トレタ、LINEヤフー子会社化までの13年──78.6億円の資本調達と、潜在株式ゼロまでの整理
13年で78.6億円を資本調達したトレタが、2026年2月にLINEヤフーの連結子会社に。登記推定評価額195億円→120億円、資本剰余金51.8億円の欠損填補、買収合意の8日前に潜在株式ゼロ——登記と決算公告から資本政策の順序を復元し、取得価額がどこにも開示されていないことまで確かめた。

この記事のポイント
- 2026年2月25日、LINEヤフーがトレタの発行済株式の過半数を取得し連結子会社化。同じ日に、代表を除く取締役4名と監査役1名が辞任し、新体制3名が就任 したことが登記に残る。LINEヤフーの適時開示には 取得株式数・議決権比率・取得価額の項目そのものがなく、記載は「連結業績に与える影響は軽微」の一文だけである
- 登記から復元した株式調達は 累計約78.6億円(優先株式7ラウンドで約78.2億円)。中村氏が2022年のnoteに書いた「累計80億円くらい」と1.8%の差で一致する。1株あたりの発行価格は2018年の52.2万円をピークに、2021年のラウンドでは28.1万円へ 約46%下がった
- 単価に当時の株式数を掛けた完全希薄化後の推定評価額は、F種時点の 約195億円 から、G種時点の 約120億円 へ 約39% 縮んだ(同じ算定ルールで比べた参考値)
- 払込資本を源泉とする 資本剰余金51.8億円は、2024年に39.3億円、子会社化をまたぐ2026年3月期に12.5億円 と2回に分けて累積赤字の穴埋めに使われ、残高ゼロになった
- 買収の前に、新株予約権は行使価額1円のものまで含めて すべて消滅し、登記上の新株予約権はゼロ になっていた。発行済株式4万1,783株・資本金1億円は買収の前後で動いていない
飲食店の予約台帳をSaaSに置き換えた株式会社トレタが、2026年2月25日、LINEヤフー株式会社の連結子会社になった。LINEヤフーの適時開示によれば、取得したのは発行済株式の過半数で、売り手は経営株主。取得比率も対価も公表されていない。
この買収、登記簿の側から見ると輪郭がはっきりする。トレタの発行済株式総数4万1,783株と資本金1億円は、買収の前後で1株も1円も動いていない。新株を発行して資本を入れたのではなく、既に発行されている株式の持ち主が変わった ──登記はそういう形と矛盾しない。そして株式の持ち主が変わった当日、代表取締役を除く役員が総入れ替えになった。
設立から13年。登記から復元できる資本調達は約78.6億円、確認できた決算公告のほぼすべてが赤字だった会社が、大手プラットフォームの傘下で再出発する。その手前で何が起きていたのかを、決算公告10期分と登記簿(現行と閉鎖2通)から並べる。
1. 公告10期のうち9期が純損失、初の当期黒字は子会社化をまたいだ3か月変則決算

| 期末 | 当期純損益 | 純資産 | 総資産 |
|---|---|---|---|
| 2015年12月期 | ▲3.29億円 | ▲0.79億円 | 2.71億円 |
| 2016年12月期 | ▲5.79億円 | 9.44億円 | 12.29億円 |
| 2018年12月期 | ▲9.11億円 | 28.71億円 | 33.46億円 |
| 2020年12月期 | ▲11.18億円 | 5.85億円 | 13.41億円 |
| 2021年12月期 | ▲9.82億円 | 13.34億円 | 20.81億円 |
| 2022年12月期 | ▲6.79億円 | 6.44億円 | 12.43億円 |
| 2023年12月期 | ▲5.27億円 | 1.16億円 | 9.09億円 |
| 2024年12月期 | ▲4.08億円 | ▲2.92億円 | 4.96億円 |
| 2025年12月期 | ▲1.67億円 | ▲4.42億円 | 2.92億円 |
| 2026年3月期(3か月) | +1,569万円 | ▲4.43億円 | 2.59億円 |
