SecureNavi、ストックオプションを配る5日前に投資家の条項を書き換えた ── 消えた新株予約権371個と持株会社化
SecureNaviは2026年4月23日、投資家向け新株予約権の希薄化防止条項に役職員向けストックオプションを除く但し書きを加え、5日後に第4回の898個を発行した。この順序と半減した第2回、7月の持株会社化を登記・公告・被保険者数で追う。

この記事のポイント
- 2026年4月23日、投資家向けの第1回新株予約権の条項に「役職員向けストックオプション(発行済株式の15%以内)は行使価額の調整対象外」とする但し書きが加わり、その5日後の4月28日に役職員等向けの第4回新株予約権898個が発行された。行使価額92,100円は、投資家の権利の108,477円を下回る。両手続きの関係は公表されていない
- 2024年12月に775個発行された第2回新株予約権は、2026年8月までに404個へ減った(減少の原因は登記からは特定できない)。登記上の行使期間は2026年12月20日からで、減少は行使できる期間が始まる前に起きている
- 7月1日の新設分割のあと、社会保険の被保険者数は旧法人87人(8月取得)から持株会社18人+事業会社69人(9月取得)に分かれた。持株会社の発行済株式23,468株・資本金1億円に、分割に伴う増減は登記上ない
- 登記の4種類の優先株式から試算した株式による調達は約18.1億円。C種優先株式の1株192,550円で全株式を換算した参考評価額は、発行済株式ベースで約45.2億円、潜在株式を含めて約47.0億円(2025年10月30日時点、転換比率1対1・未調整を仮定。会社公表の評価額ではない)
ISMSやPマークといった情報セキュリティ認証の取得と運用をクラウド上で進める「SecureNavi」。それを提供してきたSecureNavi株式会社は、2026年7月1日に社名を SecureNaviホールディングス株式会社 に変えた。同じ日、事業のすべてを新しく設立したSecureNavi株式会社へ引き継いだ。会社が挙げた理由はガバナンスの高度化と権限委譲である。
持株会社化そのものは、会社が理由を公表している。この記事が追うのは、その3か月前に登記簿へ残った、確認できた公開資料では関連が説明されていない順序のほうだ。4月23日、投資家向けの新株予約権の条項が変わった。4月28日、役職員等向けの新株予約権898個が発行された。5日差である。そして前の回に付与された新株予約権は、1年8か月で半分近くが消えている。登記簿2通(2026年6月と9月に取得)、決算公告3期分、社会保険の被保険者数から、顧客のガバナンスを支える会社が自分の資本と組織をどう組み替えたのかを並べる。
1. 4月23日と28日──登記の条項にだけ残った5日の順序

登記簿には4回分の新株予約権(あらかじめ決めた価格で株式を受け取れる権利)が載っている。第1回は2024年5月に発行された184個で、目的はB種優先株式(配当や清算時の分配で普通株式に優先する権利を付けた株式)、行使価額は1株108,477円。B種優先株式の発行価額と同じ値段で、投資家向けの設計である。この第1回には、上場申請に向けて取締役会が申請基準となる決算日を決めた時点で会社が全部を取り上げ、代わりに普通株式を目的とする別の新株予約権を交付する、という条項が付いている。
その「代わりの新株予約権」の条項に、行使価額の調整式がある。当初の行使価額は第1回と同じ108,477円で、会社がそれを下回る価額で普通株式の新株予約権を発行すると、行使価額が下がる仕組みだ。下げ幅は加重平均、つまり既にある株式数と新しく出る株式数の割合で価格をならす計算で決まる。後から安い価格で株式が出たときの経済的な不利益を緩和する、いわゆる希薄化防止の条項である。
2026年4月23日、この条項に但し書きが加わった。登記簿には変更前と変更後の条文が並んで載っており、加わったのは次の一文である。「ただし、会社の取締役又は従業員に対してストック・オプション目的で発行される新株予約権を発行する場合(その目的たる株式の総数が発行時点における会社の発行済株式総数(自己株式を除く。)の15%を超えない場合に限る。)には行われない。」
