WHERE(旧Penetrator)、B種価格ベースの推定評価額は30.5億円──その後、導入200社超へ
衛星データ×不動産AIのWHERE(旧Penetrator)。登記から復元したB種価格ベースの推定ポストマネー評価額は約30.5億円。ただしそれは2025年3月末、会社が導入50社を発表する半年前の値付けで、その後200社超へ。社名三代・4年分の登記簿と、値付けの後に起きたことを追う。

この記事のポイント
- 衛星データ×不動産AIのWHEREは、登記上は 三代目の社名。2022年2月に「SOOM」として設立され、2023年3月に「Penetrator」、2025年8月に「WHERE」になった
- 外部からの株式調達はA種・B種の2ラウンドで 約6.25億円。優先株式の1株あたり価格はA種4,250円→B種 2万1,192円 で約5倍(設立時の普通株式の払込価格は60円だが、これは創業者向けで性質が違う)
- 完全希薄化後の推定ポストマネー評価額は、A種クローズ時点の 約5.0億円 から、B種最終クローズ(2025年3月31日)時点の 約30.5億円 へ、この2ラウンドの間の1年4か月で 約6.1倍 になった
- ただしこの30.5億円は 2025年3月末の値付け で、記事執筆時点から約1年5か月前にあたる。会社が導入社数50社を発表したのはその半年後、100社が9か月後、そして2026年6月には 200社超 になった
- 会社発表によれば、2025年12月にみずほ銀行など5行から 4.6億円の融資 を受けた。一方でB種優先株式の発行枠は 残り2株。B種をさらに発行するなら、発行枠の変更が先に必要 になる
宇宙から「価値ある不動産」を見つける──衛星データと登記情報を重ねて空き地や駐車場を探し出すサービス「WHERE」を運営する株式会社WHEREは、2022年2月の設立から4年半の会社だ。社会保険の被保険者数は、データで確認できる2024年4月の3人から、2年4か月で50人になった。創業者はJAXA宇宙科学研究所を母体とする総合研究大学院大学で月探査の研究に携わった経歴を持ち、同社はJAXAの公式サイトでも紹介されている。
この会社の登記記録は設立以来1通で、履歴事項全部証明書は13ページ(2026年8月21日取得)。読んでみると、外からは見えない事実がいくつも出てくる。社名が実は三代目であること。「宇宙から不動産へ」というピボットが、取得できた登記からは確認できないこと。そして、B種優先株式の発行枠が残り2株まで使われていること、である。
1. SOOM → Penetrator → WHERE──社名は三代目
登記の商号欄には2回の変更が記録されている。
| 商号 | 期間 |
|---|---|
| 株式会社SOOM | 2022年2月22日(設立)〜 |
| 株式会社Penetrator | 2023年3月14日〜 |
| 株式会社WHERE | 2025年8月1日〜(変更当日に登記) |
「Penetrator」の前に「SOOM」という初代の社名があったことは、確認した範囲では会社の発信にほとんど出てこない。2025年の「WHERE」への変更は、プロダクト名と社名を揃える狙いだと会社が発表している。
面白いのは事業目的(定款)のほうだ。現在登記されている18項目のうち、第1号は「不動産に関するデータの分析」、第2号が「衛星からの映像、写真の分析に関する技術コンサルティング」。目的の筆頭が不動産で、衛星がその後ろに置かれている。
取得した履歴事項全部証明書では、この目的欄の変更履歴は確認できなかった。ただし同証明書には請求時点から一定期間より前に抹消された事項が印字されないため、2022年中に変更されていた可能性までは否定できない。言えるのは「少なくとも取得できた登記からは、『宇宙から不動産へ』という事業目的の変更は確認できない」というところまでで、実際の売上構成の主従も定款からは分からない。
本店も日本橋室町→文京区向丘→文京区湯島(2026年2月6日移転)と2回動いている。社名の変更が2023年3月14日と2025年8月1日なので、4年半で社名も住所も2回ずつ変わったことになる。
2. A種4,250円からB種2万1,192円へ──調達2ラウンドを検算する

登記で確認できる外部からの株式調達はA種・B種の2ラウンドで、いずれも払込額まで復元できる。
| ラウンド | 発行日 | 株数 | 1株あたり | 払込額 |
|---|---|---|---|---|
| 設立(普通株式) | 2022年2月22日 | 100,000株 | 60円 | 600万円 |
| A種優先株式 | 2023年12月7日 | 17,648株 | 4,250円 | 7,500万4,000円 |
| B種優先株式(2回に分割) | 2025年2月26日/3月31日 | 25,951株 | 2万1,192円 | 5億4,995万3,592円 |
