Looopの推定評価額は約594億円 ─ 「黒字回復」の中身と、創業者が戻った独立系新電力の再設計
電力小売「Looopでんき」の独立系新電力Looop。全株式数ベースの推定評価額(上場企業の時価総額に相当)は約594億円。2025年3月期の約17.8億円の純損失から翌期は黒字に戻したが、中身は本業ではなく特別損益と増資が支えていた。

電力小売「Looopでんき」で知られる株式会社Looopは、東日本大震災の被災地で太陽光発電を設置するボランティアから生まれた、独立系のエネルギー事業者だ。2025年3月期に約17.8億円の純損失を出したあと、翌期には最終黒字へ戻している。ただ、その「黒字回復」は決算公告の当期純利益だけを見ていると読み違える。本業の利益はほとんど残っておらず、最終損益を動かしているのは特別損益と、2025年に実施した大型の増資だった。
決算公告の損益計算書と、履歴事項全部証明書に残る資本の動きを並べると、この会社がいま「電力小売の会社」から何へ移ろうとしているのかが見えてくる。全株式数を基準にした推定評価額(上場企業でいう時価総額に相当)は、登記からの独自試算で約594億円になる。
この記事のポイント
- 2025年3月期の純損失 約17.8億円は営業赤字ではなく、約30億円の特別損失によるもの(営業利益は+16.5億円)。翌2026年3月期の最終黒字1.89億円も、経常段階は約3.6億円の赤字で、特別利益9.6億円が下支えしている
- 2025年に1株687円で総額 約51.7億円を第三者割当増資(東急不動産などが引受)。純資産は78.6億円から132.5億円へ厚くなり、登記からの推定評価額は全株式数ベースで約594億円
- 発電所の運営保守と遠隔監視の事業を、出資元・東急不動産ホールディングス傘下のリニューアブル・ジャパンへ会社分割で移管(2026年2月)
「黒字回復」の実態 ─ 本業はほぼ横ばい、最終損益を動かしたのは特別損益
まず、いちばん誤解されやすいところから整理する。

2026年3月期の当期純利益は1.89億円。その前の期が約17.8億円の純損失だったので、数字の上では赤字から黒字へ戻ったように見える。だが、利益を段階ごとに分けると印象が変わる。
2026年3月期の営業利益はわずか0.54億円、経常利益にいたっては約3.6億円のマイナス、つまり経常段階は赤字だ。そこに特別利益9.6億円が乗って、最終的に1.89億円の黒字に着地している。本業でしっかり稼いで黒字に戻したというより、一過性の利益が最終損益を黒字側へ押し上げた期、という読み方が近い。
その前の2025年3月期も同じ構図の裏返しだ。純損失は約17.8億円だが、営業利益は+16.5億円、経常利益も+12.4億円で、どちらも黒字だった。最終赤字の正体は約30億円の特別損失にある(内訳は決算公告では開示されないが、減損や事業の整理といった一過性の費用とみられる)。市場価格の高騰で本業がへこんだのではなく、本業の外で大きな損失を一度に計上した期だった、と整理できる。
なぜ2026年3月期に営業利益がほぼ消えたのか。手がかりは販管費にある。販売費及び一般管理費は前の期の79.2億円から115.2億円へ、1年で約36億円ふくらんだ。俳優を起用したテレビCMの放映開始、「晴れ割」など新料金プランの募集、家庭用IoT機器を手がける会社の完全子会社化によるスマートホーム事業への参入——2025年から2026年にかけて、Looopは獲得と発信に一気に費用を投じている。後述する売上総利益は過去最高を更新したが、その増加分を上回るペースで販管費が伸び、営業段階の利益を押し流した。
エネルギー危機は「売上原価率」に刻まれている ─ 664億円の年商と薄い粗利
電力市場の高騰がLooopの決算に現れているのは、実は最終損益ではなく、売上高と売上原価の関係のほうだ。

