WHILL、25億円の転換社債を1株410円で株式化──赤字14.5億円でも純資産が16.5億円へ戻った理由
WHILLの2026年3月期は当期純損失14.5億円。それでも純資産は4.5億円から16.5億円へ増えた。2025年秋に25億円を社債=借金として受け取り、年末から翌1月に1株410円で株式へ変えたからだ。810円が5年間動かなかった後の半値転換を、登記と決算公告から追う。

この記事のポイント
- 2026年3月期の当期純損失は 14.5億円(確認できた公告4期はすべて純損失)。それなのに純資産は4.5億円から 16.5億円 へ増えた。回復の主因は利益ではなく、25億円の転換社債が株式に変わった ことである
- 現金が入ったのは2025年9〜10月。社債=借金として受け取り、12月と翌1月に 1株410円 で株式(E1種)へ振り替えた。この社債は期末には残っていないため、確認できた決算公告の貸借対照表には一度も現れない
- 410円は前のラウンド(D種・E種)の 810円のほぼ半分。しかも810円は 2019年から5年以上動いていなかった。E種の最後の払込から10か月で半値である
- E1転換価格を全株式数に当てた推定株式価値は 約271億円。E種時点の同じ計算(810円ベース)の 約499億円 から 約46% 目減りした
- 資本の形は3回変わっている。設立から6年間、資本金700万円のまま米国側で調達していた時代/2018年に現金ゼロで3,127万株が現れた「載せ替え」/そして半値の転換。登記上の払込金額を積み上げると約192億円 になるが、うち 約51.8億円は2018年の再編で計上された分 で、日本法人に入った現金ではない
電動車椅子と近距離モビリティのWHILL株式会社が2026年7月に出した決算公告は、当期純損失 14億5,498万円。損失は2023年3月期の21.8億円から2025年3月期の9.8億円まで縮んだ後、この期に再び広がった。
それでも貸借対照表は前の期より厚くなっている。純資産は4.5億円から16.5億円へ、純資産比率(総資産に占める純資産の割合)は5.9%から19.1%へ回復した。期末の資本金は8,000万円で前の期と同じなのに、である(期中には11.9億円増えてから減資で戻っている。後述)。
赤字なのに純資産が増える。矛盾しているように見えるが、種明かしは1行で済む。この会社は2025年の秋に25億円を「借金」として受け取り、年末から翌1月にかけてその借金を1株410円で「株式」に変えた。 借金が資本へ移った額(25.26億円)が、当期の損失(14.55億円)を上回った。差し引きで純資産が12億円厚くなった、という順序である。
大事なのは順番だ。現金が入ったのは2025年9〜10月 で、株式に変わったのは12月と翌1月。株式化の瞬間に新しい現金が入ったわけではない。決算公告だけを見ると「2026年3月期に純資産が12億円回復した」としか読めないが、登記を見ると「秋に借りて、冬に株に変えた」という順序が見える。設立14年、取得できた登記簿3通・計149ページ(沿革上は4冊で、町田期の1冊は未取得)から、この会社の資本の歴史を掘る。
1. 損失は縮小から再拡大へ、純資産は社債の転換で回復

| 期末 | 当期純損失 | 純資産 | 純資産比率 | 総資産 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | ▲21.76億円 | 24.77億円 | 34.8% | 71.29億円 |
| 2024年3月期 | ▲18.13億円 | 7.65億円 | 12.1% | 63.42億円 |
| 2025年3月期 | ▲9.81億円 | 4.55億円 | 5.9% | 77.57億円 |
| 2026年3月期 | ▲14.55億円 | 16.51億円 | 19.1% | 86.30億円 |
確認できた決算公告4期分は、すべて純損失である。2025年3月期には純資産が4.5億円──総資産77.6億円の会社としてはかなり薄い水準──まで細っていた。
純資産の動きを分解すると、こうなる。

| 億円 | |
|---|---|
| 前期末の純資産 | 4.55 |
| 当期純損失 | ▲14.55 |
| E1種への転換 | +25.26 |
| 新株予約権の減少 | ▲0.07 |
| 説明できない残差 | +1.33 |