5日後の4月28日、役職員等向けの第4回新株予約権898個が発行された。行使価額は92,100円。第1回の108,477円を下回り、898株は発行済株式の3.8%で但し書きの15%に収まる。但し書きがないままなら、この発行が将来交付される権利の行使価額を下げる調整事由に数えられる余地があった。ただし、交付前の発行が交換後の権利にどう反映されるのか、また同じ条項にある別の号(新株予約権を含む潜在株式の安値発行を調整事由とする定め)との関係がどうなるのかは、登記の条文からは確定できない。なお第3回の条項では潜在株式の定義に新株予約権が含まれておらず、同じ文言の但し書きでも除外の及ぶ範囲は第1回と同じではない。
確認できるのは日付の前後関係である。同種の但し書きは、A種からC種までの優先株式の取得価額の調整条項と、2025年11月に発行された投資家向けの第3回新株予約権には最初から入っていた。第1回だけに無かった。同種の但し書きを第1回にも入れてから役職員等に新株予約権を付与した、という登記の並びが確認できる事実で、二つの手続きが連動していたのか、なぜ4月だったのか、誰が求めたのかは公表されていない。条文上は、将来交付される投資家側の権利の保護範囲が、この但し書きの分だけ狭まった。今回の898個に関して投資家が何かを手放したと言えるかどうかは、発行要項や関連契約を見なければ分からない。
もう一つ、登記からは答えの出ない点がある。2024年12月に発行された第2回新株予約権は、行使価額64,000円で、やはり108,477円を下回る。こちらは但し書きのない時期の発行だった。この発行が将来の調整に数えられるのかどうかも、登記の条文からは判断できない。
2. 第2回新株予約権は775個から404個へ──行使期間が始まる前に

第2回新株予約権は2024年12月20日に775個で発行された。役職員や顧問などの身分を失った場合に会社が無償で取得できる条項が付いており、役職員等へのインセンティブ目的とみられる。この775個は、登記上9回の変更を経て、2026年8月3日には404個になった。第2回だけで371個、率にして48%が1年8か月で消えた。減少は2026年に入って速く、1月時点の699個が8月には404個である。
この減少は行使によるものではない。登記された第2回の行使期間は2026年12月20日から2039年12月19日までで、減少はすべて行使できる期間が始まる前に起きている。普通株式の数も2024年12月以降1万株のまま増加の登記がない。
減少の原因が退職に伴う失効か、放棄か、他の理由かは登記の個数推移だけでは特定できない。参考に別の公開データを同じ期間で並べると、社会保険の被保険者数は第2回発行時の2024年12月に74人、2025年9月に98人、2026年8月に87人だった。新株予約権は保有者ごとに個数が違い、被保険者数は加入と脱退の差し引きなので、両者を対応させる単位はない。この並びから退職者数を読むことはできない。
一方で、新しい付与も続いている。第4回の898個は4月28日に発行され、その後6月22日に889個、8月3日に872個へ減った。第4回の行使期間は2028年4月28日からで、こちらもまだ始まっていない。9月時点で役職員等向けとみられる2回分の現存数は404個+872個の1,276個で、投資家向けの第1回184個・第3回207個を含めた4回の合計は1,667個になる。行使価額は第2回の64,000円から第4回の92,100円へ44%上がった。古い回が減り、新しい回が発行され、それも減り始めている。減少と新規発行が制度の組み替えとして対応しているのかは確認できない。
3. 持株会社化──会社の説明と、採用情報が語る方針

