SATORIのD種時点の推定評価額は約198億円 ─ 国産MAの「10期赤字」は、最後の調達から4年かけて黒字化の一歩手前まで来た
国産MAツール「SATORI」を提供するSATORI株式会社。決算公告10期は純損失続きだが、直近はほぼ収支均衡まで赤字を削った。登記から復元した全株式数ベースの推定評価額(上場企業の時価総額に相当)は、直近のD種(2021年)時点で約198億円。

見込み顧客の獲得から育成までを自動化する国産のマーケティングオートメーション(MA)ツール「SATORI」。これを開発・提供するSATORI株式会社は、累計で1,500社を超える導入(2023年時点の会社公表)の定番サービスを抱えながら、決算公告は10期すべてが純損失だった。累計の純損失は約41.6億円にのぼる。
ところが、その赤字は直近で急速に細っている。年間10億円規模の損失を出していた会社が、直近の期は純損失約3,300万円と、ほぼ収支が合うところまで来た。しかもこの4年間、新しい株式での資金調達は一度も行っていない。集めた資金を使い切りながら、販売代理店と隣接するSaaSを自社に取り込み、黒字化の一歩手前まで歩いてきた会社を、公開データだけで整理する。
この記事のポイント
- 決算公告10期はすべて純損失で累計 約41.6億円。だが直近4期は ▲999 → ▲874 → ▲337 → ▲111 → ▲33(百万円)と急速に縮小し、黒字化目前にある
- 登記の払込単価から復元した推定評価額は、A種からD種で1株が約8.4倍に上がり、直近のD種(2021年12月)時点で約198億円(全株式数ベース)
- 2025年に販売代理店を吸収合併し、2026年には社内コミュニケーションSaaS「SONR.」事業を承継。名刺管理のSansanは2020年に27.4%を握ったのち2022年に大半を手放している
最後の調達から4年、年10億円の赤字を「ほぼゼロ」まで削った
SATORIの本業は、Webサイトを訪れた見込み顧客を自動でつかまえ、興味の度合いに応じて育てていくMAツールだ。一般的なMAが実名のリードを対象にするのに対し、SATORIは名前のわからない匿名の訪問者にも接点をつくれる点を強みにしてきた。会社は2023年に累計導入が1,500社を超えたと公表している。
それだけ売れているサービスを抱えながら、決算公告を並べると印象は一変する。

確認できる10期は、一つの例外もなく純損失だ。とりわけ2020年3月期から2023年3月期は、年間で5億〜10億円規模の損失を出し続けている。MAという開発投資と人員が先に出ていくビジネスで、調達した資金を販売・カスタマーサクセスの体制づくりに振り向けてきた跡が、この赤字の厚みに表れている。
注目したいのは、その後の細り方だ。純損失は2022年3月期の約9.99億円をピークに、2023年3月期 約8.74億円、2024年3月期 約3.37億円、2025年3月期 約1.11億円、直近の2026年3月期は約3,300万円と、4期連続で縮小した。年10億円近かった赤字が、4年でほぼ収支の合う水準まで落ちている。赤字の会社が、赤字そのものを設計図どおりに削ってきた、と読める推移だ。ただし、ここでいう黒字化は決算公告で確認できる当期純損益ベースの話で、売上高や営業損益、SaaSとして本来見たい継続課金の伸びや解約率までは公告からは分からない。費用を絞って赤字を縮めたのか、事業の効率そのものが上がったのかの切り分けは、公開データだけではできない。
貸借対照表を並べると、その背景にある「増資で積んで、投資で取り崩す」リズムが見える。

純資産は増資のたびに跳ね上がり、損失で削られる動きをくり返してきた。2019年3月期に約10.6億円、2022年3月期には約16.7億円まで積み上がった純資産が、その後の投資先行で2026年3月期には約4.0億円まで戻っている。自己資本比率も90%超から31%へ下がった。手元に積んだ資金を計画的に燃やしながら、黒字化までの距離を詰めにいく局面と読める。
推定評価額は約198億円 ─ 1株1万円から8.5万円へ
未上場のSATORIに市場でついた株価は存在しない。それでも、登記簿に残る各種類株式の1株あたりの値段を使えば、会社が値づけに用いてきた基準を外から復元できる。

SATORIは設立以来、A種からD種まで段階的に優先株式を発行してきた。履歴事項全部証明書には、各種類株式の取得価額にあたる金額が記載されている。

A種の1万132円から、B種1万3,171円、C種・C-2種の3万1,360円、そして直近のD種では8万5,532円まで、1株の値段は約8.4倍に上がった。最も新しいD種の単価が、いまの会社の値づけを示す水準になる。
この単価に、その時点で発行されていた株式数を掛けると、会社の評価額が見えてくる。