| 当期末の純資産 | 16.51 |
損失14.55億円を、転換25.26億円が上回った。それが回復の中身である。
残差1.33億円は、公告からは説明できない。 別の株式発行や資本取引が混ざっている可能性があるが、決算公告は貸借対照表だけで内訳が載らない。2025年10月にはトヨタ紡織などがWHILLへの出資を公表しているものの、金額も転換社債との関係も開示されていないので、そこへ結びつけることはできない。
もうひとつ、この会社の貸借対照表には毎期同じ形が現れる。利益剰余金の残高が、4期とも当期純損失の額とぴったり一致する(2023年3月期▲21.76億、2024年3月期▲18.13億、2025年3月期▲9.81億、2026年3月期▲14.55億)。少なくとも期末の残高を見る限り、前期までの累積赤字は期中に整理され、期末にはその期の純損失だけがマイナスとして残っている。資本剰余金の動き(45.6億円→24.9億円→13.5億円→30.3億円)と合わせると、毎期、資本剰余金による欠損填補が行われているとみられる。毎年3月末の減資も、この資本剰余金を使った欠損整理と整合する(いずれも純資産の内側の振替なので、現金は動かない)。
2. 25億円の転換社債と、半分になった1株の値段

「転換社債型新株予約権付社債」は名前が長いが、やっていることは単純だ。最初は借金としてお金を渡し、後で決められた値段で株式に変えられる 仕組みである。登記を遡ると、2025年9月30日に12億円、10月31日に13億円── 合計25億円(利率年8.0%、転換価額410円)が発行され、E1種はその 転換 として生まれている。
貸借対照表の上での動きはこうなる。
| いつ | 何が起きたか | 資産 | 負債 | 純資産 |
|---|---|---|---|---|
| 2025年9〜10月 | 25億円の社債を発行、現金を受け取る | +25億 | +25億 | 変わらない |
| 期中 | 当期純損失 | 減る | ─ | ▲14.55億 |
| 2025年12月〜2026年1月 | 社債が株式(E1種)へ転換 | 変わらない | ▲25.26億(元本+転換対象となった未払利息等) | +25.26億 |
現金が入ったのは9〜10月。12月の株式化で動いたのは、会社が返さなければならない25億円の借金が、投資家の持つWHILL株に付け替わったことだけである。この社債は同じ期のうちに発行されて消えたので、確認できた決算公告の期末貸借対照表には一度も現れない。 登記を見て初めて存在が分かる。
株式になった量も検算できる。2025年12月26日に579万1,280株、2026年1月31日に36万9,656株、合計6,160,936株。転換価額410円を掛けると 25億2,598万3,760円 で、元本25億円をちょうど2,598万円ほど上回る。この差には未払利息などの転換条件が反映されている可能性があるが、年8.0%の単純な日割り計算とは一致せず、転換計算書も確認できていないため内訳は確定できない。
社債の条項には、一定額を超える資金調達が起きた場合に会社が社債を取得できる定めも置かれている。25億円という枠が使い切られた形になっているのは、この設計と整合する。
注目すべきは価格である。
| D種・E種(2019〜2024年) | E1種(2025年12月〜) | |
|---|---|---|
| 1株あたり払込額(転換価額) | 810円 | 410円 |
| 残余財産の優先分配額 | 810円(参加上限1,100円) | 550円 |
| 払込額に対する優先分配の倍率 | 1.00倍 | 1.34倍 |
| 優先配当 | 64円 | 32円 |
| 払込額に対する配当率 | 7.90% | 7.80% |
まず、410円は「株価が半分になった」という意味ではない。未上場なので市場株価は存在しない。410円は 社債を株式に変えるときに1株をいくらとして計算するか という価格である。たとえば4.1億円分の債権なら、410円なら100万株、810円なら約50.6万株。同じ金額に対して受け取れる株数が、ほぼ倍になる。 既存株主から見れば、それだけ持分が薄まる。