4月の2つの変更に先立つ4月1日、この会社は取締役会設置会社・監査役設置会社になった。少なくとも2024年4月以降、取締役は代表取締役CEOの井崎友博氏1名で、株式の譲渡は株主総会が承認する創業期そのままの機関設計だった。そこへ取締役3名と監査役1名が一度に加わって取締役は計4名となり、譲渡の承認機関は取締役会に変わった。持株会社の公式サイトによれば、加わった取締役3名のうち2名は取締役COOと取締役CAOとして社内の執行を担い、残る1名が社外取締役である。社外取締役は、2022年のプレシリーズAをリードしたモバイル・インターネットキャピタルの担当者で、同社のリリースに出資者コメントを寄せていた人物と同名である。常勤監査役1名の所属は公表されていない。就任日はいずれも登記の4月1日である。
そして7月1日。登記簿には「東京都港区西新橋三丁目23番6号SecureNavi株式会社に分割」と記された。同じ日に商号が「SecureNaviホールディングス株式会社」へ変わり、事業目的に「株式等の保有を通じた企業グループの統括及び運営」の1号が加わった。情報サービスやセキュリティ支援など従来の目的はそのまま残っている。新設分割とは、会社の事業を切り出して新しい会社に承継させ、その対価として新会社の株式を受け取る手続きである。持株会社側の発行済株式総数23,468株と資本金1億円に、分割に伴う増減は登記上ない。新株を発行して外から資本を入れた形ではなく、会社が自分の中で、経営と事業を二つの法人に分けた形だ。新しい事業会社の資本金は、求人サイトの企業概要欄に1,000万円と記載されている。
分離が人の配置にも及んでいることは、社会保険の被保険者数に表れている。8月初めに取得したデータでは旧法人側に87人、9月初めに取得したデータでは持株会社側に18人、事業会社側に69人の被保険者が記録されていた。合計は87人で一致する。分離と噛み合う変化だが、個人単位の移動や実際の配置日は公開データからは分からず、どの職種が持株会社に残ったのかも分からない。
会社の説明は、持株会社の公式サイトに7月1日付で載っている。背景は「事業規模および組織が拡大するなか、お客様のガバナンスを支える企業として、当社自身の経営基盤・コーポレート・ガバナンス体制をより一層強固なものにする必要がある」。目的は、経営管理機能と業務執行機能を分離してグループ経営の透明性を高めること、そして事業会社に執行の権限を委譲して市場の変化に速く対応することの2点である。両社の代表取締役CEOは井崎氏が務める。
この発表に上場という語はない。一方、会社の採用情報にはあった。求人媒体に掲載されていたCFO候補の求人(2026年9月に確認)には、シリーズCへの対応、IPOを見据えた管理体制の構築、主幹事証券や監査法人との折衝、M&Aの推進が業務として掲げられていた。IPOやM&Aを経営課題として置いていること自体は、登記から推測しなくても会社の公開情報で確認できる。ただし求人の掲載日は確認できておらず、4月や7月の時点で同じ内容だったとは言えない。今回の会社分割とこれらの方針との直接の関係や、上場時期・主幹事証券・監査法人の選任状況も確認できない。
時期の重なりをもう一つ挙げる。6月16日、分割前の旧SecureNavi株式会社は「グループ企業・大規模組織のセキュリティ運用を統合管理する」製品「SecureNavi Control」を発表した。親会社が定めた基準を子会社に一括適用しつつ、各社が独自の運用を持てる階層型の管理基盤だという。2023年の「コンパウンド」の宣言どおり、製品はISMSとPマークの「SecureNavi」のほかにも広がっている。SOC2対応の「Fit&Gap」。委託先やグループ会社のリスク評価を担う「2線の匠クラウド」。セキュリティチェックシートにAIで回答する「SecureLight」。経済産業省などが検討する評価制度に対応する「スタークエスト」。グループのガバナンスを管理する製品を出した2週間後に、会社自身がグループになった。製品が再編の理由だったとは書けないが、テーマの重なりとして記録に残る。
4. 決算公告3期──損失を上回る増資が、純資産を戻した

| 期末 | 当期純損益 | 総資産 | 純資産 | 負債 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023年12月期 | ▲0.98億円 | 5.14億円 | 4.59億円 | 0.55億円 | 89.3% |