2023年3月期の売上高は664億円で、確認できる期のなかで最も大きい。この期は2022年から2023年にかけての冬をはさむ。ロシアによるウクライナ侵攻で液化天然ガスの価格が上がり、卸電力市場(JEPX)の価格も歴史的な高値をつけた時期にあたる。資源エネルギー庁の資料でも、この時期に卸電力価格が急騰したことが説明されている。仕入れる電気の値段が上がれば、小売の売上高も膨らむ。だが同時に売上原価も膨らむため、売上原価率は87.9%まで上がり、売上総利益率は12.1%まで薄くなった。年商は最大でも、いちばん儲けにくい期だったことになる。
その後、卸価格が落ち着くにつれて売上高は456億円(2024年3月期)まで下がり、代わりに採算は回復していく。売上原価率は87.9%、83.1%、81.1%、78.5%と4期連続で下がり、売上総利益は80.6億円から116億円へと過去最高を更新した。「電気代が高かった年ほど売上は大きいが薄利」という新電力特有の構造が、そのまま数字に出ている。
この構造は、顧客との関係にも影を落としてきた。Looopは2022年に家庭向けの契約を市場価格に連動する「スマートタイムONE」へ切り替えた。高値の時期に電気代が大きく上がった利用者からは不満の声も上がり、比較サイトなどには当時の体験にもとづく評判が今も残る。市場連動型は卸価格が安いときには恩恵が大きい一方、高いときには家計を直撃する。Looopがその後、天気や時間帯に応じて自動で割り引く「おまかせ割」「晴れ割」や、価格変動に備える「おまもりチケット」といった仕組みを次々に投入してきたのは、この価格変動リスクをどう和らげるかという課題への対応でもある。販管費の膨張は、その裏側でもある。
増資で厚くした純資産 ─ 1株687円、東急不動産が入った資本政策
本業の利益が薄いなかで、Looopは自己資本を大きく積み増している。

資本金は長らく40.9億円で据え置かれていたが、2025年に入って4月・8月・12月の3回に分けて増資し、66.8億円まで積み上がった。登記に記された発行済株式数と資本金の増え方をたどると、3回とも1株あたりの払込金額は687円で一致する。増資で払い込まれたお金の半額が資本金に組み入れられたと仮定して逆算すると、株式で集めたお金は資本金の増加額のおよそ2倍、つまり約51.7億円になる。会社法は「払込額の2分の1を超えない額は資本金に計上しないことができる」と定めるだけで、常に半々とは限らないが、3回の増資で同じ単価が再現されること、その単価が資本業務提携で株式を引き受けた東急不動産の払込単価にあたることが、この仮定の裏づけになる。
このうち最初の4月の増資は、東急不動産との資本業務提携にともなうものだ。東急不動産は2021年にもLooopの株式を引き受けており、2025年はその追加取得にあたる。株式会社ENEOSも2020年に資本業務提携で出資しているほか、2021年の増資には北陸電力や大手ゼネコンも加わった。つまりLooopは、特定の1社に過半を握られた子会社ではなく、創業者と複数の事業会社が株主として並ぶ独立系の会社だ。会社自身も、電力供給の実績で「独立系新電力No.1」を掲げている。
増資の効果は貸借対照表にはっきり出る。

純資産は2025年3月期の78.6億円から、2026年3月期には132.5億円へと約1.7倍になった。増えた約54億円のうち、約52億円は増資で集めたお金で、残りが当期の黒字にほぼ対応する。自己資本比率も21.5%から32.6%へ戻した。総資産は406億円、負債は274億円の規模で、発電所の開発や電力調達に厚い資産と負債の両方を抱えるのは、この事業の構造そのものだ。本業の利益が薄い局面で、外部からの増資によって財務の余力を先に確保しにいった、という資本政策が読み取れる。
推定評価額は約594億円 ─ 登記からの独自試算
未上場のLooopに市場でついた株価はない。それでも、2025年の増資で使われた1株687円という単価は、資本業務提携で株式を引き受けた東急不動産が実際に払い込んだ値段であり、外部からの評価が反映された1株あたりの値段とみてよい。この単価を株式数に当てはめると、会社全体の評価額を外から組み立てられる。ただし東急不動産は、発電所の開発やPPAでLooopと組む事業会社でもある。この687円には、純粋な投資リターンの見立てだけでなく、協業から生まれる価値への期待が含まれている可能性があり、財務投資家がつける株価とは性格が異なりうる点は、割り引いて見たほうがいい。