そして表をもう一段読むと、非対称がある。E1種は払込価格410円に対して残余財産の優先分配の基準額が550円で、この比率は 1.34倍。D種・E種の 1.00倍 より手厚い設計になっている。配当は率に直すと7.9%と7.8%でほぼ同じなのに、優先分配の基準額の倍率だけが新しい出し手に厚い。半値になっただけではない、ということである。ただしこれは基準額であって回収額を保証するものではなく、残余財産が足りなければ550円を満額受け取れるとは限らない(E1種が参加型か非参加型かも、登記の条項からは判別できていない)。
したがって「既存のD種・E種より大幅に低い価格で株式化された、ダウンラウンド相当の価格水準」とは言えるが、権利の内容が違う以上、810円と410円は完全に同じ物差しではない。
会社全体で見ると、目減りの幅がはっきりする。各時点の1株あたりの値段に、そのときの全株式数(発行済+新株予約権)を掛けた 推定株式価値 は次のように動いた。E1種の欄は新規の現金増資ではなく 転換価格を全株式に当てた値 なので、他のラウンドと性質が違う点に注意がいる。

| ラウンド | 時期 | 1株 | 全株式数ベース | うち発行済株式ベース |
|---|---|---|---|---|
| C種 最終クローズ | 2018年8月 | 455円 | 約187億円 | 約166億円 |
| D種 第4トランシェ | 2020年4月 | 810円 | 約391億円 | 約336億円 |
| E種 最終クローズ | 2024年11月 | 810円 | 約499億円 | 約404億円 |
| E1種 最終クローズ | 2026年1月 | 410円 | 約271億円 | 約231億円 |
499億円から271億円へ、約46%の目減り である。1株の単価が半分になった一方で、全株式数が 約7% 増えているため、会社全体の落ち込みは単価の下落幅(約49%)よりわずかに浅い。なお発行済株式だけを見ると4,987万株から5,642万株へ 13% 増えているが、転換で潜在株が顕在化したぶんと第8回の放棄で新株予約権が1,174万株から962万株へ減っており、発行済+新株予約権の合計では7%増 にとどまる。いずれも優先権の差を無視した参考値であり、企業価値の確定額ではない。
表をもう一度見てほしい。D種(2019〜2020年)とE種(2022〜2024年)は、どちらも810円である。 つまり1株の値段は2019年から2024年11月のE種最終クローズまで、5年以上まったく動いていない。そのE種の最後の払込から わずか10か月後 に、半値の転換社債が発行されている。5年間据え置かれた値段が、10か月で半分になった、という時間の形をしている。
ここで、もうひとつ「無いもの」に触れておきたい。25億円という規模の調達を、WHILL自身は一度も発表していない。
2025年10月31日にはトヨタ紡織などがWHILLへの出資を発表しており、この日付は13億円ぶんの社債(第2トランシェ)が発行された日と同じである。ただし発表しているのは 出資者側だけ で、WHILL自身はこの調達をリリースしていない。金額も出資比率も非公表なので、日付が一致することは言えても、同一の取引かどうかまでは公表資料からは確認できない。
会社が調達を発表しない理由は公表されていない。ただ、前のラウンドの半値で株式化される調達だったことと、会社が沈黙していることは、並べて置いておく価値がある。
3. 資本金700万円のまま6年──2018年の「載せ替え」

WHILLの登記簿で最も不思議なページは、2018年5月にある。
この会社は2012年5月、品川区西五反田のビルの一室で設立された。母体は2009年秋に発足したエンジニア集団「Sunny Side Garage」である。会社が公開している創業ストーリーによれば、これを中心になって立ち上げたのはソニーで車載カメラを開発していた内藤氏とオリンパスで医療機器を研究していた福岡氏(名古屋大学大学院の同級生)で、元日産自動車のデザイナーで世界を放浪していた杉江理氏は後から加わった。翌2013年には米国市場を目指してシリコンバレーに拠点を開いている。以後、会社の調達ニュースは「WHILL, Inc.」──米国法人──の名前で流れ、日本法人の資本金は設立時の700万円・発行済2万株のまま、6年間まったく動いていない。