| 2024年12月期 | ▲2.82億円 | 4.29億円 | 1.77億円 | 2.52億円 | 41.2% |
| 2025年12月期 | ▲5.54億円 | 14.37億円 | 8.22億円 | 6.15億円 | 57.2% |
確認できた決算公告は3期分で、いずれも当期純損失(税金などを反映した最終的な損益のマイナス)である。他に公告があっても収録できていない可能性はある。損失の幅は2024年12月期に前期の2.9倍、2025年12月期にさらに2倍へ広がった。2025年12月期の5.54億円は単純に月割りすると約4,600万円で、月間の資金流出額を示すものではない。
純資産の動きは、一本の引き算でつながる。2024年末の純資産1.77億円に、後述するC種優先株式の払込額11.99億円を足し、2025年の純損失5.54億円を引くと8.22億円。2025年末の純資産と一致する。損失を上回る増資が入り、純資産が戻った。これは公告の数字を使った概算のつなぎであり、株主資本等変動計算書を検証したものではない。

損失の中身は公告からは分からない。決算公告には売上高も営業損益も載らない。会社側の公表値を並べると、2023年11月のシリーズA時点では「社員が26人」「ARRは2億を超え」だった(井崎氏のnote、2023年11月16日)。2025年11月のシリーズB時点では「売上高は前回資金調達時から約3.5倍」「顧客数1,200社超」とある(同社プレスリリース)。導入社数は2023年12月の400社超から2025年4月に1,000社、2025年11月に1,200社超へ増え、2026年8月と9月のリリースでは1,400社超とされている。社会保険の被保険者数は2024年6月の49人から2025年9月の98人まで倍増し、その後は96人前後の横ばいを経て2026年8月には87人まで減っている。売上の成長と人員の倍増、そして損失の拡大が同じ時期に並ぶ。ただし売上の比較は調達時点どうし、人員は月次、損失は期どうしで、比較の期間はそろっていない。損失が費用のどの部分から出ているのか、採算が改善しているのかは、公告の数字からは確認できない。
貸借対照表の側では、総資産が4.29億円から14.37億円へ3.3倍になった。増えたのはほぼ流動資産(14.27億円)で、C種の払込がこの期に入ったことと符合する。負債も2.52億円から6.15億円へ増え、うち固定負債は3.21億円である。負債の内訳は公告に載らないため、借入かどうかは公告からは分からない。自己資本比率(総資産に占める自己資本の割合)は89.3% → 41.2% → 57.2%と動いた。
なおこの3期の数字はいずれも 分割前の旧SecureNavi株式会社のもの である。この点は最後にあらためて触れる。
5. 登記の4種類の優先株式と、参考評価額

登記簿の「発行済株式の総数並びに種類及び数」の欄には、普通株式1万株のほかにA種・A2種・B種・C種の4種類の優先株式が載っている。投資家から資金を集めるたびに種類を増やしてきた形で、この会社の登記には、それぞれの1株あたり発行価額が明記されている。
| 種類 | 株数 | 1株あたり発行価額 | 払込額 | 公表された調達 |
|---|---|---|---|---|
| A種優先株式 | 1,906株 | 68,206円 | 1.30億円 | プレシリーズA 1.3億円(2022年3月公表) |
| A2種優先株式 | 1,000株 | 10,000円 | 0.10億円 | ― |
| B種優先株式 | 4,333株 | 108,477円 | 4.70億円 | シリーズA 4.6億円(2023年11月公表) |
| C種優先株式 | 6,229株 | 192,550円 | 11.99億円 | シリーズB 12億円(2025年11月公表) |
| 合計 | 13,468株 | 18.09億円 | 累計「18億円」(会社公表) |