確認できた決算公告は10期分(2017年・2019年の公告は収録できていない)。うち9期が当期純損失で、確認できた中で最大は2020年12月期の11.18億円──コロナ禍が飲食店を直撃した年である(未収録の2017年・2019年についても、前後の期の純資産と払込額の差から、同規模の損失があったとみられる)。創業者で代表取締役の中村仁氏は、LINEヤフーとの取得合意が公表された2026年1月30日にnoteを公開している。そこには「コロナ禍の最悪期では月に2億もの赤字を出していた」「そして、この2025年12月。トレタは創業以来初めて、経常黒字を達成することができました」とある(note「トレタ、LINEヤフーグループへ」)。
公告の上で初めて当期黒字になったのは、決算期を12月から3月へ変えたことにともなう 3か月だけの変則決算、2026年3月期の1,569万円だ。この期は2026年1月1日から3月31日までで、LINEヤフーによる株式取得の完了は2月25日。3か月のうち子会社だった期間は1か月あまり にすぎない。子会社になったから黒字になった、という話ではない。
順序はむしろ逆である。中村氏のnoteが「創業以来初めて、経常黒字を達成」と書くのは 「この2025年12月」 ── 合意公表より前だ。noteは月を指して書いており、通期の黒字とも当期純利益の黒字とも書いていない。損失は2020年の11.18億円をピークに5年かけて縮み続け、黒字が見えたところでM&Aが成立した──公告と登記から読める時系列はその順番になっている。
ただし債務超過は解消されていない。純資産は ▲4.42億円から ▲4.43億円へ、黒字の期なのにわずかに悪化した。妙に見えるが、内訳を見ると理由がはっきりする。2025年12月期末の純資産には 新株予約権1,684万円 が計上されており、それが2026年3月期末には消えている。株主資本のほうは当期純利益ぶんちょうど(+1,569万円)増えているので、差し引き115万円のマイナスは消えた新株予約権とぴたり一致する。この1,684万円が、後で見る「潜在株式ゼロ」の会計上の裏側 である。
そしてこの一致は、もうひとつ別のことを示唆する。日本の会計基準では、行使されずに失効した新株予約権は、計上していた額を利益に戻し入れる(新株予約権戻入益)。トレタの新株予約権は、登記上2026年1月22日までに全部が消えている。つまり3か月期の当期純利益1,569万円には、この戻入益が含まれている可能性がある。 損益計算書の内訳は公告されないので実際の金額は確認できないが、仮に1,684万円の全額がこの期の戻入益だったとすれば、それを除いた損益は115万円の赤字になる計算だ。
創業者が言う「2025年12月の経常黒字」と、公告に載った「初の当期黒字」は、必ずしも同じことを指していない。前者は事業の話であり、後者には買収直前の資本整理が混じっているかもしれない。
なお決算期の変更そのものを告げる公表文は見つかっておらず、公告の期末日の推移からの判断である。ただし親会社となったLINEヤフーが3月決算であることとは整合する。また、創業者のnoteにある「2025年12月の経常黒字」と公告の「2026年3月期の当期純利益」は、利益の段階も対象期間も別の数字である。
2. 資本調達78.6億円──登記推定評価額は195億円から120億円へ

登記簿からは、7回の優先株式ラウンドがすべて復元できる。1株あたりの発行価格は、登記の資本金増加額の2倍(払込の半分を資本金に組み入れる慣行)を発行株数で割った値で、7ラウンドすべてが登記に記された優先株式の取得価額や新株予約権の行使価額と一致した。
| ラウンド | 発行時期 | 株数 | 1株あたり | 払込総額 |
|---|---|---|---|---|
| A種 | 2013年7月 | 4,000株 | 2万5,000円 | 1.0億円 |
| B種 | 2014年6月 | 3,528株 | 5万6,690円 | 2.0億円 |
| C種 | 2014年9月〜2016年2月 | 2,571株 | 21万円 | 5.4億円 |
| D種 | 2016年9月 | 5,117株 | 23万5,000円 | 12.0億円 |
| E種 | 2017年11月 | 3,991株 | 26万3,000円 | 10.5億円 |
| F種 | 2018年12月 | 5,747株 | 52万2,000円 | 30.0億円 |
| G種 | 2021年3〜10月 | 6,158株 | 28万1,000円 | 17.3億円 |
普通株式や欠落期間の発行を含めた株式調達の累計は 約78.6億円。