D種を発行した2021年12月時点で、発行済みの株式は21万3,079株。これにD種の単価8万5,532円を掛けると、発行済株式だけで約182億円になる。当時存続していた役職員向けの新株予約権(普通株式に直すと1万9,000株)まで含めた全株式数で見ると、推定評価額は約198億円だ。上場企業でいう時価総額に相当する規模だが、未上場のため市場価格ではなく、登記からの独自試算になる。
このD種ラウンドは、会社の公表によれば総額約20億円で、引受先はインキュベイトファンド、SMBCベンチャーキャピタル、Axiom Asia Private Capital。これで累計の調達額は45億円超に達したという。A種からD種までの払込総額に2015年の創業期の増資を足すと、おおむねこの累計額に符合する。
ここで効いてくるのが、冒頭で見た「4年間 新規調達なし」という事実だ。会社は2021年12月のD種を最後に、株式での資金調達を行っていない。約198億円の値づけがついたラウンドで集めた資金と、後述する社債での借入だけで、黒字化目前まで走り切ったことになる。
27.4%を握ったSansanは、なぜ2年で大半を手放したのか
評価額の数字以上にこの会社を立体的にするのが、株主の出入りだ。
2015年の創業期、第三者割当増資の8,000万円を引き受けたのは、上場企業スカラ傘下のフュージョンパートナーと個人投資家だった。その後、システム開発大手のTISなども出資し、2020年4月には大きな動きがあった。クラウド名刺管理サービスを手がける上場企業のSansanが、SATORIの株式4万6,646株を取得し、議決権ベースで27.4%を握ったのだ。Sansanはこのとき、SATORIを持分法適用関連会社に位置づけた。子会社ではなく、議決権の2〜5割を持つ関連会社という関係である。名刺で集めた接点を、SATORIのMAで動かす——両社のサービスを組み合わせる狙いだった。
ところがこの関係は長くは続かなかった。Sansanは2022年12月、保有していたSATORI株のうち3万8,084株を5社へ譲渡し、SATORIを持分法適用の範囲から外した。Sansanは経営資源の最適配分を理由に挙げ、譲渡に伴う特別利益を計上している。ただし、公表資料から確認できる理由はこの説明にとどまり、個別の戦略判断の詳細までは外からは分からない。出資から約2年半での実質的な撤退だ。SATORIから見れば、有力株主の持分が動いても経営の独立性は保たれ、創業者が引き続き筆頭の立場で会社を率いる構図が残った。資本の出し手は入れ替わっても、舵を握る人物は変わっていない。
会社を率いるのは、創業者で代表取締役の植山浩介氏だ。植山氏は東京大学大学院を修了後の2003年にトライアックス株式会社を起こし、さまざまな企業のマーケティングシステムを開発してきた。その経験からMAツールを構想し、2014年にトライアックス社内の事業として立ち上げたうえで、2015年9月にSATORIを別会社として独立させた。植山氏は公開インタビュー(Forbes JAPAN)で「私たちはプロダクトの会社」と述べ、創業からの数年をプロダクトの磨き込みに費やしたと語っている。
販売代理店とSaaSを自社に取り込む「巻き取り」
赤字を削る一方で、SATORIは直近2年、登記簿の上で事業を外から取り込む動きを続けてきた。
一つめは、販売網の取り込みだ。2025年3月31日、SATORIはマーケティングユニット株式会社を吸収合併した。同社はSATORIの正規販売代理店であり、SATORI導入支援の実績を積んでいた会社である。自社サービスを売ってくれていた代理店を、本体に取り込んだ形になる。
二つめは、隣接するSaaSの取り込みだ。2026年3月31日、SATORIは大阪の株式会社エクストから、同社が開発・運営してきたクラウド型の社内コミュニケーションツール「SONR.(ソナー)」の事業を、吸収分割によって承継した。SONR.は日々のタスク管理や情報共有を支える月額課金のサービスで、エクストの公表では導入は850社を超え、サブスクリプション売上が同社の収益の柱になっていたという。MAという「社外の見込み顧客に向けた自動化」を本業とする会社が、「社内のコミュニケーションを回す道具」を手に入れたことになる。ただしSONR.は、MAそのものの機能拡張ではない。SATORIから見れば、マーケティング自動化の周辺機能というより、すでに顧客を持つ別のSaaSの顧客基盤とサブスクリプション収益を取り込む動きとして読むのが自然だ。なお、これらの事業承継は直近の決算期末と同じ日付で効力が生じており、直近2期の総資産・負債の動きには、取り込んだ事業の資産と負債が反映されているとみてよい。
この2件には、見落とせない共通点がある。取り込まれたマーケティングユニット(2020年設立・東京)と株式会社エクスト(2002年設立・大阪でSONR.を運営)は、いずれも同じ人物が代表を務めるオーナー企業だった。SATORIは、一人の起業家が育てた「自社サービスの販売代理店」と「別のSaaSプロダクト」を、1年のあいだに販売網とプロダクトの両面から本体へ束ね直したことになる。かつて株主だったSansanが持ち株の大半を手放す一方で、事業の側では取り込みが進む——外から入る資本は薄まり、内に抱える事業は広がる、という向きの違う二つの動きが、同じ時期に起きている。
この巻き取りを担う人員は、絞り込みを経て安定してきている。