A種の1.30億円はプレシリーズAの公表額1.3億円と一致し、C種の11.99億円はシリーズBの12億円とほぼ一致する。B種は登記の4.70億円に対し公表が4.6億円で、約1,003万円多い。シリーズAの公表から1か月後の2023年12月にHENNGEとの資本提携が公表されており、金額は非公表である。差額がその分に当たる可能性はあるが、公表額は丸められている可能性もあり、対応は確認できない。A2種の1,000株は1株1万円と他の種類株式より一桁安く、いつ誰に発行されたかは登記からは分からない。
C種については検算が一円単位で合う。2025年9月29日に4,673株、10月30日に1,556株が発行され、それぞれ資本金が4億4,989万3,075円、1億4,980万3,900円増えた。増加額の2倍は8億9,978万6,150円と2億9,960万7,800円で、192,550円×株数とどちらも差がない。この会社のC種では、払込額のちょうど半分が資本金に計上されたことが登記の数字から確認できる。シリーズBではSBIインベストメントとモバイル・インターネットキャピタルがリードに立った。新規の引受先はNTTドコモ・ベンチャーズ、日本ベンチャーキャピタル、マクニカ、SMBCベンチャーキャピタルなど9社に及ぶ。登記のC種優先株式の枠は1万株で、発行済みは6,229株。3,771株分の器が空いたままになっている。
2023年11月16日、代表取締役CEOの井崎友博氏はシリーズAの発表に合わせてnoteを公開している。そこにはこうある。「実は今回の資金調達発表に至るまで、10社以上の投資家に断られる、ブリッジファイナンスの検討、着金日の度重なる変更など、多くの困難がありました」(note「SecureNavi、シリーズAで4.6億円の調達と、その先の未来」、2023年11月16日)。同じ記事で氏は「情報セキュリティの世界でコンパウンドスタートアップとして事業展開を行っていきたい」と書いている。
4種類の合計は約18.1億円で、会社が公表する「累計18億円」と噛み合う。普通株式1万株の払込額は、2024年3月に本店が管轄をまたいで移転した際の登記記録の移記(同年4月1日登記)より前の情報のため、この登記簿からは確認できない。
資本金は2024年12月と2025年12月の2回、1億円へ減らされている。2回目はC種の2次クローズから2か月後で、7億円近くあった資本金を1億円ちょうどに戻した。減資は登記上の資本金を減らす手続きで、現金の流出を伴うとは限らない。登記上の資本金の減少だけでは会社の現預金や資金流出の有無は判断できないが、少なくとも、資本金が1億円になったことをそのまま会社の保有資金が1億円になったと読むことはできない。

優先株式の1株あたり発行価額は、A種68,206円、B種108,477円、C種192,550円と上がってきた。A種からB種へ59%、B種からC種へ78%の上昇である。A2種の1万円は払込時期と相手が登記から分からないため、この推移からは除いている。役職員向け新株予約権の行使価額は第2回64,000円、第4回92,100円で、第4回の92,100円はC種の192,550円の48%に当たる。行使価額は普通株式の評価を参考に決められることが多いが、算定方法は公表されておらず、普通株式の評価そのものではない。優先株式には残余財産の優先分配などの権利が付くため、普通株式の価格が優先株式より低いこと自体は珍しい形ではない。
C種の192,550円を株数に掛けた参考評価額は、2025年10月30日の2次クローズ時点で、発行済株式23,468株ベースで約45.2億円。登記で把握できた潜在株式(当時現存していた第1回184個と第2回749個、いずれも1個1株)933株を含めた24,401株では約47.0億円になる。潜在株式を加えたことによる換算額の増分は約1.8億円で、新株予約権そのものの価値を評価した額ではない。この数字は、権利の異なる普通株式と各種類の優先株式をすべてC種の発行価格で換算した単純換算である。優先株式には残余財産の1倍優先分配や、借入・新規事業・定款変更など20項目に及ぶ拒否権が付いており、普通株式と同じ価値ではない。各種類株式の転換比率に調整が生じていないと仮定し、当初の1対1で換算した。実際に投資家が合意した企業価値は公表されていない。