それが2018年5月に変わる。5月28日に 1株だけ を発行して資本金を4.9億円へ引き上げた直後、5月31日に発行済株式が2万1株から 3,127万9,898株 へ跳ね、普通株式・S種普通・S種優先・A種・B種・C種という6種類の株式が一斉に出現した。このとき 資本金は1円も増えていない。同じ日に、定款の目的へ持株会社機能の条項が追加されている。
5月28日の1株発行で資本金が約4.83億円増えているが、その払込が現金だったのか現物出資だったのかは登記からは確認できない(1株を非常に高い価格で現金発行すること自体は制度上可能である)。一方で、その3日後には資本金を1円も増やさないまま発行済株式が約3,128万株へ増え、6種類の株式が一斉に現れている。
米国側に資本構造が存在したことは、外からも裏が取れる。官民ファンドのINCJは2014年に、米国カリフォルニア州の WHILL Inc. へ最大900万ドルを出資すると公表している。これらを合わせると、米国側にあった株主・資本構造を日本法人へ移す何らかの再編が行われた可能性は高い。株主名簿ごと日本へ引っ越すような操作、と言えばイメージしやすいだろうか。ただし法的な手法(株式交換か、現物出資か、別の組織再編か)は登記からは確認できない。
以後、調達の主体は日本法人に移り、資本の歴史が日本の登記簿に刻まれ始める。
以後の調達は日本法人が主体になる。2018年8月にC種で23.4億円──ただし会社は同年9月18日に「WHILL株式会社が 約50億円 の資金調達を実施」と発表している。登記に現れるC種の払込額はその半分弱で、差がどこから来るのかは公表資料からは分からない──、2019〜2020年にD種で ほぼ60億円ちょうど、2022〜2024年にE種で31.5億円、そして2025〜2026年のE1種で25.3億円。
株式の種類は現在9種類あり、登記に記された1株あたり払込金額×株数を積み上げると 約192億円 になる。ただしこれは 日本法人に払い込まれた現金の累計ではない。内訳はこうなる。
| 金額 | |
|---|---|
| 2018年5月31日の再編で計上された分(S種普通・S種優先・A種・B種・C種の一部) | 約51.8億円 |
| その後の調達(C種23.4億+D種60.0億+E種31.5億+E1種25.3億) | 約140.2億円 |
| 合計 | 約192.0億円 |
前半の51.8億円は、現金が日本法人へ入った記録ではなく、載せ替えのときに計上された値段である。2024年7月には、株主だった官民ファンドのINCJが保有全株式をEight Roads Ventures Japan IIIへ譲渡して退出した。
4. 「売上高80億円」の条件が付いた2つの新株予約権
登記簿の新株予約権の欄には、この会社が2021年に置いた目標が残っている。
2021年11月発行の第9回新株予約権(325万個、行使価額2,000円)には、「2023年3月期から2026年3月期までのいずれかの期において売上高80億円超」という業績条件が付いている。同じ条件を持つ第8回(200万個、行使価額201円)もあった。
第8回は 2025年3月31日に全部放棄 された。放棄の理由は登記に書かれず、第9回は行使期間が残っている。売上高は公告に載らないため条件の達成状況は確かめられない。
ただし、消えた方と残った方の組み合わせには目を引く点がある。放棄されたのは行使価額201円の第8回で、残っているのは行使価額2,000円の第9回 である。行使価額が安いほど、権利としては行使しやすい。その安い方が全部消えて、10倍高い方が残った。
もっとも、新株予約権の価値は行使価額だけで決まらない。業績条件、在籍・退職の条件、行使期間、割当対象者、取得・消却の条件でも変わる。両者の保有者も付与条件も放棄の理由も登記には書かれていないため、この逆転から理由を推定することはできない。 登記の事実は、日付と個数だけである。なお放棄の日付は、25億円の社債が発行される約半年前にあたる。
このほか、新株予約権の欄には珍しい仕組みが2つある。どちらも「お金ではないものを出資して株式に変える」設計だ。
ひとつは、官民ファンド(海外交通・都市開発事業支援機構=JOIN)などの 貸付債権を出資して行使する タイプ(第10回シリーズ、累計約8.2億円分)。JOINがWHILLに貸したお金を、返してもらう代わりにWHILL株で受け取れる、という予約である。現金を動かさずに借金を株式へ替えられる点で、2025年の転換社債と発想は同じで、それをあらかじめ登記に置いてある形になる。