この復元値には、外からの裏が2つ取れる。ひとつは2018年12月のF種30億円で、これは NTTドコモが引き受けた第三者割当増資30億円 としてドコモ・トレタ双方の公式発表に明記されている。登記から逆算した30.00億円と一致する。ドコモは同時に既存株主から株式譲受も行っており、両社の発表は この提携でトレタの累計資金調達額が61.3億円になる としている。
もうひとつは創業者本人の記述だ。中村氏は2022年2月のnoteで「今回も含め 累計80億円くらい 資金調達している」と書いている。登記から復元した株式調達は同時点で78.6億円。1.8%の差 に収まる。登記だけを積み上げた数字が、会社側の自己申告とここまで合う。
なお「ドコモの出資比率39.7%」という数字は、両社のプレスリリースには 書かれていない。出所は同日のBRIDGEの取材記事で、中村氏が「新株と旧株移動の合計で、ドコモさんの出資比率は39.7%となる予定です」と語ったものである(同記事は、株式譲受にかかった費用は開示されていないとも付記している)。ドコモが取得した株式がその後どうなったかは、ドコモ・トレタ双方の発表にも見当たらない。
目を引くのは単価の折れ方だ。F種の52万2,000円に対し、コロナ禍を挟んだ2021年のG種は28万1,000円。1株あたりの発行価格が約46%下がった。
ただし、会社の値段は1株の値段だけでは決まらない。単価にその時点の株式数を掛けると、各ラウンド時点の 完全希薄化後の推定評価額(上場企業の時価総額に相当する考え方)が出せる。新株予約権まで含めた全株式数ベースで、F種を出し切った2018年12月17日時点が 約195億円、G種を出し切った2021年10月29日時点が 約120億円。下落率は約39% で、1株の下落率(46%)よりは浅い。この3年弱で全株式数が3万7,388株から4万2,628株へ 14.0% 増えたぶんだけ、会社全体の目減りが緩む、という算数である。新株予約権を除いた発行済株式だけで見ても186億円→117億円(▲37%、株式数は17.3%増)で、傾向は変わらない。単価だけを見ていると、この差を読み違える。
ただしこれは、F種とG種に同じ算定ルールを当てはめた参考値である。両者の優先権の条件が同一とは限らず、新株予約権を全部株式に数える完全希薄化の計算も、上場企業の時価総額と同じものではない。企業価値そのものが39%下がったと断定できる数字ではない。
なお2022年2月には「総額20.3億円の資金調達完了」が公表されている。引受先として名前が出ているのは凸版印刷、HR Tech Fund(リクルートホールディングス傘下のCVC)、Image Frame Investment(テンセント傘下のCVC)、岡三キャピタルパートナーズ、ジャパン・コインベスト3号(三井住友トラスト・インベストメント運営)の5社。これに金融機関1社からの融資を合わせた総額が20.3億円で、金融機関名も内訳金額も公表されていない。ここで登記の側と突き合わせると、登記から復元したG種は17.3億円で、公表額20.3億円との差はちょうど3.0億円 になる。発表に融資が含まれている以上、この3.0億円が融資部分だった可能性はある。ただし会社が内訳を公表していない以上、断定はできない。登記上は2022年に新たな株式発行がなく、78.6億円にはG種までの発行だけを数えている。
この間、増資で膨らんだ資本金を1億円へ戻す減資が4回(2016年・2017年・2019年・2021年、いずれも12月末)行われている。減資そのものでは、会社の資金も純資産の総額も、発行済株式数も株主間の持分比率も変わらない。純資産の中で科目を移すだけの手続きである。資本金の額だけで会社の体力を測ると、この会社の規模感を読み違えることになる。
3. 51.8億円の資本剰余金は、2回に分けて累積赤字へ消えた
決算公告の貸借対照表を並べると、損益では説明できない動きが2回ある。

| 期末 | 資本剰余金 | 利益剰余金(累積赤字) | 当期純損益 |
|---|---|---|---|
| 2023年12月期 | 51億7,832万円 | ▲51億6,211万円 | ▲5.27億円 |
| 2024年12月期 | 12億4,812万円 | ▲16億3,962万円 | ▲4.08億円 |