6. 次の公告から、事業の数字は二つの法人に分かれる
9月9日、持株会社は第6期の決算公告と並べて、資本準備金(株主の払込額のうち資本金にしなかった部分など)9億471万2,718円を減少させる公告を出した。減少額は資本準備金の全額に当たる。会社法上、資本金に組み入れない準備金の減少額はその他資本剰余金(株主の払込のうち資本金にも準備金にもしていない部分)になる。債権者が異議を述べる期間を経て効力が生じるため、公告の時点では手続きに入った段階にある。減資と同じく純資産の中の勘定の組み替えで、資金を新たに獲得する手続きではない。累積損失9.88億円を抱えた会社が、持株会社になった直後に準備金を全額取り崩す手続きを公告した、という順序が確認できる事実であり、その目的と今後の処理は公表されていない。
読者にとって実益があるのは次の点だ。SecureNaviの財務を調べる人は、これから二つの法人の公告を見なければならない。持株会社は法人として同じ会社なので公告は続き、2026年12月期の損益には分割前の1月から6月の事業の損益も含まれる。公告される項目や粒度によっては、二つを追っても事業全体の採算までは分からない。加えて7月1日以降、新設分割で承継した事業の資産・負債は事業会社側に計上され、持株会社の貸借対照表には事業会社の株式が載る。同じ法人の公告が続いても、そこに含まれる事業と資産の範囲が変わる。現預金や負債が両社にどう配分されたかは、現時点では確認できない。事業会社の初めての公告も、期末の残高には承継後の営業や資金の動きが混ざるため、7月1日に何をいくら承継したかをそこから復元することはできない(事業会社の決算期は未確認)。二つの公告を足しても、会社間の取引が消えないので連結の数字にはならない。
4月1日に取締役会と監査役を置き、4月23日に投資家向けの条項を直し、4月28日に役職員等へ新株予約権を付与し、7月1日に法人を分け、9月9日に剰余金の形を変える手続きに入った。顧客のガバナンスを支える会社が自分のガバナンスを組み替えた半年の順序は、登記と公告にこのように残っている。それぞれの手続きが一つの計画だったのかは公表されていない。2025年12月期に4.29億円から14.37億円へ膨らんだ貸借対照表が二つの法人にどう分かれて載るか、そして404個まで減った第2回の権利が行使期間の始まる12月以降どう動くか。次の公告と登記で確かめられるのは、そこからである。
計算方法(本記事固有のメモ)
- 参考評価額はC種優先株式の1株あたり発行価額192,550円(登記の種類株式の内容欄に明記、実測)に株数を掛けた換算額で、発行済株式ベースは23,468株、潜在株式込みは24,401株(発行済23,468株+第1回新株予約権184個+第2回新株予約権749個、2025年10月30日時点)。第2回の個数は、2025年10月30日以前で最後の変更(2025年8月29日、749個)の値を採用した。第3回・第4回は当時未発行のため含めない。全種類の優先株式は発行価額と取得価額が等しく当初の転換比率は1対1で、評価基準日までに取得価額の調整が生じていないと仮定した。潜在株式は上場企業の時価総額の株数には含まれないため、本記事では「時価総額」の語を使わず参考評価額と呼ぶ
- C種の資本金組入は、資本金増加額(4億4,989万3,075円+1億4,980万3,900円)の2倍が発行価額×株数と一致するため、払込額の半額と確認できた(実測)。A種・A2種・B種は発行価額と株数が登記に明記されているが、払込日と各回の資本金組入額は2024年4月の移記より前の記録のため確認できない。移記時点の資本金3億511万5,744円は、3種類の払込額合計6.10億円の半額(3億501万5,738円)と約10万円の差で、設立時の普通株式の払込に相当する規模である
- 第1回新株予約権の但し書きは、上場申請時に第1回と引き換えに交付される「他の新株予約権」の行使価額調整条項に加えられたもので、登記簿には2026年4月23日変更(5月7日登記)として変更前後の条文が併記されている。行使価額調整式は加重平均型(既発行株式数×調整前行使価額+新発行株式数×1株あたり払込金額)÷(既発行株式数+新発行株式数)
