅は、知的財産の出願にも現れている。

早い時期には「MEOクラウド」や「canly」といった店舗集客まわりの商標と、地図上に店舗情報を表示・一括配信する特許を押さえていた。2023年には福利厚生サービス「フクリー」、2024年には人材募集を支援する特許や「時給査定」「StoreHR」といった採用領域の商標、2025年には実店舗とECをつなぐ「ローカル在庫」と、出願のテーマが店舗集客から採用・福利厚生・在庫へと階段状に広がっている。
事業の動きも、これと噛み合う。福利厚生の「フクリー」を2023年に立ち上げ、2024年にはアルバイト採用を自動化する「カンリーAI面接」、スポットワークを内製化する「カンリーワーク」を相次いで投入。2025年にはGoogleの認定パートナーの立場を生かした「カンリーローカル在庫」を始めている。店舗の集客を入口に、その先の採用・人材・在庫までを面で押さえにいく姿勢が、登記と知財と公表資料の三方から読み取れる。
事業を広げるもう一つの手段が、M&Aだ。登記上の事業目的には2024年10月に「国内外の企業、組織、その他の団体への資本参加及び経営支援に関する事業」が加わり、2026年2月には3件のM&A(同社が「グループジョイン」と呼ぶ手法)を実行したと公表した。手がける領域を、自社開発だけでなく買収でも広げる構えが、定款の変更からも跡づけられる。
確認できた決算公告は1期分 ─ 投資先行のなかで人員は倍増
決算の中身に目を移すと、いまが先行投資のただ中であることがわかる。
カンリーの決算公告として確認できたのは、2025年7月期の1期分だ。この期の当期純損失は約10.4億円。総資産は約13.8億円、純資産は約4.7億円で、自己資本比率は約34%にとどまる。多くの店舗にサービスを広げ、採用・福利厚生・在庫といった新しい事業に人と資金を投じてきた会社の損益として、素直に読める数字だ。確認できた決算公告が1期分のため推移は追えないが、シリーズCで20億円を新たに得たことで、当面の投資の原資は確保されている。
この期間に、人員は大きく増えている。

社会保険の被保険者数で見た従業員数は、2023年末のおよそ80人から、2026年半ばには180人を超える水準まで増えた。2年半でおよそ2.3倍だ。事業領域の拡大と歩調を合わせて、組織そのものも厚くしてきたことがわかる。
発信の量も多い。会社が出したプレスリリースは累計で400件を超え、近年は月に20件前後に達する月もある。

導入店舗の事例、福利厚生のクーポン提携、共催ウェビナーなど、店舗事業者との接点を細かく刻んで発信してきた歩みが、月次の本数に表れている。資金調達のたびに発信が厚くなる傾向も見て取れる。
銀行と商社から起業した共同代表と、「第2創業期」
会社を率いるのは、共同代表取締役の秋山祐太朗氏と辰巳衛氏だ。秋山氏は早稲田大学を出て三井住友銀行で法人営業を経験したのち、スタートアップでの新規事業立ち上げを経て2018年にカンリーを共同創業した。辰巳氏は早稲田大学の理工学部から双日に入り、空港のM&Aや与信・事業投資の審査に携わったうえ、米国公認会計士の試験にも合格している。就職活動で出会い、いずれ起業すると意気投合した二人が、銀行と商社で腕を磨いてから立ち上げた会社という来歴を、両氏は公開インタビューで語っている。
その経歴は、いまの会社の動きと地続きに見える。投資の審査やM&Aを経験した共同代表が、ブリッジの新株予約権や複数種類の優先株式を組み合わせ、買収による事業拡大まで自ら設計している、という読み方ができる。
シリーズCにあわせて、会社は企業ビジョンを「顧客接点を最適化する」から「ヒトとAIの力で、店舗の集客力を上げる」へ改め、AIの活用と海外展開、M&Aを加速する「第2創業期」と位置づけた。ガバナンスの面では取締役会と監査役を置く体制をとっており、上場を準備する会社が整える外形の一つと符合する。もっとも、機関設計の整備そのものが上場を約束するわけではなく、上場の時期も公表されていない。
なお、リード投資家のジャフコ グループは、A種・シリーズB・シリーズCと三度にわたって出資を続けている。早い時期に入った投資家が複数のラウンドで増資を引き受け続けている点も、登記と公表資料から跡づけられる。