| 2025年12月期 | 12億4,812万円 | ▲18億0,704万円 | ▲1.67億円 |
| 2026年3月期 | なし | ▲5億4,323万円 | +0.16億円 |
2024年12月期を見てほしい。この期は4.08億円の赤字である。それなのに累積赤字は51.6億円から16.4億円へ、35.2億円も縮んでいる。同じ期に資本剰余金が51.8億円から12.5億円へ 39.3億円減った。この2つの差は、1千円の単位まで一致する(39億3,020万5千円)。会社法上の欠損填補── 資本剰余金を利益剰余金へ振り替えて累積赤字を整理する、純資産の内側だけの処理 である。現金は動かない。
39.3億円という額にも見覚えがある。登記から復元した資本調達78.6億円の、ちょうど半分だ。払込額の半分を資本金へ、残りを資本準備金へ計上する実務と整合する数字ではある。ただし公告では資本剰余金の内訳(資本準備金とその他資本剰余金の別)まで毎期は分からず、この39.3億円がそのまま資本準備金だったとは断定できない。この会社は資本金を1億円へ戻す減資を4回行っており、その振替分も資本剰余金に混ざっている。
そして2回目は、子会社化をまたいだ2026年3月期に起きている。残っていた資本剰余金12億4,812万円が 全額 利益剰余金へ振り替えられ、貸借対照表から資本剰余金の欄そのものが消えた。累積赤字は5.43億円まで縮み、株主資本は資本金1億円と累積赤字だけの、きわめて単純な形になった。
13年で株主から集めた資本剰余金51.8億円は、こうして2回に分けて累積赤字に吸われて残高ゼロになった。欠損填補は株主総会の決議事項だが、決議の時期も目的も、公告にも登記にも載らない。ただ、2回目が子会社化と同じ期に起きていることだけは、公告の日付から確認できる。
4. 新株予約権は「1円のもの」まで消えて、ゼロになった
トレタの登記簿には、11シリーズの新株予約権と1本の新株予約権付社債が記録されている。ストックオプションとみられるものが大半だが、C種・G種の優先株式を目的とするものも含まれており、全部が従業員向けとは限らない。そして登記から確実に言えるのは、発行済株式数の増加として確認できる行使が、この新株予約権付社債によるC種優先株式476株(2016年1月26日)の1回だけ だということだ。それ以外の新株予約権の行使による株式発行は一度も登記されていない(行使の際に新株ではなく自己株式を交付した場合は発行済株式数が増えないため、登記だけでは行使ゼロまでは言い切れない)。この社債が転換された先もC種優先株式であって、普通株式ではない。普通株式の数は2015年以降、1万671株のまま動いていないのだ。
終盤の動きは登記の日付だけで語れる。
- 2025年4月4日:行使価額21万〜26万円台の旧シリーズ3本(第7回12個・第8回64個・第9回525個、計601個)を同日に全部放棄。同じ日に、行使価額1円の新シリーズ2,444個を発行
- 2025年4月7日:残っていた第5回15個も全部消却。同じ日に監査等委員会設置会社と会計監査人設置会社を廃止し、監査役1名の体制へ移行。2018年に整えた体制からの転換である
- 2025年12月26日:G種優先株式を対象にした新株予約権213個を全部放棄
- 2025年6〜11月:行使価額1円のシリーズが2,444個から2,334個へ、小刻みに110個減少
- 2026年1月15日〜20日:同シリーズが2,334個から200個へ、1週間で2,134個減少
- 2026年1月22日:残りも全部放棄。これで登記上の有効な新株予約権はゼロ
- 2026年1月30日:LINEヤフーが株式取得の合意を公表

行使価額1円の新株予約権まで放棄された理由は登記には書かれていない。買収の条件だったのか、別の形の処遇に置き換えられたのかは分からない。確かなのは、LINEヤフーが取得合意を発表した時点で、トレタの株式の数は「いま発行されている4万1,783株」だけになっていた、という順序である。
5. 子会社化の当日、役員が入れ替わった
2026年2月25日──株式取得の完了日──の登記で、取締役4名と監査役1名が辞任し、新たに取締役2名と監査役1名が就任した。残ったのは設立以来の代表取締役、中村仁氏ひとりである。