- 純資産のつなぎ(1.77億円+11.99億円−5.54億円=8.22億円)は決算公告と登記の数値による概算で、その他の純資産の増減を反映していない
- 累積損失の期別分解は、2025年12月末の利益剰余金▲9億8,769万3,000円から各期の当期純損失を差し引いた。2023年12月期の期首に残っていた繰越欠損は▲5,335万7,000円である
- 決算公告の貸借対照表は千円単位で表示されており、2023年12月期は端数処理により資産の内訳合計と資産合計に2千円、負債・純資産側に1千円の差がある
- 代表取締役の氏名は登記では「井﨑」、会社の公表資料では「井崎」と表記される。本記事は公表資料の表記に合わせた
- 「2021年2月に合同会社から株式会社へ組織変更」は国税庁法人番号公表サイトの商号変更履歴(2021年2月22日)による。2024年4月の移記より前のため、手元の登記簿には記載がない
- 社会保険の被保険者数は各月初めに取得した公表データで、人数の基準日は取得日と一致しない。雇用者数そのものでもなく、加入条件や雇用形態の変更でも動く
- 分割後の事業会社(新しいSecureNavi株式会社)の登記簿は本記事の時点で取得しておらず、承継した資産・負債の範囲は未確認である。事業会社の資本金1,000万円は求人サイトの企業概要欄の記載による。決算期は未確認
- 優先株式の「上場申請時の転換」は、取締役会が上場申請を承認し、かつ主幹事証券会社から要請を受けた場合に会社が優先株式を取得して普通株式を交付できる、という取得条項である
- CFO候補の求人の記載は会社の採用情報によるもので、掲載日・更新日は確認できていない
- 第2回・第4回新株予約権の行使期間は登記上それぞれ2026年12月20日〜2039年12月19日、2028年4月28日〜2036年4月27日。取得条項の対象には役職員のほか顧問・アドバイザー等との契約関係が含まれる。第4回898株の発行済株式(23,468株)に対する割合は約3.8%
参考にした主な外部情報
- SecureNaviホールディングス株式会社「持株会社体制への移行に関するお知らせ」(2026年7月1日、同社サイト)および同社サイトの経営メンバー欄
- 井崎友博氏 note「SecureNavi、シリーズAで4.6億円の調達と、その先の未来」(2023年11月16日)
- SecureNavi株式会社 プレスリリース(プレシリーズA 2022年3月1日/HENNGEとの資本提携 2023年12月21日/シリーズB 2025年11月6日/SecureNavi Control 2026年6月16日、いずれもPR TIMES)
- SecureNavi株式会社 採用情報(CFO候補の求人、求人サイトの企業概要欄)
ファクトシート
- 商号:SecureNaviホールディングス株式会社(2026年7月1日に SecureNavi株式会社 から商号変更。2020年1月21日設立、2021年2月に合同会社から株式会社へ組織変更)
- 事業会社:SecureNavi株式会社(2026年7月1日設立、新設分割により全事業を承継)
- 本店:東京都港区西新橋三丁目23番6号(両社同一。2026年4月1日に品川インターシティから移転)
- 代表取締役CEO:井崎友博(両社)
- 決算期:12月(持株会社)
- 機関設計(持株会社):取締役会設置会社・監査役設置会社(2026年4月1日設定)。取締役4名、監査役1名
- 発行済株式総数(持株会社):23,468株(普通株式10,000株、A種1,906株、A2種1,000株、B種4,333株、C種6,229株)。発行可能株式総数10万株
- 資本金(持株会社):1億円(2025年12月26日以降)
- 新株予約権:4回合計1,667個(2026年9月時点)
- 社会保険被保険者数:持株会社18人、事業会社69人(2026年9月初め取得のデータ)
本文で言及した企業