A種・B種とも、登記に記載された取得価額×発行株数が「資本金の増加額×2」と 1円単位で一致 する。つまりこの会社では、各増資で払込額の半額が資本金に計上されたことが登記の数字から確認できる。B種の約5.5億円は、会社が2025年4月に「シリーズA・総額5.5億円」として発表したラウンドに対応する(会社の呼称ではシリーズAだが、登記上の種類はB種。以下は登記の呼称で書く)。引受先として発表されたのは、宇宙フロンティア2号投資事業有限責任組合(無限責任組合員はスパークス・アセット・マネジメント)、みずほキャピタル、スカパーJSAT、SMBCベンチャーキャピタル、りそなキャピタル、Great Wave Ventures の6者である。
外部投資家向けの優先株式の1株あたり価格は、A種4,250円からB種2万1,192円へ。この2ラウンドの間の1年4か月で約5倍 になった。設立時の普通株式は1株60円だが、これは創業者向けの払込であって外部調達の単価とは性質が違うので、同じ列には並べない。
会社全体ではどうか。単価にその時点の株式数を掛けると、完全希薄化後の推定評価額(上場企業の時価総額に相当する考え方)は3段の階段になる。
| 段 | 内訳 | 株式数 | 1株 | 推定評価額 |
|---|---|---|---|---|
| A種クローズ 2023/12/7 の ポストマネー | 発行済117,648株(新株予約権は未発行) | 117,648株 | 4,250円 | 約5.0億円 |
| B種の払込直前の プレマネー | 上記+新株予約権321株 | 117,969株 | 2万1,192円 | 約25.0億円 |
| + B種の新規払込 | 25,951株 | ─ | 2万1,192円 | +約5.5億円 |
| B種最終クローズ 2025/3/31 の ポストマネー | 発行済143,599株+新株予約権321株 | 143,920株 | 2万1,192円 | 約30.5億円 |
読み方はこうなる。A種の後の会社は5.0億円の値付けだった。そこから1年3か月のあいだ株式数はほとんど変わらず(増えたのは新株予約権321株だけ)、1株の値段が約5倍になったことで、B種の払込直前の姿が25.0億円 になる。そこへ新しい資金5.5億円が入って、30.5億円 に着地した。
A種ポストの5.0億円とB種ポストの30.5億円を並べれば約6.1倍だが、この差にはB種で新たに入った5.5億円そのものが含まれている。値付けが上がった分と、資金が入って増えた分は別ものである。
A種の時点では新株予約権がまだ1つも発行されていない(第1回の発行は2024年12月)ため、A種のポストマネーは完全希薄化後と発行済ベースが同額になる。B種時点も新株予約権は321株しかなく、発行済だけなら30.4億円で差はごくわずかだ(その後2025年12月に発行された分まで加えても約30.7億円)。いずれも優先株式の権利の差を無視した単純計算である。
そしてこの30.5億円は2025年3月末の数字で、記事執筆時点から約1年5か月前にあたる。 その後の会社の変化は第6章で見る。
3. 2025年12月に集中した資本政策──融資4.6億円、減資、新株予約権2本
2025年12月25日、WHEREはみずほ銀行・北國銀行・日本政策金融公庫・りそな銀行・三井住友銀行の5行から 総額約4.6億円 の融資を受けたと発表した。株式で集めた約6.25億円に対して、デットで4.6億円である。
会社は同じ発表で「創業以来の累計調達額は約11.1億円」としている。登記から復元できる株式調達6.25億円に今回の4.6億円を足すと約10.85億円(設立時の600万円を含めても約10.91億円)で、公表値とは0.2〜0.25億円ほど合わない。丸めの差か、登記に現れない別の資金調達を含むのかは、公表資料からは判別できない。
融資そのものは会社の登記簿には載らない。だが同じ月には、資本政策の動きが2つ登記されている(いずれも登記日は12月26日)。
- 12月12日付:資本金を約3億1,848万円から 1億円ちょうど へ減らす減資(株式数の変動なし)
- 12月25日付:新株予約権2本(第2回648個・第3回150個)の発行
減資といっても株式数は1株も動いておらず、純資産の中で資本金の額を付け替えただけである。会社の現金も純資産の総額も、株主間の持分比率も変わらない。目的は公表されていない。調達した資本の絶対額(6.25億円)と登記上の資本金(1億円)が別物であることだけ、読者としては押さえておけばいい。
もうひとつ、登記から見える「次の一手の条件」がある。B種優先株式の発行可能な枠は2万5,953株で、既に2万5,951株を発行済み── 残りは2株 しかない。つまり B種をさらに発行するなら、発行枠の変更が先に必要 になる。
ただしこれは「次に優先株式で調達するには定款変更が要る」という話ではない。A種の残枠は2,352株あり、普通株式での発行も制度上は可能 だからだ。言えるのは、次回もB種を使うなら枠の拡大が、新しい種類株式を使うならその新設が、それぞれ登記に先に現れる、というところまでである。