中村氏はパナソニックと外資系広告代理店オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンを経て、2000年に西麻布で立ち飲み店「壌」を開業した飲食業出身の起業家だ。とんかつ業態「豚組」、豚しゃぶ業態「豚組しゃぶ庵」などを手がけ、2013年にトレタを設立し、以来13年間、代表の交代は一度も登記されていない(経歴は幻冬舎plusの著者プロフィールおよび品川スタートアップナビのインタビューによる)。買収後もLINEヤフー側の発表資料に代表取締役として名前がある。
では、いくらで売られたのか。トレタ側の登記が「新株を1株も発行していない=既存株の売買」と確定させている以上、価格の記録が残るとすればLINEヤフーの側にしかない。そこで上場企業であるLINEヤフーの開示を当たった。
2026年2月25日付の適時開示はA4一枚で、トレタの商号・所在地・代表者・事業内容・資本金・設立日と、「本株式取得による連結業績に与える影響は軽微です」の一文しかない。東証の標準様式にある「取得株式数、取得価額及び取得前後の所有株式の状況」という項目 そのものが存在しない。非開示と書かれているのではなく、価格に触れていない。
決算開示のほうも当たった。2026年3月期の第3四半期決算短信、通期決算短信、有価証券報告書、翌期第1四半期決算短信、決算説明会資料 ── いずれにもトレタの名前がない。 有報の「企業結合」注記に並ぶのはBEENOS・LINE Bank Taiwan・LYST・LINE MANの4件で、トレタは括り書きすらされていない。関係会社の一覧でも「その他125社」に埋もれている。臨時報告書の提出もない。
ここで比較になる材料がひとつある。同じ有価証券報告書の「重要な後発事象」では、T&Dフィナンシャル生命の取得について「取得対価は約1,320億円となる見込みです」と金額が明記されている。 LINEヤフーは、重要と判断した案件については価格を書く会社である。トレタについて書かなかったのは、連結にとっての重要性がその閾値を下回ったからだと読むのが自然だろう(ただし有報がそう述べているわけではない)。売上2兆円規模の会社にとって「軽微」とは、そういう水準を指す。
売り手の表現にも小さな揺れがある。2026年1月30日の合意リリースは両社とも「当社の 経営株主 と」と書き、2月25日の実行リリースは両社とも「 既存株主 との間で締結済みの株式譲渡契約に基づき」と書いている。誰が何株売ったかはどちらにも書かれていない。
ここで、ひとつ整合が気になる。2018年のドコモの出資比率は「39.7%となる予定」だった(前掲・中村氏の説明)。一方でLINEヤフーが取得したのは過半数である。ドコモの持分がその後どうなったのかは、ドコモ・トレタどちらの発表にも、2026年の一連のリリースにも出てこない。
追う手段も乏しい。ドコモの有価証券報告書とNTTの有価証券報告書を確認したがトレタの名は出てこず、ただしこの様式は主要な子会社・関連会社だけを名指しして残りを「その他」で括るため、載っていないことは非該当の証明にならない。しかもドコモは2020年12月にNTTの完全子会社となって上場廃止しており、単体の有価証券報告書そのものが2020年4月以降存在しない。 株主構成は登記事項でもない。つまり ドコモが先に降りていたのか、今回まとめて売られたのかは、公開情報では確定のしようがない。
LINEヤフーの発表は「LINE公式アカウントを起点に、飲食店のDX推進に貢献する予約・CRM型SaaSの構築を目指す」と題され、「トレタ予約台帳」を中核機能の一つとして位置づける としている。中核とされているのは会社そのものではなく製品であり、しかも「一つ」である。同じ発表でLINEヤフーは、飲食業種向けのPOSシステムや理美容業種向けの予約管理システム、全業種向けの顧客管理システムを 自社でも リリース予定だと書いており、トレタだけを中核に据える構図ではない。
その「トレタ予約台帳」は、同発表によれば全国で累計1万9,000店舗超の導入実績を持つ。店内モバイルオーダー「トレタO/X」も提供しているが、そちらの導入店舗数は公表されていない。POS連携の発表は買収の前から続いており、2025年10月にNECモバイルPOS、2026年2月に東芝テック、買収後の3月にスマレジ、8月にワンレジが加わっている。2026年8月には本社を渋谷区千駄ヶ谷の「WeWork リンクスクエア新宿」へ移した(登記上の本店移転は8月1日付。設立地から数えて5か所目の本店である)。