社会保険の被保険者数で見た従業員数は、2024年初めの142人をピークに、2025年春には104人まで減った。年10億円規模の赤字を削る過程で、費用構造の見直しが進んだ局面と重なる。ただし社会保険ベースの人数だけでは、退職・採用抑制・組織再編・業務委託化などの内訳までは分からない。その後は110人前後で底打ちし、直近は113人で推移している。事業を取り込みながら、人数はむやみに増やさず黒字化に近づける——そうした輪郭が、登記と社会保険の数字の両方から読み取れる。
機関設計の面でも整備が進んでいる。2023年に監査役会設置会社へ移行し、社外監査役を含む3名の監査役体制になった。登記された各種類株式には、上場を申請する際に優先株式を普通株式へ転換する条項が組み込まれている。これは未上場のスタートアップの種類株式では標準的な定めで、上場も見据えやすい外形の一つではあるが、それだけで上場が近いことを意味するわけではない。上場の時期も公表されていない。
黒字化の先に、次の資本政策は来るか
SATORIの決算だけを見れば、10期連続の純損失と累計約41.6億円という数字が並ぶ。だが同じ会社が、約198億円と試算される値づけで2021年に集めた資金を最後に、新規の株式調達なしで赤字をほぼゼロまで削り、その間に販売代理店と隣接SaaSを自社へ取り込んだ。投資先行で広げた事業を、黒字化に向けて束ね直している局面にある。
次の決算公告で見たいのは、4期続けて細ってきた赤字が、ついに黒字へ反転するかどうかだ。そしてもう一つ、黒字転換に届いたあと、この会社が再調達・M&A・上場準備のいずれへ進むのかだ。10年走り続けた国産MAの進路が、次の一期で見えてくる。
計算方法(この記事の数値について)
- 1株あたりの値段:各ラウンドの単価は、履歴事項全部証明書に記載された各種類株式の取得価額を用いた(A種1万132円・B種1万3,171円・C種およびC-2種3万1,360円・D種8万5,532円)。本記事の推定評価額は、優先株式の単価を普通株式を含む全株式に当てはめた単純計算であり、優先株式に付く残余財産分配などの優先権は考慮していない。
- 推定評価額の内訳:直近のD種発行時点(2021年12月)の発行済株式21万3,079株(普通8万8,834株・A種9,870株・B種2万8,849株・C種4万7,952株・C-2種1万5,943株・D種2万1,631株)にD種の単価8万5,532円を掛けて約182億円、これに当時存続していた役職員向けの第1回新株予約権1万9,000株分(約16億円)を加えて約198億円とした。なお、この第1回新株予約権は2024年6月に全部放棄され、その後に発行された転換社債型の新株予約権付社債(払込総額2.5億円・一部償還)も2026年2月に全部消滅しており、現時点で存続する新株予約権はない。したがって、同じD種単価を現時点の発行済株式だけに当てれば約182億円となる。本記事で示した約198億円は、あくまでD種発行時点で当時存続していた新株予約権を含めた試算である。
- 損益・財務:決算公告は貸借対照表が中心で売上高は開示されないため、損益は当期純損益で追った。ここでいう黒字化・赤字縮小はいずれも当期純損益ベースで、売上高・営業損益や継続課金の伸び・解約率は公告からは分からない。資本金は2021年以降おおむね1億円で推移している。直近2期の総資産・負債には、吸収合併・吸収分割で承継した事業の資産・負債が含まれる。
- 株主の異動:Sansanによる株式の取得(27.4%・2020年)および譲渡・持分法除外(2022年)は、Sansanの公表資料による。各ラウンドの引受先は各社の公表資料による。
- 従業員数:厚生労働省の社会保険の被保険者数(月次)を用いた。実際の在籍者数とは範囲が異なる場合がある。
- 本記事作成時点で確認した公開情報の範囲では、同社に関する重大な行政処分・訴訟等は確認していない。
参考にした主な外部情報
※決算公告・履歴事項全部証明書・社会保険の被保険者数・知的財産(J-PlatPat)は一次データを直接参照している。
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | SATORI株式会社 |
| 本店所在地 | 東京都渋谷区 |
| 設立 | 2015年9月1日 |
| 代表取締役 | 植山浩介 |
| 取締役 | 植山浩介、都賢治、長竹宏、藤野敦 |
| 監査役 | 3名(うち社外監査役を含む) |
| 決算期 | 3月 |
| 主な事業 | マーケティングオートメーションツール「SATORI」の開発・提供、社内コミュニケーションツール「SONR.」の運営 |
本文で言及した企業