4. 新株予約権は全株式数の0.8%──1本だけ行使価額1円
新株予約権は3シリーズ・合計1,119個(1,119株分)が現存する。定款には新株予約権の発行を既発行株式の10%まで許容する趣旨の条項が置かれているが、10%の枠に対して実際の発行は0.77% にとどまる。
目を引くのは行使価額だ。第1回(2024年12月発行、321個)はA種と同じ4,250円、第3回(2025年12月発行、150個)はB種と同じ2万1,192円。一方、第2回(2025年12月発行、648個)だけは1円 で、行使時の払込がほとんど要らない。3本のうち最大の個数がこの1円型である。
誰に割り当てられたかは登記からは分からない。従業員向けのストックオプションなのか、それ以外の目的なのかも、この登記からは判別できない。3シリーズとも行使は上場までできない条件付きで、失効による個数の減少はまだ一度も登記されていない。
5. 決算公告はB種と融資が入る前の1期だけ──総資産5,400万円の時代

確認できた決算公告は1期分。2024年12月期は当期純損失6,359万円、総資産5,416万円、純資産781万円だった。数字だけ見れば小さな赤字の小さな会社だが、この決算はB種5.5億円もデット4.6億円も入る前の姿 である。調達後の貸借対照表が公告されるのは2025年12月期からで、会社の規模は大きく変わっている可能性が高い。
社会保険の被保険者数は2024年4月の 3人 から2026年8月の 50人 へ(加入者ベースの数字であり、会社公表の従業員数とは定義が異なる。2024年4月より前の人数は確認できない)。決算公告が1期しかないこの会社について、継続的に追える外形データのひとつがこれである。ただし人員が映すのは規模の一面にすぎず、この会社の中核資産は衛星データとデータベースなので、人数と事業規模が比例するとは限らない。
6. 値付けの後に何が起きたか──半年で導入社数が倍増した
登記から出せる評価額は2025年3月末で止まっている。その後どうなったかは、登記ではなく会社の発表に残っている。並べると、値付けの時点がいかに早い段階だったかが分かる。
| 時点 | できごと | 出典 |
|---|---|---|
| 2025年3月31日 | B種最終クローズ。推定評価額 約30.5億円 | 登記 |
| 2025年4月2日 | 「単月売上1億円を突破」と発表(「リリースから9ヶ月」の起点は原文に明示なし) | 会社発表 |
| 2025年8月1日 | 商号を「WHERE」へ変更 | 登記・会社発表 |
| 2025年9月 | 導入社数50社 を突破 | 会社発表 |
| 2025年12月23日 | 導入社数100社 を突破 | 会社発表 |
| 2025年12月25日 | 5行から 4.6億円 の融資 | 会社発表 |
| 2026年2月19日 | ライフコーポレーション(食品スーパー、関東・関西300店舗超)が導入 | 会社発表 |
| 2026年2月25日 | データベースが 約7,300万件 に | 会社発表 |
| 2026年6月4日 | 大東建託が導入、同月から運用開始 | 発表 |
| 2026年6月30日 | 導入社数200社超。2025年12月の100社から半年で倍増 | 会社発表 |
| 2026年8月 | 社会保険被保険者数 50人 | 厚生労働省データ |
30.5億円という値付けは、会社が導入社数50社を発表するより半年前の数字である。 その後、100社の発表が9か月後、200社超がさらに半年後。会社が「導入社数」として何を数えているのか(累計か稼働中か、解約や休眠をどう扱うか)は公表されていない。定義に留保はあるものの、会社が公表する導入社数は50社→100社→200社超と増えている。
データベースは会社の表現では「全国の衛星データと不動産情報 約7,300万件」。別途、法務省が管理する不動産登記データと連携して所有者まで分かる仕組みだと説明している。導入先は、大東建託とライフコーポレーションが個別のリリースで、三井不動産・三菱地所・福岡地所が会社のプロフィール上の列挙で名前が出ている。前者2社と後者3社では、出典の強さが違う点は断っておく。
売上1億円の発表にはひとつ引っかかりがある。原文は「2023年6月のβ版リリース、2024年9月の公式版リリースを経て…リリースから9ヶ月で単月売上1億円を突破」だが、公式版起算だと2025年6月になり、発表日(2025年4月2日)より後になってしまう。どちらのリリースを起算点にしているのかは原文に書かれていない。
いずれにせよ、次の決算公告(2025年12月期)と、次に優先株式を出すときの登記が、この伸びを外から確かめられる最初の機会になる。
7. 不動産で複数の会社を経営した人が、月の技術で不動産に戻ってきた