6. 社会保険の被保険者数は3年弱で4割減、その先の陣容はこれから

社会保険の被保険者数は2023年12月の101人から2026年8月には59人へ、3年弱で約4割減った。この数字は社会保険に加入している人の数であって従業員数そのものではなく、減った分の内訳を示す公表もない。損失が年々縮んでいった期間と重なることだけが、データから見える。
会社側の説明もある。中村氏はnoteで「組織とサービスの立て直しを進め、痛みを伴う改革も行い」「明るい未来を見出すことができず、去っていくメンバーもいました」と書いている。ただし人数も時期も書かれておらず、この記述と被保険者数の減り方がどこまで対応するのかは確認できない。
子会社化のあとの動きは、縮小ではなく拡張の建て付けで発表されている。2026年7月1日付で執行役員COOの小林正拡氏が副社長執行役員COOに就任し(同氏は2023年11月入社、2024年3月にCOO就任。会社は「事業構造や組織体制の改革を推進」した実績を挙げている)、8月の本社移転も「事業拡大にともなう組織の成長に対応」し「正社員全員が同時に勤務できる席数を確保」したものだと説明されている。
13年かけて株式と新株予約権付社債で78.6億円を集めて「飲食店の予約」というインフラを作り、コロナ禍で1株の値段を半分近くに落とし、集めた資本剰余金を2回に分けて累積赤字の穴埋めに使い切り、行使価額1円のものまで含めて潜在株式をゼロに畳んだ8日後に買い手の名前が公表され、取得完了の当日に創業者だけを残して役員が入れ替わった──登記と公告に残っているのは、そういう順序である。値段だけが、どこにも残っていない。
トレタ単独の決算公告が今後も出続けるなら、次は2027年3月期。LINEヤフーの中で数字がどう変わるかを確認できる、最初の通年決算になる。
計算方法(Methodology)
- 財務数値は確認できた決算公告10期分(2015年12月期〜2026年3月期)に基づく。2017年12月期・2019年12月期の公告は収録できておらず、「9期が純損失」は確認できた期の集計である。売上高・利益の内訳は全期間で開示されていない
- 2026年3月期は決算期変更(12月→3月)にともなう3か月の変則決算。決算期変更を告げる会社の公表文は確認できておらず、公告の期末日の推移からの判断
- 各ラウンドの1株あたり発行価格は、登記の資本金増加額×2÷発行株数で算出し、登記に記載された優先株式の取得価額・新株予約権の行使価額と突合した(7ラウンドとも一致)。株式調達の累計78.6億円は、増資による資本金増加額の総和×2+設立時払込85.7万円で、円単位で整合する
- 78.6億円のうち1億円は新株予約権付社債(社債1個250万円×40個)の転換分。2016年1月26日にC種優先株式476株(1億円÷行使価額21万円、1株未満切捨て)へ全部行使され、同日の発行済株式総数の増加分+476株と一致する。現金の受領は社債発行時だが、その発行日は下記の欠落した登記簿1通に載るため特定できない
- 管轄外への本店移転で登記簿が作り替えられており、2014年9月22日〜2015年9月24日の1通が取得できていない。この間の発行(普通株式671株・C種96株)は前後の登記簿の差分からの復元で、復元値は資本金の増減と1円単位で一致した。第二回・第三回・第4回の新株予約権と新株予約権付社債の発行日もこの欠落区間に入るため特定できず、株式数の集計には2015年9月24日時点の移記値(それぞれ2,439個・807個・71個・40個)を用いた
- 推定評価額は、各ラウンド最終クローズ時点の1株あたり発行価格に、同時点の株式数を乗じた値。全株式数ベースはF種が2018年12月17日の3万7,388株(発行済3万5,625株+新株予約権1,763株相当)×52万2,000円=約195.17億円、G種が2021年10月29日の4万2,628株(発行済4万1,783株+新株予約権845株相当)×28万1,000円=約119.78億円。発行済株式のみでは同順に約185.96億円・約117.41億円。種類株式ごとの優先権・残余財産分配の差は反映しておらず、現在の企業価値を示すものではない