直近の登記で確認できる発行済株式は8,450万6,170株。ここに、いま存続している新株予約権(上場を条件に行使できる第4回、普通株式にして200万株)を加えた全株式数は8,650万株あまりになる。これに1株687円を掛けると、推定評価額は約594億円。発行済みの株式だけで見ても約581億円になる。上場企業でいう時価総額に相当する規模だが、市場価格ではなく登記からの独自試算であり、あくまで推定だ。
Looopは優先株式を発行しておらず、株式は普通株式にほぼ一本化されている。スタートアップにありがちな種類株ごとに単価が違う構造ではないため、直近の単価を全株式に当てはめる試算はそのまま置きやすい。この約594億円は、決算上の純資産(132.5億円)のおよそ4.5倍にあたる。純資産は過去に積み上げた元手の残高、評価額はこれから稼ぐ力への期待——両者が別物であることが、この差にそのまま表れている。
創業者が戻り、「エネルギーテック」へ ─ 事業の現在地
なぜ本業が薄利のうちから、事業会社が出資し、これだけの評価額がつくのか。その答えは、会社がいま置かれている転換点にある。
Looopを創業したのは、現在の代表取締役社長CEOである中村創一郎氏だ。2011年、東日本大震災の被災地で太陽光発電を設置するボランティアをきっかけに会社を立ち上げ、誰でも組み立てられる「MY発電所キット」を売り出した。中村氏はおよそ12年にわたり経営を率いたのち、売上高が660億円規模に達した2023年3月に社長を退き、いったん代表からも外れていた。それが2025年6月、創業者として再び代表取締役社長CEOに就任している。Looopを「エネルギーテック企業」へ作り替えるという構想を、本人がインタビューで語っている。
事業の裾野は電力小売の外へ広がっている。「Looopでんき」は2026年4月にサービス開始10周年を迎え、契約件数は40万件を突破した。家庭用IoT機器の会社を完全子会社化してスマートホーム事業に参入し、スマートロックの会社やAIのスタートアップとも相次いで資本業務提携を結んだ。海外では、フィリピンの大規模太陽光や、ケニアでの太陽光パネルのリユース実証にも動いている。会社は2028年度に売上高1,000億円・売上総利益223億円を掲げ、株式上場も視野に入れると公表している。存続している新株予約権が上場を条件に行使できる設計であることや、監査等委員会設置会社に会計監査人を置く機関設計も、この方向と噛み合う。

一方で、これを担う人員は身軽なままだ。社会保険の被保険者数で見た従業員は、この2年半おおむね260〜290人の範囲で推移し、直近は270人前後にある。全国の電力小売と発電所の開発、スマートホームや海外展開までを、この規模の陣容で回している計算になる。
発電所の運営保守を、出資元グループへ ─ 事業の切り分け
事業を広げる一方で、Looopは持っていた事業の一部を手放してもいる。
2025年12月に官報へ載った吸収分割公告と登記によれば、Looopは発電所の運営保守と遠隔監視システムに関する事業を、リニューアブル・ジャパンへ会社分割で移す。効力発生は2026年2月1日。この承継先は、Looopに出資する東急不動産の親会社である東急不動産ホールディングスのグループ会社で、2026年4月にリエネ・エナジー株式会社へ商号を変更している。再生可能エネルギー発電所の運営保守で3ギガワットを超える実績を持つ相手だ。
つまりLooopは、発電所を「動かし続ける」運営保守の部分を出資元のグループへ委ね、自らは電力小売と発電所の開発、そしてエネルギーテックへ経営資源を寄せている。会社ごと買収されたのではなく、事業の一部を切り分けて渡す再編だ。この期に特別利益9.6億円が計上されていることと時期は重なるが、その内訳は決算公告では開示されておらず、両者の関係を断定できる材料はない。
事業の広がりは、知的財産の積み上がりにも現れている。