2018年の設立から、シード、A種、シリーズB、シリーズCへと続く資金調達の歩みと、福利厚生・採用・在庫・M&Aへの事業の広がりを並べると、近年になって調達と事業展開が一気に重なっていることがわかる。
次の節目は、シリーズCの追加クローズと上場の有無
カンリーの決算だけを見れば、1期分の純損失と34%の自己資本比率が並ぶ。借入や増資で投資の原資をつなぎながら、黒字化までの距離を詰めにいく局面にある。だが同じ会社が、全国およそ11万店舗に店舗集客SaaSを届け、福利厚生・採用・在庫へ事業を広げ、ジャフコ グループを三度のリード投資家に迎えて、累計35億円を調達してきた。2025年には株式分割と二度の減資、ブリッジ新株予約権の転換と、将来の大型調達や上場も見据えやすい資本の整理を1年に凝縮している。
次に見たいのは、「1stクローズ」と銘打たれたシリーズCがどこまで積み上がるか、そして整え続けてきた資本構造の先に上場という出口が見えてくるかどうかだ。店舗の集客を入口に、その周辺の課題を採用や在庫まで広げてきた会社が、第2創業期と名づけた次の段階で何を束ねるか。その一点に、この会社の次の数字がかかっている。
計算方法(この記事の数値について)
- 1株あたりの単価:各ラウンドの単価は、登記簿に記載された優先株式の残余財産分配額・取得価額として読み取れる金額を用いた(A種18万円・B種20万3,472円・C種35万7,490円。いずれも2025年10月31日の1対100の株式分割前の金額で、分割後はそれぞれ1,800円・2,034.72円・3,574.90円)。推定評価額は優先株式の単価を普通株式を含む全株式に当てはめた単純計算であり、優先株式に付く残余財産分配などの優先権は考慮していない。
- 評価額の推移:A種・B種は発行済株式(普通株式と各優先株式の合計)に各単価を掛けた。普通株式数は登記上、現行登記簿の範囲で変動が確認できない。各ラウンドの時期は、A種を2021年、B種を2023年公表のシリーズB、C種を2025年公表のシリーズCに対応づけた概数。
- 直近の全株式数:株式分割後の発行済株式 222万9,200株(普通111万6,100株・A種23万株・B種36万9,300株・C種51万3,800株)に、存続する新株予約権(第1回〜第7回の目的株式合計 約20万1,700株)を加えた約243万1千株に、C種の1株3,574.90円を掛けて約87億円とした。役職員向けの第6回新株予約権(普通株式9万5,100株分、2025年12月発行)が含まれる。2024年に発行されたCE型新株予約権2回は、2025年2月のシリーズCでC種優先株式へ全部転換し消滅している。
- 検算:シリーズCで資本金が約1億円から約10.1億円へ増えた局面の増加額を二倍にすると約18億円で、C種の発行株数に1株35万7,490円を掛けた額とほぼ一致する。公表されたシリーズC1stクローズの調達額20億円は、報道によれば第三者割当増資 約17億円と借入 約3億円という内訳で、この約18億円は株式で集めた増資分に対応する(総額20億円との差の約3億円は借入)。
- 損益・財務:決算公告は貸借対照表が中心で売上高は開示されないため、損益は当期純損益で追った。確認できた決算公告は2025年7月期の1期分(他に公告があっても収録できていない可能性がある)。
- 従業員数:厚生労働省の社会保険の被保険者数(月次)を用いた。実際の在籍者数とは範囲が異なる場合がある。
- 本記事作成時点で確認した公開情報の範囲では、同社に関する重大な行政処分・訴訟等は確認していない。
参考にした主な外部情報
※決算公告・履歴事項全部証明書・社会保険の被保険者数・知的財産(J-PlatPat)は一次データを直接参照している。シリーズA〜Cの調達額・投資家・導入店舗数・ITR調査の市場シェア・各サービスの提供開始は、いずれも同社のプレスリリース(PR TIMES・公式サイト)および複数媒体の報道で確認できる公表情報による。
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | 株式会社カンリー |
| 本店所在地 | 東京都品川区 |
| 設立 | 2018年8月15日 |
| 代表取締役 | 秋山祐太朗、辰巳衛(共同代表) |
| 監査役 | 2名 |
| 決算期 | 7月 |
| 主な事業 | 店舗の集客アカウント一括管理SaaS「カンリー店舗集客」、福利厚生「カンリー福利厚生(フクリー)」、採用支援「カンリーAI面接」「カンリーワーク」などの開発・提供 |