- 各時点の新株予約権の現存数は、登記の個数変更履歴を全11シリーズ分、効力発生日ごとに復元した現存ベース。全シリーズで「新株予約権の数」欄の個数と「目的たる株式の種類及び数」欄の株数が全変更点で一致することを確認しており、個数=目的株式数として集計した。第4回はC種優先株式71株、第10回はG種優先株式213株を目的とするもので、種類を区別せず単純合算している
- 本文の「約46%」は1株あたり発行価格の下落率、「約39%」は全株式数ベースの推定評価額の下落率であり、両者は別の数字である
- 減資4回(2016・2017・2019・2021年、計約38.3億円)はいずれも株式数の変動を伴わない無償減資。目的は公表されていない
- 従業員数は社会保険の被保険者数(厚生労働省データ)であり、会社が公表する従業員数とは範囲が異なる
- 欠損填補は決算公告の貸借対照表明細(資本剰余金・利益剰余金の各残高)から復元した。2024年12月期は「利益剰余金の増加額 − 当期純損失」=39億3,020万5千円が資本剰余金の減少額と1千円単位で一致、2026年3月期は同じく12億4,812万円が完全に一致する。ただし 欠損填補の決議日・目的は公告にも登記にも記載がなく、上記は残高の突合からの推定である
- 2026年3月期に純資産が黒字でも悪化した件は、2025年12月期末の純資産に計上されていた新株予約権1,684万1千円が同期末に消えていることによる(株主資本は当期純利益と同額の+1,569万円で、差し引き115万1千円が純資産の減少額と一致)
- 新株予約権戻入益についての記述は、失効した新株予約権を利益に戻し入れるという日本の会計基準の一般的な処理と、登記上2026年1月22日までに全シリーズが消滅していることの組み合わせからの 推論 である。決算公告は貸借対照表のみで損益計算書の内訳が載らないため、実際に戻入益が計上されたか、いくらだったかは確認できていない
- LINEヤフーによる株式取得の内容は、両社の2026年1月30日付リリースと2月25日付リリース、およびLINEヤフーが2026年2月25日に提出した適時開示による
- 取得価額を探して、次の資料を実際に確認したうえで「記載がない」と書いている: LINEヤフーの2026年1月30日付プレスリリースおよび2月25日付適時開示(いずれもPDF原本)、2026年3月期第3四半期決算短信、同通期決算短信、第31期有価証券報告書(EDINET)、2027年3月期第1四半期決算短信、2025年度第3四半期および通期の決算説明会資料、EDINETの臨時報告書(2026年1月30日〜3月2日は提出なし)。有報の「企業結合」注記に挙がっているのはBEENOS・LINE Bank Taiwan・LYST・LINE MANの4件で、トレタの記載はない。「重要性が乏しいため省略」という文言も企業結合注記には見当たらない。比較として引いたT&Dフィナンシャル生命の「取得対価は約1,320億円となる見込み」は同有報の「重要な後発事象」の記載
- 2018年12月の第三者割当増資30億円と「累計資金調達額61.3億円」は、NTTドコモ(2018年12月10日)とトレタ(同日)の双方の公式発表による。「出資比率39.7%」は両社のリリースには記載がなく、同日のBRIDGEの取材記事における中村氏の発言(「〜となる予定です」)が出所である
- 「累計80億円くらい」は中村氏の2022年2月16日付noteの記述。登記から復元した同時点の株式調達累計は78.6億円
- 2022年2月の資金調達20.3億円の引受先5社はトレタの発表による。金融機関名およびエクイティ・デットの内訳金額は非公表
ファクトシート
- 商号:株式会社トレタ(設立以来変更なし)
- 設立:2013年7月1日
- 本店:東京都渋谷区千駄ヶ谷五丁目27番5号(2026年8月1日移転)
- 代表者:代表取締役 中村仁
- 親会社:LINEヤフー株式会社(2026年2月25日付で発行済株式の過半数を取得)
- 決算期:3月末(2026年3月期から。旧12月末。公告の期末日からの判断で、会社の公表文は未確認)
- 資本金:1億円
本文で言及した企業