出願・登録は計125件で、うち101件が商標だ。「Looopでんき」をはじめとするサービス名や料金プランの名称を数多く押さえている。電力の需要と供給を最適化する制御に関する特許が19件、意匠と実用新案も加わる。発電・蓄電から小売、家庭内の機器制御まで、事業の各段を言葉と技術の両面で確保しにいく姿勢が読み取れる。
最終損益ではなく、営業利益で見たい会社になった
Looopの決算は、当期純利益だけを追うと像を結ばない。2025年3月期の赤字は特別損失、2026年3月期の黒字は特別利益と、この2期の最終損益はいずれも一過性の項目で振れている。その下で、電力小売の採算(売上総利益率)は着実に戻り、粗利は過去最高を更新した。ただし、獲得と新規事業に投じる販管費がその回復を追い越し、営業段階の利益はほとんど残っていない。
創業者が経営に戻り、発電所の運営は出資元グループへ渡し、増資で財務を厚くして上場をうかがう——独立系新電力No.1は、電力を売る会社からエネルギーのテック企業へと自らを組み替えている途中にある。次の決算公告で見たいのは、最終損益がまた特別損益で揺れるかどうかではなく、過去最高になった粗利が、増えた販管費を吸収して営業利益をどこまで押し上げられるかだ。厚くした純資産を、本業の黒字に変えられるか。その一点に、上場を掲げるこの会社の次が懸かっている。
計算方法(この記事の数値について)
- 推定評価額:2025年の増資で用いられた1株687円(登記上の発行済株式数の増加分と資本金の増加額から算出。3回の増資すべてで一致し、資本業務提携で株式を引き受けた東急不動産の払込単価にあたる)を、直近の全株式数に当てはめた。全株式数は、発行済株式8,450万6,170株に、存続する新株予約権(第4回・目的株式200万株、上場を条件に行使、行使価額421円)を加えた8,650万6,170株。第1回・第2回の新株予約権は行使期間満了で消滅しているため含めない。Looopは優先株式を発行しておらず、単価は普通株式で一本化されている。
- 決算数値の検証:損益と貸借対照表は決算公告の明細(売上高−売上原価=売上総利益、営業→経常→税引前→当期純利益の積み上げ、資産=負債+純資産)が内部で整合することを確認して用いた。直近4期の公告は日刊工業新聞に掲載されたもので原本画像がなく、明細どうしの整合による確認にとどまる。2016年3月期のみ官報掲載で、この期は純利益3.63億円の黒字だった(2017〜2022年3月期の公告は当社データに未収録)。金額は単体・当期純利益ベースで、単位は決算公告の表示(2016年3月期は千円、以降は百万円)を億円に換算した。
- 特別損益:2025年3月期の特別損失 約30億円、2026年3月期の特別利益 約9.6億円は、いずれも決算公告に内訳が開示されていない。
- 従業員数:厚生労働省の社会保険の被保険者数(月次)を用いた。実際の在籍者数や連結の人員とは範囲が異なる。
- 会社分割:発電所運営保守・遠隔監視事業の承継、承継先の親会社関係・商号変更は、官報の吸収分割公告と履歴事項全部証明書、および承継先グループの公表資料による。
- 公表されたネガティブな報道・行政処分・訴訟などは、確認した範囲では見当たらなかった。市場連動型プランへの移行をめぐる利用者の反応は上記のとおり本文で触れた。
参考にした主な外部情報
※決算公告(官報・日刊工業新聞)・履歴事項全部証明書・社会保険の被保険者数・知的財産(J-PlatPat)は一次データを直接参照している。東急不動産との資本業務提携、契約件数や中期目標、会社分割の各事実は、会社および関係各社の公表資料(プレスリリース等)で確認した。
ファクトシート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商号 | 株式会社Looop |
| 本店所在地 | 東京都台東区 |
| 設立 | 2011年4月4日 |
| 代表取締役 | 中村創一郎 |
| 決算期 | 3月 |
| 主な事業 | 電力小売「Looopでんき」、再生可能エネルギー発電所の開発、蓄電池・PPA、スマートホーム |
| 関連会社 | リニューアブル・ジャパン株式会社(2026年4月にリエネ・エナジー株式会社へ商号変更・発電所運営保守事業の承継先) |
本文で言及した企業