もうひとつは、カナダドル建ての行使価額で「SA Mobility Holdings, Inc. の Exchangeable Share」を出資して行使するタイプ(第12回シリーズ、行使期間は 2044年まで)。カナダ側の関係会社の株式を差し出すと、日本法人の株式が受け取れる交換窓口である。海外子会社の株主を、いつでも日本法人の株主に一本化できる仕組みを、18年先まで開けてあることになる。
借入債権も、海外関係会社の株式も、最終的に日本法人の株式へ集約できる経路が、複数あらかじめ用意されている。2018年に米国から株主を載せ替えた会社が、いまも資本の一本化を設計に組み込み続けている、と読める。
資本金の欄では、2019年以降、3月末の決算期前後に資本金を8,000万円へ引き下げる無償減資が6回 確認できる。直近は2026年3月30日の13.29億円の減資で、変更と登記が同日だった。減資は純資産の中の振替であり会社の資金は動かない。目的は登記からは分からないが、株式数は一度も減っておらず、株主の持分にも影響しない。
5. 事業の現在地──空港のMaaSと、折りたためる1台
事業は2本柱だ。電動車椅子・近距離モビリティ(Model C2、折りたたみ式のModel Fなど)の開発・販売と、空港や商業施設で機体を自動運転で走らせるMaaS事業。羽田空港では2023年に国際線ターミナルへ導入が広がった。2026年4月にはパリ・オルリー空港で「フランスの空港では初」として 運用が始まり、6月にはヒースロー空港の第3ターミナルで 実証 が、8月にはシンガポール・チャンギ国際空港での採用が発表されている。会社によれば自動運転サービスは世界約30拠点で運用され、累計の利用件数は100万回を超えた(2026年8月時点)。展開は約30の国と地域に及び、会社発表のグローバル従業員は約350名(2024年9月時点)。日本法人の社会保険被保険者数は2024年10月の139人から2026年8月には126人と、緩やかな漸減にとどまる。
製品の安全に関しては、2019年12月に「Model C」系4,584台のリコール(スイッチボックスのボタンが繰り返しの負荷で劣化し、使用中に電源が切れたりスピードが変わるおそれ。対応はスイッチボックスを改善品と交換する無償修理)が、2024年2月にはModel S用充電器の銘版表示の不備(安全性への影響はないと会社が説明し、正しい表示ラベルを送付)が公表されている。以後の大きな製品事故の報道は、確認した範囲では見当たらない。
創業からの14年で、本店は西五反田→町田→横浜→東品川と4か所を移り、登記簿も4冊に分かれた(うち町田期の1冊は未取得)。創業時の取締役3人のうち、現在も残るのは代表取締役の杉江理氏だけである。
6. 資金の入り方が3回変わった会社
2026年3月期は、25億円を秋に借金として受け取り、冬に前のラウンドの半値で株式に変えて、純資産を立て直した期だった。資本金700万円のまま米国で戦った6年、現金ゼロで3,127万株が現れた2018年の載せ替え、そして半値での転換──14年分の登記簿は、資金の入り方が3回変わった会社の記録として読める。純資産16.5億円は直近1期の損失とほぼ同じ規模でしかない。次に資本が入るときの1株の値段が410円を上回るのか下回るのか。そこに、この会社の評価の向きが出る。
計算方法(Methodology)
- 財務数値は確認できた決算公告4期分(2023年3月期〜2026年3月期)に基づく。他に公告があっても収録できていない可能性がある。売上高・利益の内訳は全期間で開示されていない
- 登記情報は履歴事項全部証明書(2026年5月26日取得)と閉鎖登記簿2通(横浜期・設立期、2026年8月21日取得)による。町田期(2014年6月〜10月)の登記簿1通は未取得だが、前後の登記簿の引継記載から、この期間に資本金・株式数の変動がないことを確認した
- E1種の転換検算(全体):2025年12月26日に5,791,280株、2026年1月31日に369,656株、合計6,160,936株。×410円=25億2,598万3,760円で、社債元本25億円を2,598万3,760円上回る。この差には未払利息などの転換条件が反映されている可能性があるが、年8.0%の単純な日割り計算とは一致せず、転換計算書も確認できていないため内訳は確定できない