創業者で代表取締役の阿久津岳生氏の経歴は、現在の定款で「不動産」が「衛星」より先に並ぶ構成ともよく符合する。インタビュー(DG Lab Haus、2024年9月)によれば、氏は起業前に不動産関連の事業を複数経営したのち、JAXA宇宙科学研究所を母体とする総合研究大学院大学に入学。月面探査のためのクレーター解析技術に触れ、それを地球の衛星画像から空き地や駐車場を検出する技術へ応用できると考えて、2022年にこの会社を立ち上げたという。
つまり「宇宙の会社が不動産に降りてきた」のではなく、不動産の人が宇宙の技術を取りに行った。社名がSOOMからPenetrator(貫入プローブ)、そしてプロダクト名のWHEREへ変わっていく4年間は、その技術が商売の道具として板についていく過程でもある。
登記に残る値付けは2025年3月末の30.5億円で止まったままだが、その後に会社は導入200社超を発表し、被保険者数は50人になった。次の値付けがどこに置かれるかは、まだどこにも書かれていない。
計算方法(Methodology)
- 登記情報は履歴事項全部証明書(2026年8月21日取得、登記記録は設立以来1通)による。履歴事項全部証明書には請求時点から一定期間より前に抹消された事項が印字されないため、2022年中に事業目的の変更があった場合は確認できない
- 本記事の払込額は一般則からの推定ではなく実測である。 会社法は「払込額の2分の1を超えない額は資本金に計上しないことができる」と定めるだけで、常に半々になるとは限らない。本稿では、登記に記載された各優先株式の当初の取得価額(A種4,250円・B種2万1,192円)×発行株数が「資本金の増加額×2」と1円単位で一致することを確認したうえで、この換算を用いている
- 推定評価額は各時点の1株あたり発行価格に株式数を乗じた値。A種クローズ(2023年12月7日)時点は発行済117,648株×4,250円=約5.0億円 で、この時点では新株予約権が1つも発行されていない(第1回の発行は2024年12月11日)ため、完全希薄化後も同額になる。B種2回目のクローズ(2025年3月31日)時点は発行済143,599株×2万1,192円=約30.4億円、同時点で存在した新株予約権321株分を加えた143,920株ベースで約30.5億円。参考値の約30.7億円は、2025年12月発行分を含む新株予約権1,119株分を加えた144,718株ベース。優先株式の残余財産優先分配などの権利の差は反映していない
- B種の払込直前の推定プレマネー評価額 約25.0億円は、A種クローズ時点の発行済117,648株に当時存在した新株予約権321株を加えた117,969株×2万1,192円=24億9,999万9,048円。これにB種の払込25,951株×2万1,192円=5億4,995万3,592円を足すと、B種クローズ後の30億4,995万2,640円(約30.5億円)と1円単位で一致する。A種ポスト5.0億円とB種ポスト30.5億円の比は約6.1倍だが、この差にはB種の新規払込5.5億円そのものが含まれる
- 株式調達の累計約6.25億円はA種・B種の払込額の合計(設立時の600万円を含めると約6.31億円)。融資4.6億円は会社の発表(2025年12月25日、Wantedly公式ブログ)によるもので、登記簿には現れない。両者を足すと約10.85億円(設立時を含めて約10.91億円)で、同じ発表にある「累計調達額 約11.1億円」とは0.2〜0.25億円の差がある。丸めか、登記から拾えない資金を含むかは公表資料からは判別できない
- 決算公告は2024年12月期の1期分のみ確認できた。他に公告があっても収録できていない可能性がある
- 2025年12月12日の減資(▲2億1,847万8,796円)は株式数の変動を伴わない無償減資。目的は公表されていない
- 従業員数は社会保険の被保険者数(厚生労働省データ)
- 商号の変遷・本店移転・新株予約権の内容はすべて登記の記載による
- 第6章の年表は会社発表と厚生労働省データによる。導入社数(50社・100社・200社超)、データベース約7,300万件、単月売上1億円、ライフコーポレーション・大東建託の導入は会社のプレスリリース、4.6億円の融資と累計調達額約11.1億円は公式ブログ(2025年12月25日)。いずれも原文と一致することを確認したが、数字そのものを独自に検証したわけではない。導入社数が累計か稼働中かの定義、解約・休眠の扱いは公表されていない
- 三井不動産・三菱地所・福岡地所の導入は個別のリリースではなく会社のプロフィール上の列挙による。大東建託・ライフコーポレーションとは出典の強さが異なる
ファクトシート
- 商号:株式会社WHERE(2022年設立時はSOOM、2023年3月にPenetrator、2025年8月1日に現商号へ変更)
- 設立:2022年2月22日
- 本店:東京都文京区湯島四丁目1番16号(2026年2月6日移転)
- 代表者:代表取締役CEO 阿久津岳生(あくつ たけお)
- 決算期:12月末
- 資本金:1億円(2025年12月12日以降)