- 個別に見ると、2025年12月26日ぶんは資本金増加11億8,721万3,203円×2=23億7,442万6,406円に対し、5,791,280株×410円=23億7,442万4,800円で差1,606円
- 純資産のブリッジ:前期末4億5,454万円 − 当期純損失14億5,498万円 + E1種への転換25億2,598万円 − 新株予約権の減少672万円(736万9千円→65万円)+ 残差1億3,265万円 = 当期末16億5,147万円。残差1億3,265万円は決算公告からは説明できない(公告は貸借対照表のみで内訳が載らない)
- 決算公告4期とも「利益剰余金の残高=当期純損失の額」で一致しており、前期末の累積赤字を資本剰余金で毎期全額填補しているとみられる。資本剰余金は45億6,292万円(2023年3月期)→24億9,056万円→13億4,776万円→30億2,581万円(2026年3月期)と推移した。欠損填補の決議日・目的は公告にも登記にも記載がなく、残高の突合からの推定である
- 種類株式の払込金額ベース累計約192億円(19,199,466,492円)は、登記に記載された各種類の1株あたり払込金額×株数の合計であり、日本法人に払い込まれた現金の累計ではない。2018年5月31日の再編で資本金の増加を伴わずに計上された分は 5,178,584,997円(約51.8億円)、その後の調達は14,020,881,495円(約140.2億円)で、合計が上記に一致する。この再編の法的な建て付け(現物出資・株式交換等の別)は登記からは確認できない
- 推定株式価値は、各時点の1株あたりの値段に、同時点の発行済株式総数(+現存する新株予約権の目的株式数)を乗じた値。E1種の欄は新規の現金増資の価格ではなく転換価格であり、他のラウンドとは性質が異なる。 内訳は次のとおり。C種2018年8月=36,423,451株/4,650,272株、D種2020年4月=41,458,203株/6,761,725株、E種2024年11月=49,873,835株/11,738,480株、E1種2026年1月=56,426,599株/9,622,103株。優先株式ごとの優先権・行使条件の差は反映していない
- 新株予約権の残高は、登記の個数変更履歴を全27系統(ストックオプション18系統+転換社債9本)について効力発生日ごとに復元した現存ベース。第4回のみ1個=普通株式100株 で、他は1個=1株であることを個数列と目的株式数列の突合で確認した。転換社債に付された新株予約権は目的株式数が算式(未償還元本+未払利息÷転換価額)のため、E1種として顕在化するまでは潜在株式に含めていない
- 2020年6月〜2022年6月は、取得できたどの登記簿にも変更が写らない(現行の履歴事項全部証明書はこの期間に抹消された事項を印字せず、横浜期の閉鎖登記簿は2020年6月12日で終わる)。この間にD種が265万株、E種が283万株増えているが効力発生日を特定できないため、D種は2020年4月時点、E種は2024年11月時点を評価額の点とした
- 無償減資6回の効力日は2019年3月28日・2020年3月18日・2023年3月21日・2024年3月21日・2025年3月30日・2026年3月30日(2021年・2022年分は下記の表示制約により残高からの復元)
- 現行の履歴事項全部証明書には、2023年1月1日より前に抹消された事項が印字されないため、2020年6月〜2022年6月の資本金の中間推移(D種後半・E種初回の発行と2021・2022年の減資)は残高からの復元による
- 本文の「純資産比率」は純資産÷総資産。決算公告は貸借対照表の要旨のみで、自己資本と純資産を厳密に区別できるだけの内訳がないため、自己資本比率ではなく純資産比率と呼んでいる
- 従業員数は社会保険の被保険者数(厚生労働省データ)であり、会社発表のグローバル従業員数(約350名)とは範囲が異なる
- リコール情報はNITE(製品評価技術基盤機構)および経済産業省の公表資料(2019年12月9日)による
ファクトシート
- 商号:WHILL株式会社(設立以来変更なし)
- 設立:2012年5月11日
- 本店:東京都品川区東品川二丁目1番11号(2020年6月移転)
- 代表者:代表取締役 杉江理
- 決算期:3月末
- 資本金:8,000万円(2026年3月30日以降)